名作『銀河鉄道の夜』の幻の第五次稿にはダイヤモンドの隠し場所を記(しる)す暗号があった……!
妻と息子が誘拐された!童話作家修業中の中瀬研二(なかせけんじ)は、誘拐犯の思惑(おもわく)を探る。狙(ねら)いは、妻・稔美(としみ)が、亡き父から在(あ)りかを知らされていたらしいダイヤモンド!?
誘拐犯たちに先回りして家族を救出するため、研二は賢治童話の謎を探り始める。
注目気鋭(きえい)の第一長編、登場!

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「鯨さんの小説が面白い」

というと、多分「馬鹿ミスが面白い」と言っている様に捉えられると思うのですが…緊迫した作品です。第一長編のせいか、物凄い気迫を感じます。

働きながら童話作家への夢を諦めきれず、公募に応募を続ける研二。
貧乏に悩まされながらも夫を支えて頑張る妻の稔美。

稔美の亡き父は宮沢賢治の研究家であり、独自の調査で『銀河鉄道の夜』の幻の第五次稿を発見していた、という設定です。

※『銀河鉄道の夜』とは岩手県の作家・宮沢賢治が死の直前まで改稿を繰り返した、永遠の未完の傑作です。

『銀河鉄道の夜』どころか宮沢賢治の作品は殆ど読んだ事の無い研二が、仲間達とこの謎に立ち向かいます。警察に「宮沢賢治がダイヤモンドの鉱脈を発見していて、その在処をしる妻と息子がさらわれた」と話しに行くのですが一向に相手にされず、

研二は自分に思いを寄せる宮沢賢治に詳しい同僚や、頼りになる隣人、昔から悪友仲間の友人達と手を組んで誘拐犯に立ち向かいます。

誘拐犯はどこにいるのか?

稔美や息子は無事に帰って来るのか?

有りもしない鉱脈の話に惑わされているのでは無いのか?

宮沢賢治は本当に鉱脈を発見していたのか?

鉱脈があるとすればどこなのか?

そして幻の原稿に書いてあった言葉とは?

謎があり過ぎるのですが、研二は持ち前の頭の良さで1つ1つ謎解きをして行きます。

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『邪馬台国はどこですか?』や『九つの殺人メルヘン』、『みなとみらいで捕まえて』とは比べ物にならないシリアスタッチな物語で、先ずそこに面食らいました。

いつもの鯨さんの物語は、とぼけたボケ役と気の強いツッコミ役が必ず、と言って良い程配置されているのですが、見当たりません。

おまけに稔美はさらわれて痛めつけられるわ、研二は警察から信用されないわ、早くしないと稔美は殺されるかもしれないわ、で読んでいて心が痛みます。

勿論宮沢賢治の原稿に対する推理も絡んで来るのですが、2時間サスペンスがお好きな方なら喜んで受け入れられる種類の骨組みです(2サスよりずーっと深いですが)。

犯人も“意外な犯人”で、宮沢賢治に興味の無い方でもこれは評価の大きい作品なのでは無いか、と思います。

…興味の無い方でも評価は大きい、ですが歴史や本、史実を媒体にしたミステリー小説を書かせたら、鯨さんはやっぱり天才だと思います。

しっかり理詰めなので、宮沢賢治に興味のある方だといちいち頷いてしまう推理ばかりだと思います。





(宮沢賢治が七色のダイヤモンドの鉱脈を発見していたなどということに、信憑性(しんぴょうせい)がはたしてあるのだろうか)