ほんとのはなし

今でも思い出す謎のはなし。

中学三年生のころ、国語の担当の先生に校内放送で呼び出された。クラスメイトの女子と一緒に。その女子はいわゆる一軍の陽キャで、嫌な感じの子ではないが性格が違いすぎるのでほとんど会話をしたことがなかった。その子をAさんとする。

校内放送で呼ばれるのは珍しかったが、僕とAさんはあまりに接点が無さすぎたので、なんか頼まれ事があってランダムで僕ら2人が選ばれたんだと思った。僕らは特に友達ではないので別々で職員室に行った。
僕が先で、後からAさんが職員室についたんだった気がする。
2人がそろうと、国語の先生はつい先日受けたテストの回答用紙を2枚、僕らの前に広げて置いた。
名前欄には、2枚とも僕の名前が書かれていた。

先生の話だと、テストの丸つけをしていたら僕の答案用紙が2枚あったと。そして、Aさんの答案用紙が無いとのこと。
不思議なことに、2枚とも、出席番号も氏名も名前の漢字も間違いなく僕のものだった。でも筆跡が全然違う。自分の字は自分でわかるというか、内一枚は明らかにギャルっぽい丸文字だった。先生も、「こっちがAさんのものだと思うが、一応2人に確認してほしい」と言った。

僕以上に驚いていたのはAさんで、答案用紙を見た途端、自分の字で僕の名前を書いていることに気づき、「えっ?!えっ?ええっ?!」と叫んでいた。

自分で言うとアレなんですけど、僕は中学生のころは成績が常に学年上位3位以内に入る優秀さだったので、率直に言うと、先生はカンニングを疑ったようだった。当事者2人同時に呼んで率直に言いすぎだろと今では思う。時代かな。今ではそんな対応はしないと思う。
ただ、僕とAさんの席はそこそこ離れていたし、回答の内容も違っていて、僕もAさんもいつも通りの感じの点数になったらしい。点数が違うので、字面や点数から憶測しないで事実確認のために僕らを呼んだとのこと。

この件に関しては僕は何もしていない。名前を間違えて書いたのはAさんだけだ。僕は何を答えることも、どうすることもできなかった。Aさんは終始隣で、「え、、、えー?」と言っていた。
カンニングでもなく、Aさんの反応から悪意があったわけではないともわかった先生は、急に面白がって「不思議ねぇえ、Aさんあなたなんでやしちさんの名前書いたの」と笑った。Aさんは「え、あたしにもわかりません…」と言った。
Aさんは先生の指示の元、その場で名前を書き直し、僕とAさんは教室に帰ってもよいということになった。

クラスメイトだから同じ教室に戻るのに、道中、僕らは特にこの件に関して何も言わなかった。何も会話せず、歩幅も特に合わせず、バラバラに戻った。

教室に戻ったら、Aさんは陽キャグループの子達にこの件を笑って話すだろうと思った。「こんなことがあってさー」とか言って、仲間内で大笑いして、もしかしたらこっちにも話を振られるかもしれない。嫌だなあと思った。

嫌だなあと思っていたが、Aさんは何ともない顔をしてスンと席に戻って、陽キャグループの子たちもわざわざ「何の用だったの?」とかも聞かなくて、テストの返却の際も、当たり前だけど先生はクラスのみんなの前では「こんなことがあって……」なんて言わなくて、
何事もなく、何事もなく、この件は終わった。

今でもこのことを思い出すのは僕だけなんだろうか。僕の名前を書いた張本人のAさんは、思い出す?何百人もの生徒を見てきた国語の先生は、こんなようなこと他にもあったのかな?

僕はなんだか、これは特別なことだったような気がして、何度も思い出している。