ふと、思い出すのは
一乗寺公園でひとり過ごした夜のことだ。

色々なことを考えながら、
悩みながら、
笑いながら、
泣きながら、
わたしは生きていた。

きっととてもちっぽけなことに怯えていて
それでもなにかわからない不思議な力が
わたしを包んでくれている気分だった。
夜の魔力というのかな、
なんでもできそうな気分だった。

クラムボンのフォークロアを聴きながら、
世界は自分だけのもののような気がした。


寒くて寒くて、空気が澄んでいて
誰もいない公園、閑散とした景色
星が瞬いて雲が流れていく空では
月が泣いていた。


明日のこともこれからのことも
何もわからなかったあの頃のわたしは
ただ目の前の感情だけが見えていて、
それだけが全てだった。


明日死んでもいいと思っていた、
いや、ほんとうは死にたいなんて思ってなかったけど、
死ぬなら死ぬで、わたしは世界を手に入れたから
満足だと思っていた。



呼吸していた、
心の底から、

深く、深く、
呼吸していた。

あれは何歳の頃だったろう、
21歳の頃だったかな

それくらいから心の成長って止まるものだね、
いや、
止まるというか、
そこらへんを境に
忘れていくんだ、
いろんなこと
好きだった花の名前とか
好きだった映画のセリフとか
息が止まるくらい人を好きになった感情とか


忘れていってしまう
忘れたくないのに



あの一乗寺公園の夜だって、
いつか忘れてしまうのかな
それが怖いよ

100%の感情で生きていた夜を
わたしは失くしてしまうのかな



ねえ


寂しくなるからおやすみと言って


おやすみ、
またね。