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ACT5-(2)

「………踊ってみた動画?ああ、知っているぜ。
桜庭河川敷のとこだろ?
近隣住民から五月蠅いって苦情があったから、警察が駆けつけたら全員死んでたってオチだ。」
「………全員死んでいたんですか?」
「ああ。
犠牲者は全員、踊ってみた動画で再生回数がイマイチ伸びていない連中ばかりだった。
でも昼間ならともかく何で夜に集まったのかはわからんが。」

綿貫家の別邸で満月は手土産のスイカを持ってきた智久から話を聞いた。
物吉と鶴丸は対面式のキッチンでスイカを切っている。
「…………満月ちゃんの学校でも動画サイトにupしている子はいるの?」
「はい。でも全員、屋内でやっていますし、屋外だと近所迷惑だからってことで
やっていないんですよ。」
「それにしても穏やかな話じゃないな………河川敷で何があったんだ?」
「目撃者がいないからな……常日頃から騒音でトラブルが起きていたんだ。
異変には気づかなかったんだろうな。」
合掌する智久に縁起でもない、と芳樹はぺしっと叩いた。
「そうだ。祐一のところでも神社の境内を借りられないか、何人か来ていたぜ。」
「……そうなのか?」
「ああ。何なら、初瀬神社に行って聞いてみたらどうだ?」



「………まあ、確かに踊ってみた動画にupしたいから敷地内で踊っても良いかって子達はいるね。
でも、皆良い子だよ?
きちんと参拝してくれるし、対価もよこしてくれるし。
この間なんか保護者同伴で良いお酒を持ってきてくれたんだ。」
ニコニコと笑う祐一に芳樹と満月、そして物吉は苦笑いをする。

俳優業をしている祐一であるが基本的には神職をメインとしているのだ。


「やぁ、いらっしゃい。芳樹君に満月ちゃん。」
「あ、芳樹お兄ちゃんに満月お姉ちゃん、物吉さん、こんにちは。」

祐一の家内でもある千春が愛娘の千秋を伴って冷やしたジュースを持ってきた。
その傍らにはにっかり青江と数珠丸常次が控えている。

「千秋、踊ってみた動画の投稿をしたいから動画撮影をしたいと言ってきた子達がやってきたのは
先月辺りからだったかな?」
「そうだよ。対価とかお金も必要なら支払いますから、お願いしますって言ってきた。」
「ここの祭神は賑やかしいのが好きだからね。」
「そうだね。だからこそ、動画サイトにupした後もお礼を持ってきてくれてる。」
「だからかな、その子達の動画再生数が結構それなりに伸びているんだよねぇ。」
「きちんと対価を支払っているからだね。」
「うん、そうだね。まあ、この神社の宣伝にも一役買ってくれているし。」
「それが狙いか、祐一。」
「参拝客を増やすためなら手段は選ばないよ。
…………で、目撃者がいない中で犠牲者が出てしまった事件。どう見る?」
「祐一としてはどう思うんだ?」
「占術をしてみたんだが、良くない気が漂っているね。
今回の事件は動物でもなんでもない、人間の邪まな気が絡んでいる。」
「となると、再生回数の伸びしろがあまりよろしくない子達の犯行か。」
「恐らくはね。家庭環境の鬱憤を晴らすために動画サイトに投稿している子もいるという話らしいし。」
「………そういった子達が怪しいんですけど、そこら辺は警察に任せるしかないですね。」

「………なら、芳樹と満月ちゃんも踊ってみた動画を投稿してみればいいんじゃないかな?」
「………へ?」
「俺達が?」

「わぁ、何だかそれは楽しそうですね。」
「2人は有名人だし、何か投稿すればすぐに再生回数を伸ばすだろう。
そうすれば恨みの矛先が2人に向かってくるってわけだ。
そこを叩けばいい。」
「他人事だと思ってこの野郎…………。」
「あはは、私は提案をしただけだよ?」
「………でもやってみる価値はありそうですよ。」
目を輝かせる満月に芳樹はえ、と呟いた。
「満月ちゃん、食いついちゃったのかい?」
「はい!」

続く。

ACT5-(1)

深夜の河川敷にて、線路を走る電車の音をバックに暗い曲が流れる。
ずちゃずちゃと、何かが這いずり回るような音が聞こえてくる。
「…………ホントにここでやるの?」
「………うん。」
「…………こうでもしないと、再生回数伸びないし。」
「……マンネリ化してきている私達の動画の再生回数を伸ばすにはこれしかないんだよ。」
少女達の会話が、騒音にかき消されていった。
そして、静まり返った河川敷には血痕が残されていた。


……………私立聖ミカエル女学院高等部。
「おはよう。」
「あ、姫宮さん、物吉さん、おはよう。」
幕末天狼傳の舞台も無事に終わり、しばらくはのんびりとした日常を送ることができるということで
満月は物吉と共に学校に登校した。
「ねぇねぇ、姫宮さん!踊ってみた動画って知ってる?
最近流行っているんだけど。」
「え?そうなの?」
「姫宮さん、最近忙しかったから知らないんだ。
自分の好きなアニメやゲームのキャラのコスプレして、適当な曲に合わせて踊るって奴。」
「ああ、それなら知っていますよ。
動画サイトでも増えてきていますよね。」
「なるほどねぇ………team三条のメンバーでやってみようかな。
あ、でもどちらかというとteam新選組の方が向いているかも。」
「綿貫さんが嫉妬するよ?」
「だよねぇ…………。」
「でも興味があるなら、見てみるといいかも。
皆、踊りが上手い人達ばかりだし。」
「プロがやってみた動画を投稿したら、きっと参考になるんじゃない?」

「はい、皆さん。席に着いてください。HRを始めますよ。」
初老のシスターが教室に入り、満月達は席に着いた。
「皆さん、知っていると思いますが最近、
動画サイトで踊ってみた動画を配信されている方もいらっしゃると思います。
……ただ、あまりよろしくない噂もあるようです。」
シスターの話に生徒達はひそひそと話をし始めた。
「昨夜、そういった類で集まった人達が付近の住民から五月蠅いと騒音トラブルに発展し
警察が駆けつける事態になりましたが、通報を受けた警察が河川敷に向かったところ、
若者達が血まみれで倒れていたという事件が発生しました。」
「………穏やかな話じゃないね。」
「そうですね。」
「皆さん、動画サイトに投稿するのは自由ですがくれぐれも屋内でしてください。
屋外でする際には必ず、付近住民に理解をしてもらうなどの協力を求めて下さい。」
シスターの言葉に生徒達ははい、と頷いた。




続く。

ACT1-(9)

バラゴンを怪獣島に移送してから、数日後。
姫百合大学付属高等学校の屋上で深愛は1人、突っ立っていた。
「あ、深愛。」
数人のクラスメイトを連れた涼子が屋上にやってきて、深愛はやぁ、と手をあげた。
「今日はお昼、ここで食べるの?」
「まぁね。」
「一緒に食べない?」
「いいよ。」
コンクリートブロックにレジャーシートを敷いて、涼子は深愛を手招きした。
「………深愛のお弁当、美味しそう。1人で作ったの?」
「まぁね。自炊しているの。」
「料理もできるの?」
「ストレス発散にはもってこいだよ。
自炊の方が外食よりも安く済む場合もあるし。」
「そっか……………。」
「海堂さんって海堂海上幕僚長の娘なんでしょ?贅沢好まないんだね。」
「質素な方を好むんだよ、私。
それに父親とはなかなかうまくコミュニケーションが取れていないから。」
「………そうなの?」
「でも気持ちはわかるかも。私だってパパとろくに喋っていないし。」
「あー、私も!」
「何だ、海堂さんも一緒じゃない。同志だね。」
「でも仲が悪いってわけじゃないんでしょ、深愛と深愛のパパは。」
「そうなんだけどね………不器用過ぎるんだよ、うちの親は。
特に母さんが亡くなった時なんかは、全然泣かなかったけど
晩酌では寂しがっていたな………。」
「ホント、不器用だね、海堂さんのお父さん!」

和気藹々と話をしながら、深愛達は昼食を摂った。

「そういえばさ、あの怪獣、結局はどうなったの?」
「怪獣島でしばらく長期観察することになるよ。
経過を観察して、大丈夫そうなら自然に放牧するって言ってた。」
「そうなんだ。」
「市街地は勘弁だけど山中とか山間部になら怪獣を放しても、問題ないよね?」
「まあ、バラゴンが市街地に来ないことを祈るしかないけど。」
「………バラゴンって言うの?」
「うん。母さんが遺してくれたデータにあったから。地中に棲む怪獣なの。」
「でも何で市街地に現れたの?」
「うーん、餌を求めてなのかもしれないね。
私、バラゴンじゃないから気持ちなんてわからないし。」
「ああ、それはわかるよね…………。」
「でもさあ、人間の都合で殺すのも可哀想だよね。」
「そうそう。ひょっとしたら怪獣は人間が増え過ぎた時、一定数を減らすために
地球から遣わされた御使いかもね。」
「ちょっとやめてよ、そう言う言い方。」
「………いや、でも案外ありえたりして。」
「もう深愛までそんなことを言う!」
「いや、もしもの話だよ?人間も怪獣もこの地球に住んでいる以上、そう言う危機に晒される可能性が
十分にあり得るんだから。
危機に晒されない方がゼロに近いというか、何というか。」
「……………そ、それもそうなんだね…………。」
「まあ、少子高齢化とかそういった面々も抱えているし、何百年か後には自然消滅するか
絶滅するかのどっちかだと思うけど………。」
「み、深愛………。」
「考え方が怖いよ………。」
「…………あ、ごめん。これ、もしもの話だからね?そんな驚かなくても…………。」


続く。

ACT1-(8)

避難勧告が解除され、人々は避難所を後にしていく。
深愛は涼子から飲み物を貰うと、それを飲んだ。
「はあ………生き返る………。」
「海堂一佐、これを。」
三等海曹が薬の入ったケースを深愛に渡した。
「ありがと。」
「……何処か具合でも悪いの?」
「まあ、仕事をするといつも飲まされるんだよ。
あんまり美味しくはないかな。」
「美味しい薬があったら苦労しないって。」
「涼子、こんなところにいたの?」
「私達のところも避難勧告が解除されたよ。家に戻ろうか。」
「あ、うん。」
健三と瑞枝が涼子のところにやってきて、彼女に声をかけた。
「………ひょっとして、涼子の御両親ですか?」
「ああ、君は?」
「涼子のクラスメイトの海堂深愛です。」
「あら、貴女が海堂さん?
海堂海上幕僚長の娘だってのは聞いているけどお会いするのは初めてね。
薬師寺瑞枝です。こちらは私の旦那の薬師寺健三ですよ。」
「よろしく、海堂さん。」
「…………こちらこそ。」
握手をかわした3人を涼子はにこにこと見守っていた。
「もしよかったら、今度遊びにいらしてね。」
「何分仕事と学業を両立しているので、難しいかもしれませんが時間が合えば。」
「………海堂一佐、お時間です。」
「え、もう行っちゃうの?」
「後片づけとかが、あるからね。
じゃあ、また今度。学校でね。」
「うん、またね。」
そういうと深愛は避難所を後にした。


………防衛軍、海軍基地。
「………以上が報告となります。」
「………そうか。ゴジラの行方はどうなっている?」
「…………追跡班が捜索していますが、依然として反応はありません。
該当海域を調べてみましたが、何もありませんでした。」
「………そうか、もういい。下がれ。」
「………はっ。」

隊員が下がると、それと入れ替わりで綾治陸上幕僚長が司令室に入ってきた。
「よぅ、海堂海上幕僚長。」
「………何の用だ、綾治。」
「バラゴンについてだがお宅の娘さんのおかげで、怪獣島に無事移送できたそうだ。
まったく、お宅の娘さんはいつ見ても恐ろしいな。」
「言いたいことはそれだけか?」
「長年に渡ってゴジラを追いかけているそうだな。
奥さんの執念が移ったのかい?」
「…………家内はゴジラを倒すことを打倒としていた。
そしてそれは娘も目標としている。
私も同じなだけだ。」
「1つ聞いていいかい?
どうしてあんな化け物に情が移った?
自分と奥さんの受精卵を使ったからかい?」
「何が言いたい。」
「人の身で怪獣の力を持った子なんざ、世間に知られたら防衛軍は批難の的になるだろうな。
非人道的なことを何でしでかしたんだって。」
「………それを娘の前で言ったのか?」
「いいや、別に。ただ、忠告しようと思ってな。
奥さんは人の身で神の力を得ようとしたから、ろくでもない死に方をした。
アンタもそのうち、ろくでもない死に方をするぞ?」
「……構わんさ。私も家内も承知の上でM計画に参加したのだ。
ろくでもない死に方をするのはわかっている。」
「そうかいそうかい。
…………せいぜい、自分の子供に殺されるようなことだけはするなよ?」



続く。


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