「それでは長らくお待たせしました、ただいまよりイルカ&シャチのショーを行います!!」
歓声が上がる中、満月達は舞台袖から観客席を眺めていた。
「………私服で刀ミュの歌を歌うなんて、オーマイゴッドって感じなんですけどね。」
「…………仕方がないよ、ライブ衣裳なんか持ってきていないし。」
「そもそも、ライブ衣裳を使ったら版権の問題が出てくるでしょうし。」
「………ですよね。」
飼育員が本来来るはずだったアーティストが、ショーに間に合わないことを謝罪した上で
舞台袖に視線を向けた。
「今話題沸騰中のミュージカル刀剣乱舞より、
小狐丸役の姫宮綾人さん、加州清光役の姫宮満月さん、三日月宗近役の綿貫芳樹さんに
来ていただきました!それではどうぞ、よろしくお願いします!」
3人が舞台にあがると、観客席にいた客達は黄色い歓声をあげた。
舞台袖にあるピアノには既に美穂と鳴狐がスタンバイしている。
急ピッチで作成した楽曲リストにあわせて、1発OKで演奏しなければならないため
美穂は緊張していた。
「………大丈夫。いつも通りに演奏すればいい。」
「………そうね。いつも通り。」
そういうと美穂は鍵盤に指を置いた。
1回こっきりのイルカ&シャチショーは成功した。
満足げに順路を歩いていく来園客達を見て、飼育員達はホッとした。
「すみませんすみません、無理難題を言って申し訳なかったです!!」
「でもおかげさまで助かりました!!」
「館長が県外出張中に行っていて申し訳ないんですけど、ホントにありがとうございました!!」
「…………何かコントをやっているみたいで面白いですね。」
「……うん、君ら興奮するのはわかるけど落ち着こうか。」
「イルカ達も大丈夫か………?」
「イルカさん達、楽しそうだったよねー。」
「ねー。」
「うん。」
可愛らしい鳴き声を出しているイルカとコミュニケーションをとることができて
満足している美花達はにこにこと笑った。
「………とりあえず、トラブルはこれでないですよね………?」
「すみません、ないです!!」
「……じゃあ、俺達はこれで。」
「はい、ありがとうございました!!」
続く。
「イルカさん、イルカさん〜。」
「シャチにも会えるもんねー。」
「うん!」
ショースタジアムに到着すると、たくさんの人でごった返していた。
「わぁ、たくさんの人がいる!」
「最前列、座りたかったなぁ〜………。」
「でも、濡れちゃうよ?」
「まぁまぁ、濡れたら風邪をひいちゃうしね。」
「………今の時期、小さい頃の満月はすぐ風邪を引いていたからなぁ。」
「季節の変わり目は特に酷かったな。」
「………もう、こういうところで昔の話をしないでください!」
「ホントよ。どれだけ満月ちゃんが好きなのよ、貴方達は。」
やれやれ、と美穂が呟いた時、あのぅ……という遠慮がちな声が聞こえた。
「姫宮綾人さんと姫宮満月さんに綿貫芳樹さんですよね?
ちょっとお願いごとがあるんですけど………。」
「お願い事?」
芳樹達に声をかけたのはアクア・ファンタジアのスタッフであった。
スタッフの後ろには同僚達が何やら頑張れ、というポーズをとっている。
「今日、アーティストとのコラボショーを企画していたんですけどそのアーティストが渋滞に
巻き込まれちゃって来れそうにないって連絡が来たんです…………。」
「…………何で渋滞に巻き込まれたんですか?」
「それがその………恋人と何か金銭面のトラブルを起こしたらしくて、
それで対処していたら、遅くなったと………。」
「………金銭面のトラブルを起こしてどうするんですか。」
「よりにもよって今日かぁ………。」
「………ええっと、つまりは私達に代わりをして欲しいと………。」
「すいません、すいません!こういう時だけ連絡網早いんです、うちは!!
お三方が家族で遊びに来ているって!
無理難題を言ってすみませんけど、助けてください!
ホントに困っているんです!!」
「…………どうします?」
「………まぁ、仕方がないでしょう。時間もないことだし。」
「不測の事態って予想できないからねぇ。」
「すみません、すみません!」
「パパのお歌聞きたい!」
「私も!」
「芳樹おじちゃんと満月お姉ちゃんも歌ってー。」
「…………美花ちゃん達、他人事だと思って………。」
「子供の純真無垢な視線、時に怖いんだよね…………。」
「小狐丸、美月をお願いね。」
「はい、かしこまりました。美花様達はしっかり見ておきますゆえ。」
「ええ、頼んだわ。鳴狐、ピアノ弾くわよ。」
「………了解。」
「頑張ってください、お嬢様達。」
続く。