※エイジ微ネタバレ有り?



ただただ、ありがとう。

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控えめなノック音が、静かな部屋に響く。返事をするより早く、扉が開かれた。開けられた扉の向こうに、この十年で見慣れた面々。一様に真剣な表情をしている。その中から、蜜歌と電脳の双子が飛び出して来た。



「彩花!」



薄く涙の膜を張り、優しく手を握られる。三人に続くように、廊下に立ったままだった面々も駆け寄って来る。勢い良く抱き付いて来たのはかがりだった。



「どうしたんです?みんなして」
「だって…、あの子が!」



抱きつかれて、手を握られて、叫ぶような声に思い出したのは、大切な人の切ない笑顔と、優しい言葉。チクり、胸を刺す痛み。目の前で消え行く彼と同じ顔で僕を拒絶した人。手を伸ばせば届く距離なのに、心は二度と届かない場所へ行ってしまった。



「大丈夫、ですよ…」



二度と失いたくなかったのに、また喪ってしまった。何故、いっしょに逝けなかったのかと、連れ戻されてからずっと考えていた。離れるぐらいなら、独りになるぐらいなら、道連れにして欲しかった。



「ねぇ、彩花。私たちあなたに言いたい事があって来たの」
「言いたい事?」
「そう、僕らの気持ちを」



かがりと蜜歌が、分担して言う。右手と右肩に触れる電脳の双子も肯定するように、手に力を込めた。他のメンバーも同じようで、少し緊張して次の言葉を待つ。



「僕らはね彩花、君のことが大好きで、とっても大切だよ」



左手を握る蜜歌の綺麗な声に、部屋中の雰囲気も優しくなった。見開いた瞳には、微笑む仲間達。右側からまた、優しい声がした。



「正直最初は、あまり好きじゃ無かった」
「上辺の笑顔とか」
「頑なな態度も」
「でもね、十年もいっしょに居るのよ?」



そっとかがりが、体を離す。そのすぐ後ろにはかがりで見えなかった、いさりが居た。幼い子にするように、頭を撫でられる。自分のより少し大きな掌。かがりと目を合わせて、同時にこちらに微笑んだ。



「君は、誰よりもパートナーを大切にしているって分かったんだ」
「そして、独りが誰より嫌いだってことも」



正面と右側からの優しい声と、体中を包むようなかがりや蜜歌や電脳の体温。ずっと気付けなかった。彼以外の体温も、こんなに温かいってこと。



「蜜歌は、僕を恨んでいないんですか?僕は真音を…」
「恨んでない、って言ったら、たぶん嘘になる、かな?」



綺麗な声。僕が封じ込めてしまった、蜜歌の本当の声。少しだけ困ったように笑って、左手を握る力を強めた。



「でも、あれは真音の言い方も悪かったし、何よりも真音にそういう言い方をさせた、僕の態度も悪かったんだ」

「パートナーを放って、そのパートナーの寂しさに気付けなかった、僕も悪いんだよ」



蜜歌の言葉が終わった途端、離していた体をまたかがりが抱き締めてきた。その上からいさりが、僕をかがりごと抱き締める。左から蜜歌が、右から電脳の子たちが、そして、そんな僕らを他の仲間が見つめている。示し合わせたように、みんなの言葉が重なった。



『大好きだよ、彩花』



それは、奇しくも消えてしまった彼の最後の言葉でもあって、僕はただ溢れる感情のままに涙を流した。



「あなたのパートナーは、あの子以外居ないわ」
「どれだけ代わりになりたいと望んでも、僕のパートナーは真音で、彩花のパートナーは雨丸一人だけ」
「誰もあの子にはなれない」
「それでも、」
「君の傍に居て、君を独りにしないことなら、僕らにだって出来るんだ」
「想いを返して、なんて言わない」
「あなたはこれから先も、あの子だけを愛していて良いから、」

「愛されることを、拒んだりしないで」



降り始めた雨音に重なるように、みんなの言葉が響く。降り注ぐ雨のように、想いが乾いた心に染み渡る。ねぇ、許されるなら、あなたの隣に還るその時まで、この温もりに手を伸ばしても良いですか。



『俺は、どんな彩花も大好きだよ』



聞こえるはずの無い、あなたの声が雨音に紛れて聞こえて、誰も居ない背中から、抱き締める温もりを感じて、涙が止まらなかった。


end



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私は彩花がとっても好きです。
彩花は幸せにならなくちゃいけないんです!