「………踊ってみた動画?ああ、知っているぜ。
桜庭河川敷のとこだろ?
近隣住民から五月蠅いって苦情があったから、警察が駆けつけたら全員死んでたってオチだ。」
「………全員死んでいたんですか?」
「ああ。
犠牲者は全員、踊ってみた動画で再生回数がイマイチ伸びていない連中ばかりだった。
でも昼間ならともかく何で夜に集まったのかはわからんが。」
綿貫家の別邸で満月は手土産のスイカを持ってきた智久から話を聞いた。
物吉と鶴丸は対面式のキッチンでスイカを切っている。
「…………満月ちゃんの学校でも動画サイトにupしている子はいるの?」
「はい。でも全員、屋内でやっていますし、屋外だと近所迷惑だからってことで
やっていないんですよ。」
「それにしても穏やかな話じゃないな………河川敷で何があったんだ?」
「目撃者がいないからな……常日頃から騒音でトラブルが起きていたんだ。
異変には気づかなかったんだろうな。」
合掌する智久に縁起でもない、と芳樹はぺしっと叩いた。
「そうだ。祐一のところでも神社の境内を借りられないか、何人か来ていたぜ。」
「……そうなのか?」
「ああ。何なら、初瀬神社に行って聞いてみたらどうだ?」
「………まあ、確かに踊ってみた動画にupしたいから敷地内で踊っても良いかって子達はいるね。
でも、皆良い子だよ?
きちんと参拝してくれるし、対価もよこしてくれるし。
この間なんか保護者同伴で良いお酒を持ってきてくれたんだ。」
ニコニコと笑う祐一に芳樹と満月、そして物吉は苦笑いをする。
俳優業をしている祐一であるが基本的には神職をメインとしているのだ。
「やぁ、いらっしゃい。芳樹君に満月ちゃん。」
「あ、芳樹お兄ちゃんに満月お姉ちゃん、物吉さん、こんにちは。」
祐一の家内でもある千春が愛娘の千秋を伴って冷やしたジュースを持ってきた。
その傍らにはにっかり青江と数珠丸常次が控えている。
「千秋、踊ってみた動画の投稿をしたいから動画撮影をしたいと言ってきた子達がやってきたのは
先月辺りからだったかな?」
「そうだよ。対価とかお金も必要なら支払いますから、お願いしますって言ってきた。」
「ここの祭神は賑やかしいのが好きだからね。」
「そうだね。だからこそ、動画サイトにupした後もお礼を持ってきてくれてる。」
「だからかな、その子達の動画再生数が結構それなりに伸びているんだよねぇ。」
「きちんと対価を支払っているからだね。」
「うん、そうだね。まあ、この神社の宣伝にも一役買ってくれているし。」
「それが狙いか、祐一。」
「参拝客を増やすためなら手段は選ばないよ。
…………で、目撃者がいない中で犠牲者が出てしまった事件。どう見る?」
「祐一としてはどう思うんだ?」
「占術をしてみたんだが、良くない気が漂っているね。
今回の事件は動物でもなんでもない、人間の邪まな気が絡んでいる。」
「となると、再生回数の伸びしろがあまりよろしくない子達の犯行か。」
「恐らくはね。家庭環境の鬱憤を晴らすために動画サイトに投稿している子もいるという話らしいし。」
「………そういった子達が怪しいんですけど、そこら辺は警察に任せるしかないですね。」
「………なら、芳樹と満月ちゃんも踊ってみた動画を投稿してみればいいんじゃないかな?」
「………へ?」
「俺達が?」
「わぁ、何だかそれは楽しそうですね。」
「2人は有名人だし、何か投稿すればすぐに再生回数を伸ばすだろう。
そうすれば恨みの矛先が2人に向かってくるってわけだ。
そこを叩けばいい。」
「他人事だと思ってこの野郎…………。」
「あはは、私は提案をしただけだよ?」
「………でもやってみる価値はありそうですよ。」
目を輝かせる満月に芳樹はえ、と呟いた。
「満月ちゃん、食いついちゃったのかい?」
「はい!」
続く。