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プロローグ

火災警報器が施設内に響き渡る。
施設のあちこちから、黒煙の混ざった炎が迫って来ていた。
海堂詩織女史は数人の研究員に連れられて、産後間もない体に鞭を打ち廊下を走っていた。
爆発音が響き、天井が崩壊する。
天井から落ちてきた落下物に足をぶつけてしまい、詩織は抱きかかえていた赤子ごと
転んでしまった。
その衝撃でスヤスヤと眠っていた赤子は目を覚まし、泣き叫び始めた。
赤子の声に研究員達は冷や汗をかいた。
「早くその実験体を静かにさせてください、博士!」
「えぇ、わかっているわ………大丈夫よ、安全な場所に連れて行くから………。」
そういって詩織は赤子をあやした。
「さ、早く!」

研究員の1人がそういったのと同時に、施設の天井が何かに抉られ外の風景が見えた。
快晴の空に似合わない、黒い巨体生物が研究員達を睨みつける。

「お、終わりだ………。」
研究員の1人がそう呟くのと同時に黒い巨体生物は大きく口を開いた。
詩織は目をつぶり、赤子を庇う形で背中を巨体生物に向けた。
炎が発射されるのと同時に赤子が泣き叫ぶと、バリアのようなものが発生し研究員達を守った。
「……………え…………?」

炎が弾かれた巨体生物は突如として苦しみ出した。
そして研究員達が見守る中、光の粒子と化した。
「………………は、早く………ここから出ましょう………!」
「え、えぇ…………。」

研究施設から外部に避難した詩織は地面にしゃがみ込んだ。

「この子がいなかったら、私達は死んでいた………。」
「………だが、もうM計画はできそうにもない。このまま頓挫することになるのか………?」


「………いいえ、まだよ。M計画は途中で挫折なんかしたりしない。
この子が唯一の成功例になるかもしれないわ。」

「そ、そうですよね…………。この実験体さえ居てくれれば何処でもM計画は実行できる………。」
「………そうね。ここの研究所は駄目になったけど………………。」

泣き叫んでいたのが一転してキャッキャッと喜ぶ赤子の頬に詩織は触れた。

「…………この子は私が育てるわ。」



続く。

ACT4-(8)

「まずは孫を助けてくれて、どうもありがとう。改めて礼を言おう。」
「あ、いえ。俺の方こそ余計なことをしまして、すみません。」
「何の何の。もとはと言えばこいつが守り刀を置いて大慌てで病院へ行こうとしたのが悪い。
厳重に叱った故、許されよ。」
「……………。」
紅葉色に紅く染まっている頬をさする芳樹に智久は心から同情した。
「これは母親の愛あるビンタ故、気になさるな。」
「まあ、でしょうね。俺も良く受けましたから。」
「して、礼の品を贈ろうかと思ったが………。
何分、我々と関わりを持ったことで良からぬ影響の余波を受けることになるだろうと考えてな。
守り刀を1振り、贈ろうかと思う。」
幸造がそういうと、メイドが1振りの刀を持った女性を連れてきた。
「………名は鶴丸国永と言う。
今日この時より、お前さんの守り刀となる。」
「はあ…………。」
「鶴丸国永と申します。末永くお仕えいたします。何とぞ良しなに………。」
「………………マジですか。」


「………いや、ホントにすまん。」
「お前が謝ることじゃないだろ。いや、俺も正直言って驚いている。
金品だったら困るなぁ、と思っていたけどまさかの守り刀か。」

庭園を歩きながら、芳樹は智久に謝った。

「お前、宮内庁の御物に興味あるんだろう?
だから、鶴丸をってことで贈ったんだ。
一期一振は満月ちゃんの誕生祝ということで贈っているしな。
……まあ生涯満月ちゃんしか愛さないっていう意味合いもあるけど。」
「……ああ、なるほど。愛が重いな。」


「どうとでも言ってくれ。純愛なんだ。」
「…………ロリコンって言われても、文句は言えれないぞ?」
「………承知の上だよ。でもお前こそ良かったのか?」

「ん?」
「………俺の暴走止めてくれって直々に言われたからな。疲れるぞ?」

「それは今に始まったことじゃないだろ。数日前のことでよーくわかったからな。
お前、満月ちゃんのことになると周りが見えなくなるからストッパ―が必要だってこともな。」
「……………敵わないな。」
「ま、これから長い付き合いになるのは間違いないけどなぁー。
お前といると退屈しないで済みそうだ。」
「…………俺にその手の趣味はないぞ?」
「どうしてそうなるんだ、このボケナスが。」




続く。

ACT4-(7)

現場に駆け付けた警察の事情聴取を済ませた後、
智久は芳樹と共に病院に向かった。
「インフルエンザですけど、合併症は出ていないので大丈夫ですよ。」
「………ありがとうございます。」
かかりつけの小児科医に満月を診てもらい、芳樹はホッとした。
処置室で治療している間、芳樹と智久は待合室で休むことにした。
「……すまん、青桐。助かった。」
「何、気にすんな。お前も大変だな。受験シーズンだって言うのに。
巷の噂で聞いたけど、お前推薦狙っているんだって?」
「ああ。……そういうお前は?」
「俺は一般だ。」
「………悪い。色々と大変な時期に巻き込んで。」
「何気にするな。こういうのは日常茶飯事なんだろう?
友達の1人や2人、なかなか作りにくいもんなぁ。」
ケラケラと笑う智久に芳樹はため息をついた。
「お前のおじいさんが警察官しているおかげで事情聴取も時短ができた。
何かお礼がしたいんだが……後日でもいいか?」
「俺は別に気にしちゃいないんだけどなあ。」
「俺が気にするんだ。」
「そうか。」


…………数日後。

「…………智久、くれぐれも綿貫さんの前では粗相のないようにね?」
「わかっているよ。………ったく、お礼を受け取る立場なんだけど、俺。」
母親に見送られて、智久は芳樹の実家に向かった。

「…………いらっしゃいませ。青桐智久様ですね。大旦那様より、話は伺っております。」
深々と頭を下げるメイド長に、智久は格の違いを感じた。

「………ええっと、お世話になります……。これ、しょうもないものですが。
満月ちゃんへのお見舞い品です。」

「ありがとうございます。」
「容態はどうですか?」
「おかげさまで快調に向かっております。」

「そうですか。それは良かった。」


玄関から公園ほどの広さを持つ庭を歩き、智久は正門を潜った。

「……………。」

「………大旦那様。青桐智久様をお連れしました。」

大広間に通されるとそこには幸造と芳樹が座っていた。

「うむ、ご苦労。……さて、よく来てくださったの、客人。」


続く。

ACT4-(6)

「ガキの様子なんか知るかよ、大人しく俺達についてこいって言っているだろ!?」
「病院に行くからどけって言っているんだ、このボケ!」
ケホケホ、と咳と高熱を出している満月を大事そうに抱え、芳樹は男達をキッと睨んだ。
「大体、守り刀を連れていないのが悪いんだろうが!?」
「今なら俺達でも誘拐できるって話なのによ、姫宮をよこせって言っているだろ!?」
「……あー、なるほどなぁ。そのお嬢ちゃん、姫宮の子なんだ。」
「あ!?何だてめぇ!」

「よ、お前、隣のクラスの綿貫芳樹だろ?いつもその子連れている。
俺は青桐智久って言うんだ。お前と同い年。」

「はぁ…………。」
「おいおい、そんな顔をするなって。俺だってこういうのには関わりたくないんだが、
一刻も争うんだろう?
早く病院に連れて行こうな、こいつら放っておいて。」

「てめぇ、呑気に自己紹介してんじゃねぇぞ!」
「ぶっ殺されたいのか!?」
「お、殺人未遂罪が適用されるぞ。良いのか?
それより綿貫、お前助けて欲しいなら助けるけど……どうする?」
「……助けてくれ。気が動転してるんだ。俺1人ならどうにでもなれるけど、
満月ちゃんがいるしな。暴れられない。」

「んじゃあ、俺に任せとけ。すぐ片付けてやるから。」
「んだと!?」

ナイフを取り出した男が智久に襲い掛かろうとした。………が。

それよりも早く、智久は蹴り技で男を倒した。

「………悪いな。じいさんが警察官でてめぇらみたいな連中と鉢合わせした時のために、
色々と仕込まれているんだ……ぜ!!」


ストンストン、とあっという間に男達は智久の蹴り技により、倒れて行った。
それを芳樹はぽかんとした様子で見ていた。

「未成年を誘拐しようとした罪と銃刀法違反と殺人未遂罪で現行犯だ。
おぉい、警察呼んでくれ。」

乱闘騒ぎを聞きつけた通行人が何だ何だ、と駆け寄ってきたので智久は警察を呼ぶよう指示した。

「んじゃまぁ、病院に行くとしますかね。」
「…………助かったよ、ありがとう。」

「いや、何。礼を言われるほどのことはしてないさ。」


続く。

ACT4-(5)

「………そうか、そうか。宮森は婚約パーティーを延期にしたのか。」
『ああ、春香ちゃんの母親が宮森に嫁いだ際についてきたメイドらしいから
思うところがあったんだろう。』
後日、芳樹は智久に宮森の婚約パーティーの話を電話でしていた。
『それよりもお前、今週末大丈夫なのか?』
「ああ、きっちり予定は空けているぜ。
何せ、BBQなんだろう?」
『鶴丸も絶対に連れてこいよ。
大倶利伽羅や燭台切、太鼓鐘が会いたがっているから。』
「ああ、連れて行くさ。大事な守り刀だからな。」
週末の予定について確認をした後、智久は電話を切った。
「智久様、ブランチの用意ができました。」
「お、サンキューな鶴丸。」
時刻は午前11時を過ぎ、完全なブランチの時間となった。
「………そういや、お前が来てからもう十数年経つんだな。」
「そうですね。私が贈られてからもうそんなに経つんですか。
初めてお会いしたのは中学3年生の時でしたね。」
「あぁ、満月ちゃんはまだ3歳だったもんな。」
ブランチを摂りながら、智久と鶴丸は過去の思い出話をした。




…………今から十数年ほど前。
中学3年生だった智久は高校受験を控え、初瀬神社にお守りを買いに出かけていた。
「はぁ……合格祈願のお守りを買うためだけに勉強時間を割くなんて、
うちの親はどうにかしているぜ。
まあ、気持ちはわからんでもないけどな。」

神社からの帰り道、智久は小腹が空いたのでコンビニでも寄ろうかと考えていた。
…………その時。
「………ん?」
「おい、大人しくついてこい!」
「誰が大人しくついていくか、満月ちゃん、熱を出しているんだぞ!?」
「……………何だ何だ?」
智久は大声のする方向に顔を向けた。
すると自分と同い年の少年が幼児を抱きかかえた状態で数人の男と言い争っていた。

「………ひょっとしてなくても、誘拐って奴か?」

嫌な予感がした智久は合格祈願のお守りをポケットにしまうと、男達に近づいた。



続く。


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