「これはこれは綿貫様。綿貫様もこちらに来ていたのですか?」
健三郎と別れた後、芳樹と満月はあっという間に招待客に囲まれた。
皆、にこにこと笑っているが内心では何を考えているかわからない。
「………あの、芳樹さん。私、お手洗いに行ってきますね。」
「僕もついていきますので、ご安心を。」
「ああ、よろしく頼むよ。」
満月は物吉を伴ってトイレに向かった。
「………何ていうか、疲れるね……こういうのって。」
「そうですね。」
2人仲良くトイレを済ませ、同時にため息をつく。
「姫宮のこと、女児が生まれないからって殿宮にした方がいいのにって馬鹿にしておいて
いざ私が生まれるとクルリと掌を返したんだから、芳樹さんの腹の中は黒いよ………。」
「あはは、確かに黒いですねえ。若旦那様はお嬢様のことを心配していますから。」
「……まあ、だからロリコンだとかどうとかって言われるんだけどね。」
「…………あの、姫宮さん。」
「………ああ、宮森さん。」
2人がトイレを後にしようとすると、春香が声をかけてきた。
「…………私、婚約なんてしたくない…………。」
そういうと春香は目に涙を浮かべ、泣き始めた。
「場所が場所だから、ちょっと変えましょうか。」
「うん。」
泣きじゃくる春香を連れて、満月と物吉はトイレを後にした。
春香は泣きじゃくりながらも、満月と物吉の2人を自室に案内した。
「………お父様、私を歴史ある名門の御曹司の元に嫁がせたいって考えているの。
お母様がご存命なら、お父様の決定に逆らうことができたんだけど、
………お母様、早くに亡くなられたから…………。」
「…………そうだったの。強固な血縁で結ばれることで宮森の基盤をもっと強くしたいのね。」
「………日の浅い家柄の人なら、特にやりそうなことですけどね。」
「…………せめて成人してからでも、遅くはないのにお父様生き急いでいるから………。」
「………わかった。私からも、成人してからでも婚約は遅くないと言ってみるわ。
だから、もう泣かないで。」
「…………ありがとう、姫宮さん。」
「どういたしまして。」
「…………ああ、満月ちゃん。遅かったね。」
春香を連れ、満月と物吉が庭園に戻ると芳樹の両隣には美人の女性がいた。
「まあ、この子が貴方の婚約者?」
「ええ、そうですよ。ですので、俺にアプローチするのは止めてくれないですか?」
「まだまだ子供って感じがするのだけれど………。」
「子供みたいにアプローチしてくる貴女方よりは大人っぽいと思いますがね。」
「………まあ!そんなんだから、ロリコンだとか言われるんですのよ!?」
「そう言われて結構です。」
女性の手を振りほどき、芳樹は満月の手を握った。
「まあ、そういうことですので諦めてください。
それとも、この場でおば様って呼びましょうか?」
クスクスと笑う満月に女性は顔を真っ赤にするとその場を後にした。
物吉はぱちぱちと拍手を贈った。
「さすがですね、お嬢様。」
「芳樹さんをロリコンって言うなんて、最低です。
世の中にはもっと歳の離れた人達が結婚したっていうケースもありますから。」
「そうだね。俺達はまだ可愛い方だよ?
………と、春香ちゃんも一緒だったのかい。」
「………あの、綿貫さん。」
「何だい?」
「姫宮さんとの婚約が決まった時、どう思ったんですか?」
「どうってそりゃ素直に嬉しいと思ったよ。
言っては悪いけど、婚約者がいないともう次から次へと見合い相手が出てくるからね。
鬱陶しいったらありゃしない。」
「………でもそれで姫宮さんの人生を縛ってしまったとかは……。」
「まあ、確かにそういうことを考えた時もあったよ。でも満月ちゃんは良い子だからね。
俺と出会えて、俺と婚約して、それでよかったって思ってくれた。」
「………はぁ………。」
「まあ正直な話をすると現代の光源氏みたいな感じかな。」
「そ、それで姫宮さんは良かったんですか………?」
「何ていうか、虎視眈々と玉の輿を狙う女性達を見ていると、
自分の理想の女性に育てた方が後々色々面倒ごとを考えなくていいかなぁ、って思ってたんですよねー?」
「まあね。」
「は、はぁ…………。」
「まあ、少なくとも俺達の場合はもっぱら特殊過ぎるからあんまり参考にしない方がいいよ。」
続く。