2014-2-25 23:17
【とある少年の卒業】
ぼくは、道にある黄色い線を踏んで歩くのを卒業する。
横断歩道の白いラインだけを踏んで歩くのを卒業する。
片手で花を摘みながら歩くのを卒業する。
夢を見る日々から卒業する。
友人たちは、あいまいに微笑んだ。
期待していた将来なんてそんなもんだ。
ぼくは善人ではないし、誰も完璧ではなかった。花は手折ってはいけなかった。
みんなで、真剣な話をした。でもそれは、本当は、ぼくたちにとってはどうでもいい話だったのかもしれない。
老いていくように、友達はぼくを置いていったし、夢はぼくを追いかけなかった。
そんな春に、ぼくはぼくの古い習慣から卒業するのだ。
誰かに届いていたぼくの声は、もうその人には届かなくなったし、他の誰かに届いたのかもしれないし、もう誰にも届かないかもしれない。
もはや潮時なのだ。さようなら。
高校生のぼくを殺したり、中学生のぼくを殺したり、そうして、別の何かになったりして、夢を見失って、がんばって大人になるのだ。がんばって。
がんばるんだ。
慣性の法則。
慣性の法則で、ぼくの涙はうしろへ流れた。
涙と夢は、そこに立ち止まっている。
気がつくとぼくは、高校に来ていた。
おいてきた日々はそこにある。
でも友達はもういない。
下校の時間だ。
これから、ひーくんの家に行くんだ。
青色のネクタイ。
ドーナツを買って帰った。
バス停で、バスを待っていた。
マフラーを巻いて。
ぼくは、卒業するんだなあと、思った。
制服を着るのも、これで最後か。
老いていったぼくが、
足跡を残して。
また彼らと交わる日を待っている。
うつむくと、アリがいて、つぶした。
そういう日もあったな。
もう誰も、覚えていないけど。
気がつくと、誰もいなかったので、ぼくは、黄色の線から降りた。
すると、今まで見えていなかった人たちが見えた。
思っていたよりも、人は、ごみごみといる。知らなかったんだ。
すれ違ったサラリーマンが、すれ違いざまに僕に言った。
卒業おめでとう。
また気がつくと、ぼくはもう、制服を着ていなかった。
ドーナツもない。
一緒にバスを待っていた友達は死んだ。
そういうこともあるんだ。
現実なんてそんなもんだ。
いつまでも夢じゃないんだ。
さようならの時間だ。
ぼくを待っているにんげんは、あとどれくらいいるのか。
だけどもう、卒業するんだ。
いつまでも、少年ではいられなかった。
そんな月夜だ。
星がきれいだ。