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ACT1-(3)

入学式が終わった後、涼子は両親と共に家に帰宅した。
「はぁ……疲れた。」
「お疲れ様、涼子。友達はできた?」
「うん、何とかね。
そうそう、海堂深愛って子とも仲良くなったよ。」
「海堂?ひょっとして、海堂海上幕僚長の娘さんかな?」
「あ、やっぱり有名人なんだね。」
涼子の言葉に健三はああ、と頷いた。
「そりゃあそうさ。………まあ、色々と怪しい噂もあるけど。」
「怪しい噂?」
「そ。奥さんの海堂詩織さんは防衛軍が特別編成した研究チームの一員だったとかで
何でも怪獣の遺伝子を人間の受精卵に組み込むって言う研究をしていたとかどうとか。」
「何それ、非人道的じゃないの。」
「あくまでも噂だからね。本当か嘘かはわからないよ。」
「へー………。」
その時、ゴゴゴゴゴ………と地震のような音が聞こえてきた。
「………え?何?」
「地震かしら?」



一方、その頃。
深愛は防衛陸軍に呼び出され、招集に応じた。
「海堂一佐、申し訳ない。」
「いや、それはいいんですけど………何用ですか?」
「怪獣が出たんだよ。ただ駆逐するだけなら別にアンタは要らないんだけど、
場所が場所だけに、人気のないところに誘導したいんだ。」
「…………ちなみに怪獣は?」
「アンタのお袋さんが遺してくれたデータによると、固有名は『バラゴン』。」
「………バラゴンか。確かに地中に潜られてしまったら、手の打ちようがないですね。
わかりました、何処まで誘導しましょう?」
「市街地の外に、今は使われていない工業の跡地がある。
そこなら暴れても、問題はないはずだ。」
「了解、じゃあすぐに向かいます。」
そういうと、深愛は走り出した。
光の粒子が溢れ、深愛は巨大な蛾の怪獣………モスラに変身した。
「…………やっぱこぇぇな。怪獣に変身できる人間って言うのは。」
「そういうことを言うな。真に恐ろしいのは、それを生み出そうとした研究チームの連中だ。」
「はいはい、わかっていますよって。」
「…………あの子も、被害者の立場なんだから彼女の前でそんなことは言うなよ?」


続く。

ACT1-(2)

私立姫百合大学付属高等学校。
深愛は三等海曹に送られ、校庭に入った。
校庭には深愛と同い年の新入生が家族と共に、クラス分けの看板を見ている。
「………………。」
深愛はその中に混ざると、自分の名前を探した。
「…………A組か。」

「…………ねぇ、あれって海堂海上幕僚長の娘さんでしょ?」
「あの歳で一佐とかって信じられないな………。」
「………親のすねでもかじったとか?」
ヒソヒソ話をする新入生の親御をよそに、深愛は正門玄関に入った。

「新入生の皆さん、御入学おめでとうございます。」

体育館では新入生の入学を祝い、校長が話をした。
新入生達は話の長さにくたびれ、在校生達は諦めた表情で話を聞いていた。

教室に戻るなり、クラスメイトが和気藹々と話をする中、深愛は1人、帰宅の支度をしていた。
スマホを見ると、LINEが来ていた。
「……………はぁ。娘の入学式に来ないくせにお祝いの言葉はこれだけか。」

不器用な父親のLINEを既読しながらも、スルーをした深愛に1人の女子生徒が声をかけた。

「ねえ、貴女は親御さん来なかったの?」
「………仕事があるからね。来ないよ。うちは父子家庭だから。」
「………あ、そうだったの。ゴメンね、変なこと聞いちゃって。」
「いいよ、別に。済んだことだから。」
「………あ、名前言うの忘れてた。私、薬師寺涼子。」
そういうと涼子は深愛に手を伸ばした。

「……何これ。」
「何って……握手しようかと思ったんだけど、もしかして嫌いだった?」
「ううん、そんなことはないよ。……私、海堂深愛。」
「へぇ、みあって言うんだ。素敵な名前!なんて読むかわからなくて、
皆してどう読むんだろうねって、言っていたんだ。」

ねぇ?と涼子がクラスメイトに声をかけると、皆して一斉に頷いた。

「…………死んだ母さんがつけてくれた名前だからね。深い愛をもって人に接せるようにって。」
「素敵な由来ね。」
「ありがとう。今度墓参りする時に伝えるよ。」
「深愛って呼んでもいい?」
「それは良いけど…………なら、私も涼子って呼べばいいのかな。」
「うん、喜んで!………ところで深愛のお父さんって海上幕僚長なんだって?」
「うん。そうだよ。」
「深愛、私達と何ら変わりないのに一佐って呼ばれているから、どうしてかなぁと思って。
普通は年齢とか経験とかを考慮されるのに、何でだろうって。」

「………まあ、色々と事情があってね。
親のすねかじりをしたわけじゃないんだけど。」
「そうなんだ…………。でも色々言われるのって嫌じゃない?」
「慣れたからね。」
「そっか。」
「うん。……じゃあ、私はこれで。この後、仕事があるから。」
「わかった。じゃあ、またね。」
「話しかけてくれてありがと。」
「いえいえ、どういたしまして!」

涼子に見送られて、深愛は教室を後にした。

「………涼子って凄いね。深愛相手にあんなに喋れるなんて。」
「普通はあの年齢で一佐ってホントにありえないから。」
「でも色々と事情があって、一佐の地位に収まったんじゃないの?
今は話してくれなさそうだけど、いつかは話してくれるって思っているから。」

続く。

ACT1-(1)

日本、都内某所。
高層ビルの屋上で海堂深愛は深いため息をついていた。
「…………ここまで来て何もなかったら、取り越し苦労だよ。」
「………そう仰らないでください。
何かあった時に動いてもらうのが貴女の役割ですから。」
「………無理して監視しなくてもいいのに。ビビッているのがわかるって。」
「………はぁ。やっぱりわかりますか?」
「うん。まあ、私が怖いのは無理ないと思うけど。それが自然だし。」
「………海堂一佐には敵いませんね。正直言って怖いですよ、貴女が。」
「あはは。素直でよろしい。」
16歳にして防衛海軍の一等海佐の階級を持つ深愛は
小隊の隊長を務める柳田一等海尉にそう言った。
「…………でもまぁ、ホントに怖いのはひそひそ話をしている連中だよ。
貴方みたいに、正直に言ってくれる人よかタチが悪い。」
「…………そうですね。水面下でこそこそ話をしている人間の方がタチが悪いですね。」

そう話しているうちに三等海曹が報告をしに来た。

「半径2.5qの避難が完了致しました。
暴れても問題はないとのことです。」
「…………暴れても問題ない、
って言うかさ………メタモルフォーゼしても、問題ないって言えばいいのに。」
「仕方ありませんよ。上はいつもそうですから。現場のことなんかちっとも考えていません。」
「会議は踊る、されど進まずって奴ね。」
そういうと深愛は屋上の手すりに登った。
「まったくこれが終わったら、高校の入学式があるんだよね……面倒くさいな。」
「非戦闘時は学生生活を満喫せよ、と海堂海上幕僚長のお達しですからね。」
「…………ったく、都合のいい時だけ父親面するんだから。
私みたいな化け物を生み出しておいて、それかよみたいな。」
「…………自分には海堂海上幕僚長のお考えがよくわかりません。
何分、父親になったことすらないので。」
「あははは、柳田一等海尉、ウケるわ。
………ところでこの間の合コンはどうなったの?」
「残念ながら、自分の理想に敵う女性はいませんでした。」

「そういうのをモテないって言うんだよ。
………んじゃ、ちょっと行ってきますかね。」


それだけ言うと、深愛は屋上から飛び降りた。
光の粒子が夜空に舞い上がり、次の瞬間には巨大な蛾の怪獣が羽ばたいていった。

「………いつ見ても、やっぱり怖いものは怖いんだなぁ、これが。
命が幾つあっても足りないよ。」
「………そうですね。M計画でしたっけ?
怪獣の遺伝子を人間の受精卵に組み込むっていうの。
発想自体が怖いんですけど。」
「……まあ、海堂一佐も被害者の立場だからな。
俺達の味方であれば心強いが、敵になると撃ち殺すことができん。」

「………できれば、撃ちたくないのが本音ですけど………。」

続く。
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