放課後の誰もいない理科実験室でガラスの割れる音がした。壊れた試験管の液体からただようあまい香り。このにおいをわたしは知っている――そう感じたとき、芳山和子は不意に意識を失い床にたおれてしまった。そして目を覚ました和子の周囲では、時間と記憶をめぐる奇妙な事件が次々に起こり始めた。
思春期の少女が体験した不思議な世界と、あまく切ない想い。わたしたちの胸をときめかせる永遠の物語もまた時をこえる。

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漸くですが、書評を挙げます。

有名どころですね、『時をかける少女』。

理科実験室の掃除中に何者かが作ったらしい液体の香りを嗅ぎ、以降主人公の和子に時を駆ける能力が備わってしまう、というSF小説です。

液体は何だったのか?

液体を作った人物とは誰だったのか?

液体からはラベンダーの香りがした、という設定で、それがどう関わって来るのか疑問でした。

でも、物語の最後でラベンダーの香りに不思議な期待と予感を感じる和子を見て、胸が熱くなる気がしました。

確かにラベンダーはどこか懐かしい香りがします。

SFなのに淡い恋愛小説でもあり、読む人の胸に暖かいものを灯します。

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昭和の物語、という事で全体的に時代掛かった口調や文章ですが、面白さが全く損なわれません。

時を駆ける能力は横文字でタイムリープというそうで、当時珍しかったと思う単語なのですが、21世紀の現在も時間を操れない現代人からしてみたら、とても面白く興味深い設定です。

そして…時代に関係無く、いつか素敵な王子様や老紳士が迎えに来てくれる、というのは女の子の憧れですよね。

だからいつになってもこの物語が支持続けるのだと思います。

不思議なものや、甘く切ない想いはいつの時代の女の子も大好きですからね。

目の前で謎の液体が入った試験管が割れている不可思議事件やらタイムリープする少女やらが現れても、周囲は全く何も疑わずに協力出来る、というのも思春期の特権ですよね。

思春期って良いな。

仲間って良いな。

多分、現実世界の冷めた現代人が同じ事を言われても信用しないと思うのですが、二次元世界の仲間達の様でありたい、というのが私の憧れです。

主人公の和子みたいにタイムリープが備わっても、それを話せる程信頼出来る仲間が欲しいですし、逆にそんな大切な事を相談されて協力を惜しまない仲間でありたい。

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『悪夢の真相』、『果てしなき多元宇宙』という話も一緒に収録されてありました。

『果てしなき多元宇宙』に存在する多元宇宙の考え方が好きでした。

1枚の布を思い浮かべます。

この世界を時間の連続と考え、時間を横糸だと考えます。

そして縦糸の1本を私達が住んでいる世界だと考えます。

他の縦糸は、別の世界、別の空間、別の宇宙です。

隣り合った糸同士は似ていて、例えば1秒前と1秒後の時間(横糸)がそっくりの様に、今いる縦糸の私と隣の縦糸にいる私も良く似ている筈。

恐らくは隣の世界にいる私もブログを書いているでしょう。

でも20本離れた縦糸の私は会社で残業しているかもしれませんし、100本以上離れていたらその私はベストセラー作家かもしれません。

閣僚かもしれないし、主婦かもしれません。

その考え方がとても面白くて、夢中になって読みました。

宇宙は広い。

そう考えれば私の悩みなんかとてもちっぽけに思えて来ます。





放課後の校舎は、静かでなにかしらさむざむしい。ときどきどこかの教室のとびらのあけしめされる音がだれもいない廊下にうつろにひびく。講堂のピアノでだれかがショパンのポロネーズをひいていた。