中学校に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。

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久々に再読。

大人気ですね、この物語は。

人にも因りますが私は、心にザクザクと刺さって古傷を抉る物語よりは、心が暖かくなって元気を貰える様な物語が好きです。





まいは西の魔女ことおばあちゃんが大好きなのですが、このおばあちゃんは英国人で、魔女修行を受けた正真正銘の魔女でした。

魔女というのはぶれない心を持った意志の強い人で、1度決めた事は最後までやり通す、そういう人を指します。

作中でまいはおばあちゃんから、魔女になる為の精神を鍛える為には先ず、早寝早起きする事を勧められます。

まいは「そんな簡単な事で、」と反論するのですが、そんな簡単な事がそう簡単に出来ない人もいる訳で。

作中のまいも夜は2〜3時まで起きている、というキャラクターだったので、何と無く自分と比べてしまいました。

魔女になる為に必要な事は早寝早起き、と言われたら、私には全く出来る気がしません。

簡単な様で難しい…。

人間は誰だって面倒な事は、やりたくありません。

…そう思わない人こそが魔女、自分の心を制御出来るから魔女なんだ、と思います。

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今までやっていた事が出来なくなったり、例えば何の差し支えも無く通っていた学校へも急に明日から行く気が無くなったり、という経験をした事がある方もいると思います。

まいはそういう中で、おばあちゃんの家での静養を勧められてひと月余りを過ごす訳ですが、その中でやっぱりまいは決して怠け者という訳では無い、と思います。

おばあちゃんから「ずっとここにいたいならいても良い」と言われた後のまいの台詞が、単に楽な方向を選んでいる訳では無いまいの性格を表している、と思います。

おばあちゃんはとても優しくて、甘やかしている訳では無いのですが、楽に生きる事に罪悪感を持たなくて良いという事に関しても語っています。

「その時々で決めたらどうですか。自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮(はす)の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」(P.162)

この台詞はいつ読んでも、暖かいです。

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この物語は、特に最後の3ページは読むと涙が溢れます…。

私はそうそう感動して泣いたりしない方なのですが、特に愛情という気持ちに感動する事はそうそう無いのですが、『西の魔女が死んだ』は違います。

読んでどう思うか、は人それぞれです。それまで生きて来た人生や経験値、考え方が違う為、感想は一口には語れないと思います。

日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞、小学館文学賞受賞作。

賞を受賞した作品は読まない、読む気が無いという方にもお勧めしたい作品です。





「そうね、何が幸せかっていうことは、その人によって違いますから。まいも、何がまいを幸せにするのか、探していかなければなりませんね」