リナはおまわりさんの地図をたよりに、「霧の谷」へ向かった。森にたちこめていた霧が晴れると同時に見たものは、まるで外国へでもきたような小さな町であった。風変わりな町に住む、風変わりな人たちを、作者が心から楽しく語る手作りのファンタジー。講談社児童文学新人賞受賞。
(読んだのは講談社文庫で、所持しているのはその文庫と改訂前の講談社青い鳥文庫ですが、現在でも手に入り易い新装版の講談社青い鳥文庫のリンクを貼りました)
***
一時期流行りましたね、この本。
といっても、リアルタイムで「千と千尋の神隠し」の映画が公開された時期に読書の趣味があった方にしか流行っていないかもしれませんが…。
この本はあのジブリの名作、「千と千尋の神隠し」の原作になった小説です。舞台は違いますが。
意地悪な魔法使いのお婆さんに“自分の食い扶持は自分で稼ぐ”様に言われた小学生の女の子が、魔法使い達と一緒に事件を解決したりする物語です。
ちなみにハクに該当するキャラは登場しません。私の主観ではいない様に思えました。
舞台は“霧の谷”という地名で知られる、霧の多い町で、ふーっと霧が解けたらそこには町があった、というくだりは少し「千と千尋の神隠し」の雰囲気に近いかもしれません。
只、この物語で現れた町は北欧やドイツを連想させる童話チックな可愛い町でした。
私のイメージ的には同じ魔法使いなら「ハリー・ポッター」に近いと思いました。
人々は魔法使いなので人間にはナンセンスだと思える事をわざわざしたり、また心掛けが人間とは違っていたりするのですが、夢見がちな方だとそういう所に心が惹かれると思います。
四季の花がいつも色とりどりに咲いている庭、食べても太らないお菓子を作るお菓子屋さん、人間が姿を変えたという瀬戸物を扱う骨董屋…。
最初はリナも魔法使いの魔法に驚いてばかりいたのですが、段々町の人達に認められ、愛されて行く様子が心暖まります。
リナが下宿している魔法使いのお婆さん…ピコット婆さんというのですが、彼女だけは偏屈でリナに意地悪をします。
でも負けずに笑い飛ばすリナが素敵。
どうも“魔法で作業”をしたり、“主人公に意地悪”だったり、“主人公にだけ心を開いて”いたり、「ハリー・ポッター」と重なります。
魔法が使えなくても、一生懸命に何かに打ち込む姿はそれだけで奇跡を起こせる、と思いました。
逆に魔法が使える事をおごって一生懸命さを失ったら、この町では生きて行けないと思います。
やっぱり児童向けなので、所謂ご都合主義だと思える場面もありましたが、逆に冷や冷やしたりバッドエンドを想像したりしないで済みました。
逆に言うならご都合主義なのでは無くて、本当に一生懸命さが奇跡を起こしていたのかもしれません。
そんな場面を読んでいると、やっぱり何事にも全力で打ち込むという事は大切だと思い知らされました。
全力だと成功した時に嬉しいですし、失敗しても悔いが残りませんからね。
期待を裏切りません。
良い意味でも悪い意味でも本当に期待を裏切らず、ほんのり心が暖かくなる小説です。
***
冒頭は読み辛いと思う方もいると思います。東北北部の方言を使うお巡りさんが登場しますが、頑張って読んでみて下さい!
東北北部というか、リアルに私の近所にいそうな言葉遣いばかりで、私にはむしろ読み易かったです。
…という事は、霧の谷の舞台は私の近所にあるのかもしれません(笑)
「あいかわらずみてえだね。でも、欠点のない人間ほどつまらねえものもねえんでさ」