家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、うそに見えてくる――。
唯一の肉親の祖母を亡くしたみかげが、祖母と仲の良かった雄一とその母(実は父親)の家に同居する。日々のくらしの中、何気ない二人の優しさにみかげは孤独な心を和ませていくのだが……。世界二十五国で翻訳され、読みつがれる永遠のベスト・セラー小説。

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今日は書評。

ちゃんと書けるか心配だけど(汗)

唯一の肉親が亡くなった事で、天涯孤独になってしまった桜井みかげ。

祖母と仲の良かった田辺雄一と、その母・えり子に引き取られて、そこで生活する事になり、暖かくも冷たくも無い2人の穏やかさにみかげは心を和ませて行く。

ざっくり書くと、そんな内容です。

この本には表題作である『キッチン』と、他に2篇が収められています。

大切な人を亡くしてしまったみかげが、穏やかな優しさに心を和ませて行く、という良くあるタイプの再生の物語かと思いましたが、ひと味違いますね。

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『キッチン』と、続編の『満月』(これも収められています)を読んでいると、何故か心がとても淋しい、冷たい感覚に囚われます。

生きて行くという事は、冷えた指先に息を吹き掛けながら、騙し騙し進む…そんなものなのかもしれません。

淋しかったり冷たかったりする感覚は嫌なものでは無く、むしろ自分のそういう一面も抱えて生きたくなる様な、そんな複雑な感覚にさせられます。

普通の人だったら、淋しさや冷たさは嫌なものだと思うのかもしれませんが、この孤独感は何だか好き。

寒い秋の日の感傷に似ている気がします。

淋しい、冷たい、でも、太陽の穏やかさが心地良い。

『キッチン』はそんな物語です。

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泉鏡花賞を受賞した『ムーンライト・シャドウ』も収められているのですが、この物語も良いのです!

恋人を亡くしたさつきという少女が、川に架かった橋で不思議な女性・うららと出会います。

うららは川で百年に一度の見ものがある、というのですが、川に来ると恋人を思い出すさつきはどんどん窶れて痩せて行って、という内容です。

私はこの、うららという不思議な女性が好きでした。

自由奔放に生きているのかもしれないうららは、誰かに似ている気がします。

あぁ、『MISSING』(本田孝好/双葉文庫)に収められている、『瑠璃』の登場人物であるルコをもう少し逞しくした様な…そんなイメージかもしれない。

後で投稿しますが、ルコは恋愛をして少し弱くなりました。

うららは強くなった気がします。

うららの台詞に「別れも死もつらい。でもそれが最後かと思えない程度の恋なんて、女にはひまつぶしにもなんない。」(P.196)というのがあって、なんて男前な女性なのだろう!と思いましたから(笑)

生きて行くのに痛みは付き物です。

傷付くのは生きているからです。

でも、若ければ若い程、自分にそんな災難が降り掛かる日が来るだなんて、想像出来ません。

だから逃げてばかりいます。

この本に収められたものは全て、逃げずに前へ進む為の何かを得る為の物語です。





「風邪はね。」うららは少しまつげをふせて淡々と言った。「今がいちばんつらいんだよ。死ぬよりつらいかもね。でも、これ以上のつらさは多分ないんだよ。その人の限界は変わらないからよ。またくりかえし風邪ひいて、今と同じことがおそってくることはあるかもしんないけど、本人さえしっかりしてれば生涯ね、ない。そういう、しくみだから。そう思うと、こういうのがまたあるのかっていやんなっちゃうって見方もあるけど、こんなもんかっていうのもあってつらくなくなんない?」そして、笑って私を見た。