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シスコンなお兄ちゃんは子煩悩。


姫宮綾人、28歳。

姫宮グループの長兄であり、次期当主でもある彼は愛妻家な俳優として知られている。
……が。シスコンでもあり、子煩悩な人間としても知られていた。

「パパー、朝だよー!」

「朝ですよー!」


「おきてー!」

「だー!」

目覚まし時計が鳴るよりも先に、4人の娘達が綾人を起こしにやってきた。


7歳の美花、5歳の美鳥、3歳の美風、そして1歳児の美月。

「………おはよう、皆。」

「パパ、髭生えてる!」

薄らと見える髭を指摘され、綾人はショックを受けた。

「………洗面所行かないと………。」


「あら、おはよう。貴方。」
洗面所で髭をそり、ダイニングキッチンに向かうと最愛の妻、美穂が守り刀である鳴狐と共に
朝食を作っていた。

「………おはようございます、綾人様。」

「む、おはよう。鳴狐。」
「………奥様、言われたものを収穫してまいりました。」

家庭菜園で野菜を採っていた小狐丸がキッチンに入ってきた。

「こぎー、おはよう!」
「おはよう、こぎ!」
「おはよー!」

「だー!」

「はい、おはようございます。」
「何か手伝うことはないか?」

「大丈夫ですよ、鳴狐と小狐丸が居ますから。
子供達を席につかせてもらっても?」
「……む、わかった。ほら、席に着きなさい。」

「はーい!」


長方形のテーブルに人数分の朝食が並べられ、頂きますと礼をした後、綾人達はご飯を口にした。


「そうそう、今日は満月ちゃんが来るわよ。」
「ホント!?満月お姉ちゃんが来るの!?」

「今朝、電話があったのよ。近所の人から筍をおすそ分けしてもらったって。」

「どうして言ってくれなかったんだ!?」
「寝ている貴方を気遣ってくれたのよ。
『最近お兄様、お疲れ気味なのでそっとしておきます』って。」
「………可愛い妹からの電話が来たら、そっとしなくてもいいのに……。」

「そういうのをシスコンって言うんだよね、パパ。
芳樹おじちゃんが言ってた。」
「ねー。」
「です。」

「だぁ!」

「芳樹も溺愛している癖になんてことを……。」

「はいはい、シスコンもいいけど貴方、世間的には子煩悩な愛妻家として知られているんですからね。」

「…………むぅ。それを言われると反論ができん。」
「ねえ、パパ。今日もお仕事?」
「ああ、仕事だ。でも早く帰ってくるよ。可愛い妹がやってくるんだから。」


姫宮家は今日も平和です。


終わり。

ACT1-(9)

「…………あの、智久さんと鶴丸さんって付き合っているんですか?」

「お、それ聞きたいのかい?結構呑気だねぇ。」

総合案内所にあるフリースペースで、智久は律の問いにあははと笑った。

「そういう君らはどうなんだい?」

「あ、いや、俺達はただの幼馴染で……。」
「………この馬鹿!能天気!!」

智久に聞かれて、ただの幼馴染と答えた幸太を律は勢いよく蹴る。

「いってぇ、何するんだよ!?」
「この鈍感!」

「仲が良いんですねぇ、お2人とも。」

物吉に言われて、2人はハッとなるとお互いそっぽを向いた。
「別に私達、姫宮さんみたいに仲が良いわけじゃないし……。」
「そ、そうそう!将来のこととか全然考えていないし!!」

「……………好きなんだ。」
「好きなんだね。」
「ちなみにどっちから告白するの?」


3人にからかわれて、2人は顔を真っ赤にした。

「もう、3人共!」
「そんなつもりはないからな!ホントに!!」

「…………おいおい、随分といちゃついているじゃねぇか、え?」
「こちとら、ログアウトもできなくて困っているんだよ。」

「お、典型的な嫌がらせをするのかい?これまた厄介だねぇ。」

あはは、と笑う智久にプレイヤーはかちんときた。
「てめぇ、初心者のくせして何を偉そうに!」

「諜報員だからってふざけるなよ!?」


「あわわ、智久さん!!」
「お2人とも、プレイヤー同士のバトルも経験値が入るのですか?」
「え?ええ、まあ入ることは入りますけど……。」

「では少し腕慣らしと行きますか。」
「そうだなぁ。あ、芳樹に満月ちゃんは手を出すなよ?物吉も。」
「………わかってるよ。」
「頑張ってくださいね。」


………数分もしないうちに、智久と鶴丸は自身にケンカを売ってきたプレイヤーを叩きのめした。

「う、嘘だろ………。」

「ふむふむ、こういう感じで動かせばいいのか……。」

「すごーい、芳樹さん達もすごいけど智久さん達も凄い!」
「レベルの差を技術で補ったんだ……。」

「俺は芳樹達の実家と付き合いがあるからな。当然、教育上よろしくないものも経験してきたんだ。
まあ、普段から鍛えておいて損はないって奴だな。」
床に突っ伏しているプレイヤーをつんつん、と鶴丸はつついた。

「………ところで倒れているところをお聞きしますが。ラヴクラフトについてはご存じですか?」

「し、知らねぇよ。ゲームの開発者だってことぐらいしか知らねぇし……。」

「……だ、そうです。」
「こりゃ参ったな。地道に探すしかないか。」

「そうですね……。」

「さて、総合案内所を後にしよう。ここにいても情報収集は期待できそうにないし。」

「PMWにはストーリーがないのかい?」

「あ、いえ。ストーリーはあります。
オリジナルパーティーを作るなり、何なりして敵を倒すっていう王道モノですけど。」

「刀剣乱舞と似ている感じかな。」
「なるほど………それはわかりやすいな。」
「ラヴクラフトについてわかっていることといえばゲームの開発者だってことぐらいだもんね。」
「………そうですね………。」


続く。

ACT1-(8)


クエストをクリアし、総合案内所に戻った芳樹達のところに
智久と鶴丸が合流した。

「よ、芳樹。満月ちゃん。」
「智久、来てくれたのか。」

「ああ、芳川が強制ログインできるってもんだから俺と鶴丸も加勢するぜ。」


「智久さん、紹介しますね。こちら同級生の役重律さんに、役重さんの幼馴染の小野幸太さん。」
「よろしく頼むぜ。
俺は青桐智久。こっちは俺の守り刀をしている鶴丸国永だ。」

「よろしくお願いしますね。」

「よ、よろしくお願いします!!」

「まあ、俺のことは気軽に智久さんと呼んでもいいし、何ならお兄ちゃんと呼んでもいいぜ?」

「………智久様?」


眉間にしわを寄せた鶴丸に智久はあはは、と笑った。

「智久さんの職業は諜報員、鶴丸さんは剣士か……。」
「パーティーは何人まで組めるんだい?」


「最大7人まで組めますけど……。」

「なら、ちょうどいい人数だね。職業もバラバラだし、まあバランスが取れているといれば取れているか。」

「……それで智久様、何かわかりましたか?」
「おう、ラヴクラフトについてだが行方不明だと思っていたら実は意識不明の重体で
病院に搬送されていることがわかった。
まあ、恐らくはPMWにログインしたまま何らかの要因でログアウトができなくなったんだな。
で、犯行の動機は彼女にフラれたってことだ。」
「………………ふ、フラれた………?」

「それだけの理由で?」
「視野が狭かったんだろうな。見た目と性格に問題ある引きこもりと言えばいいのやら。
ちなみに自分をフッた彼女の新しい彼氏がこの世界にいるらしいんだ。」

「…………うわぁ、修羅場になりそう………。」
「………そうですね。」

「ともかく、ラヴクラフトを探してPMWのシステムを元通りにしてもらおう。」
「はい。頑張りましょう!」

続く。

ACT1-(7)

櫛木が経営している会社のパソコンルームでPMWへ外部アクセスができないか、
作業をしている芳川の元に青桐智久と彼の守り刀である鶴丸国永がやってきた。


「おう、芳川。どうだ?」
「青桐さんですか。……いやぁ、強制ログアウトができないっていうのは辛いですね。
ハッカー本人をPMW内で捕まえないとどうしようもないです。」

「なるほどなぁ……でも、強制ログインはできたんだろう?」
「ええ、まあ。後2人ぐらいはできますよ。」

「なるほどなぁ………。」

「それで青桐さんと鶴丸さんの方はどうです?
ラヴクラフトについて調べることができましたか?」

「ええ、ラヴクラフトはアメリカにある自宅で意識不明の重体になっているところを
母親が発見して病院に搬送されたそうよ。
……母親が強制ログアウトを試みたそうだけど、無理だったみたい。」
「………発見、遅れたんですよね?結構衰弱しているんですか?」
「らしいわね。」

「…………ま、親のすねかじりをしている引きこもりだったみたいだけどな。」


「……何でラヴクラフトさんがこんなことを………。
長い間引きこもりで、ニートだったから好きなゲームを開発・制作して親孝行したいって言っていたのに……。」


「………理由については彼女から別れを告げられたみたいだな。」
「……マジですか!?」

智久の調査結果を聞いた芳川はビックリした。

「まぁ、よくある話と言えばよくある話だがな……。」
「彼女にフラれた腹いせに何万人も、PMWに閉じ込めるだなんてアホと言えばアホというか……。」
「高収入だったけど、性格と見た目に問題があったからなぁ……。」

「………あー、そういうことですか。初めての彼女だったんですか?」
「みたいだな。」
「ですね。」

「も、もしそれが本当ならカップルが狙われやすいんじゃ……。
PMW内のユーザーの中には、カップルでログインしている方もいらっしゃいますから。」

「ちなみにそのフッた彼女もこのゲームに参加しているんですか?」
「彼女は参加していないが新しい彼氏がこのゲームに参加しているらしい。
……こら修羅場になりそうだな。」
「……ですね。」


「芳川、俺達もログインするから協力してくれ。」

「了解っス。目的が分かった以上、ラヴクラフトを見つけて即逮捕ですね。
PMWの乗っ取りをしているんですから。」

智久と鶴丸はゲーム用端末をパソコンに繋げるとそれを装着してPMWに強制ログインした。

続く。

ACT-1(6)


「………ふぅ、こんなものか。」

剣を地面に突き刺して、芳樹は後ろを振り返った。

クエストで倒したモンスターの情報は物吉が収集していく。

「なるほど、このモンスターはアイテムを回収する特性を持っているんですね。」

「………何ていうか、すげぇ……。」
「しょ、初心者にしては戦い慣れているっていうか………。」

「いやいや、2人のアドバイスのおかげだよ。」

「そうそう。2人のアドバイスのおかげ。」

「はい、そうですね。」

「(まさか、闇呪のことを話すわけにはいかないしな………。)」
「(桜庭市にしか生息していないモンスターがいるってことは、何が何でも黙っておかなくては……。)」

「レベルもそれなりにアップしたし、ひとまずはこれで大丈夫かな?」
「あ、はい。そうですね。対戦の申し込みさえなければこれぐらいのレベルでも
大丈夫だと思います。」

「………PMWって対戦もできるの?」
「そりゃもちろん。」

「…………へぇ。」
「ちなみに対戦で勝つと賞金だけじゃなくてアイテムも貰えるの。
………レベルの高い人ほど、レアなアイテムも貰えるっていうか。」
「俺達は地道にクエストを消化していっているんだけどなー……。
対戦の方が効率良いっていう人もいるし、どっちもどっちなんだよ。」
「そうか。2人は地道にクエストを消化しているんだね?」
「そうなんです。」

「…………さて、と。いい加減、情報収集しないとな。」
「そうですね。……何から調べます?」


「まずは製作者についてだね。」

「確かラヴクラフトって苗字だったよな。外人がどうのこうのって社長が言ってた。」
「うん。」
「………ラヴクラフト?」

「………クトゥルフ神話の製作者の名前ですね。」

「………クトゥルフ神話?」
「何だそりゃ?」

「1つの世界観を複数の作家達が描いた神話群の総称だよ。
個人、またはその弟子が創作した神話だってハッキリしているしギリシャ神話とかに比べると
結構マイナーだよ。」


「………?」
「………えっと、もっとわかりやすく言うと……?」


「何だかよくわからないけど、とりあえず怖いモノ。
ジャパニーズホラーと一緒だよ。
誰かがそばにいる恐怖、後味の悪さが残る結末、身近に起こるかもしれない恐怖、
長い沈黙。」

「………な、なるほど……。真相がわからない恐怖ってところなんだな……。」

「ああ、上手いね。そういう風に納得してくれると助かるよ。」

「………でもそのラヴクラフトがどうかしたの?」

「確か行方不明になったとか言っていなかったか?」
「え?意識不明の重体になって病院に搬送されたんじゃなかったっけ?」

幸太と律はお互いの顔を見合わせて首を傾げた。



「…………行方不明か、病院に搬送されたかのどっちか……か。
まあそれについては智久が調べてくれるだろうから、
俺達はここでできることをしよう。」

「………そうですね。」


続く。
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