江戸有数の廻船問屋の一粒種・一太郎はめっぽう体が弱く外出もままならない。ところが目を盗んで出かけた夜に人殺しを目撃。以来、猟奇的殺人事件が続き、一太郎は家族同様の妖怪と解決に乗り出すことに。若だんなの周囲は、なぜか犬神、白沢、鳴家など妖怪だらけなのだ。その矢先、犯人の刃が一太郎を襲う…。愉快で不思議な大江戸人情推理帖。日本ファンタジーノベル大賞優秀賞。

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今日は書評。

『しゃばけ』は再読です。

花の江戸、廻船問屋・長崎屋の一人息子・一太郎。

大店の病弱な若だんなは、実は妖怪に守られて暮らしている不思議な人物です。

ある日、外出した一太郎は夜道で人殺しと行き合ってしまいます。

以降、江戸では似た様な身分の者が、似た様な事を言う犯人(犯人はそれぞれ別人)から襲われる事件が頻発。

被害者は全員が薬種問屋、加害者に共通点は無し。

この事件の裏側にいるモノは何なのか?

ざっくり書くと、そんなお話です。

時代物ですが、一太郎の推理する様子を見ているとミステリーである事も解ります。

また、人情噺でもあります。

江戸の廻船問屋・一太郎とその家族、妖怪で家族同然の仁吉(白沢)、佐助(犬神)、そして一太郎を助けてくれる妖怪達、近所に住む幼馴染で菓子屋の息子・栄吉、岡っ引きの清七親分。

皆、それぞれの事情を抱えて生きています。

貧富の差がある江戸で、上手く行かない事が多い世界で、皆が共存しています。

一太郎は身体が弱いせいでろくに仕事も出来ずに、廻船問屋と同じく長崎屋が経営している薬種問屋を任されているのですが、実際には何もさせて貰えません。

江戸に住む人々は、それぞれの陰に潜む懊悩とか妬みや嫉み、焦りが見え隠れして、凄く人間臭くて良いです。

物語にありがちな“人間離れしている”というキャラクターばかりでは無い所に好感を持つ事が出来ます。

時代物の中でも、江戸が舞台の物語は人情噺が多いですが、『しゃばけ』も期待を裏切りません。

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私、事件の裏側に姿無きものが不思議な形で関与している、というタイプの物語も好きらしいですね。

姿無きものの姿を見て、声を聴く事の出来る唯一の人が、上手い具合に事件を解決する、みたいな物語。

他にパッと思い付くのは『陰陽師』(夢枕獏/文春文庫)でしょうか。

姿が見える唯一の人はいつだって心優しい、正義感のあるキャラクターの気がします。

無駄な殺生を好まないから、どうにかして姿無きものと折り合いを付けようとする。

一太郎もまた、そういうキャラクターである気がします。

姿無きものが関与する事件を解く鍵は、いつだって人では無いものを視る“眼”を持つ人物の推理力です。

そういう意味で、ファンタジーでもあり、ミステリーでもあるのがこの物語です。

多くを語ると魅力を損ねますのでぼんやりとしか書けませんが、ファンタジーでミステリーで時代物で人情噺なので、ビビッと来た方は1度読んでみて下さい。

読み易く優しい文章で、難しい言葉は何も使われておりません。

あぁ、そうだなー…今より成長したい、殻を打ち破りたいと強く願う方には、是非読んで頂きたい物語です。

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※少しだけ腐的妄想です。苦手な方はリターンして下さい。

佐助×仁吉か、仁吉×一太郎が良いと思うのですよ…(小声)

ドラマ版、観てないけど一太郎が見るからに可愛い感じの受的外見だった事は記憶にある…。





「人が欲しくてたまらないものは、それぞれなんだろうね。煩悩(ぼんのう)がつのれば、金をつぎ込んでも惜しくなくなる。欲が深いよね、我々は……」