5歳の作文

あるところに、もじゃもじゃの森がありました。
もじゃもじゃの森に、もじゃもじゃの鳥がいました。もじゃもじゃの鳥は、もじゃもじゃのひとに、こう言いました。
「もじゃもじゃの子供をさがしてるんだ。いっしょにさがしてくれない?」

それで、もじゃもじゃのひとは、もじゃもじゃの子供をさがしました。
もじゃもじゃのひとが、もじゃもじゃの森を歩いて、歩いて、歩いても、もじゃもじゃの子供は見つかりませんでした。
もじゃもじゃのひとが、あきらめて帰ろうとすると、帰りの道で、子供が泣いていました。
もじゃもじゃの子供でした。
もじゃもじゃの鳥が来て、もじゃもじゃの子供と話し合いをしました。すると、もじゃもじゃの鳥ともじゃもじゃの子供は、空を飛んで、帰っていきました。
おしまい。


「ふーん、もじゃもじゃの子供は空を飛べるんだね?いいね」
「もじゃもじゃの子供も鳥だから」
「あー……あ、あーね、確かにね、別に人間の子供だって言ってなかったからね。最初から鳥の子供だったってことね。なるほど。わかりました。いいね」

なつ

時々、妙な気持ちになる。
言葉では言い難い感覚におちいる。懐かしさに近い。「久しぶりに通った道で、昔よく遊んだ公園を見かけて懐かしいと思った」みたいな具体的ななつかしさではない。何かを見たりどこかに行ったりして懐かしいと思うわけでもなく、突然一瞬、幼い頃の空気感?が蘇って、ソワッとして「あ、これは……」と思った時にはもう通常に戻っている。

歳をとる度にその感覚を抱く頻度は減っていく。今日久しぶりにソレがあったので、書き残しておかなくてはならないと思った。もう次はないかもしれない。

それはたいてい、夏の空気感がある。小学校高学年から中学生の頃くらいの夏の気配だ。どこかの、整備されていないプライベートビーチに向かう田舎道で、草木でできた自然のトンネルをくぐると海に出た。きれいな砂浜ではない。サンゴの死体が貝殻と一緒にじゃりじゃりと敷き詰められていて裸足で歩くと痛い。波際には藻のようなアオサがたくさん浮いている。泳ぎに来たのではなく、シーグラスを拾いに来た。「お父さん、」と言って、入ってきた草木のトンネルを振り返る、その時の空気感だったり。

他には、市立の中央図書館。これも夏だ。建物の古い図書館で、独特な匂いがする。隣の県立図書館に比べたらずいぶんと本が少なく、乱雑で、薄暗くて、司書もそんなに丁寧じゃない(昔の話。今は向こうの司書も丁寧だ)。それでも僕は県立図書館よりも中央図書館が好きで、用もなく行っては、図書館を出たり入ったりした。外は夏で眩しい。図書館の中は薄暗い。外は暑い。図書館の中はひんやりしている。外は公園の匂いがする。図書館の中は古い本の匂いがする。開けっ放しの入口を出たり入ったりするとスイッチのオンオフのようにキッパリ切り替わるのが面白かった、その時の空気感。

もしくは、父が運転する車の中。これもたぶん夏だ。遠出は好きだったが、車の中は退屈だった。兄弟が多いので、うんと幼い頃はみんなでしりとりをしたり、当時はシートベルトの規制が緩かったから後部座席でふざけ合ったり、窓の外に手を振ったりした。しかし中学生になるとそうはいかない。兄弟とそんなことはしなかった。ケータイもない時代だ。じっと座って黙って窓の外を見て、色々空想をしていた。哀しいこともすけべなことも考えてたし、窓の外で忍者が延々と走っている妄想もした。兄弟と車内で遊ばなくなったことを大袈裟に憂いることもあった。道中は疲労感があったが嫌な感じではなかった。その時の空気感とか。

だいたいそんな感じの空気感なのだけど、これらは具体的すぎる。一瞬だけソワッと流れる空気なんだからいちいちそういうのを全部思い出している訳では無い。でもその時の空気感だ。
それをもってして「子供の頃は良かったなあ」と思うものでもない。この感覚は快とも不快とも言い難い。嫌な空気感ではないのに喪失感を強く抱くのでつらい。子供の頃より今の方が楽しい。今の方が楽しいけど、今の方が考えることが多く、抱えてるものも多く、失くしたものも多くてつらい。
楽しくて、抱えるものが多くなったから、手放してきたどうでもいいものがあの空気感だと思う。今あのプライベートビーチのような場所に行っても、行ったからといって、あの空気感を感じるわけではないと思う。失ったのに、勝手に思い出される感覚なんだ。自由に得られる感覚ではない。そんなに不自由な感情なら、もう思い出さなくていいとも思う。嘘。さびしい。
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