スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

夜間飛行

あなたは知っているだろうか
夜の上空
雲の上の
酸素もわずかな場所に眠る城を

いつか青色のベアに連れて行ってもらったことがある
いつだっただろう
思い出せないな

目の前にはオーロラが広がっていて
流れ星がヒュンヒュンと通り過ぎていく
星たちが蛍のように瞬きながら交差する

夜の深い青色は水彩絵の具のような
淡くて優しい色彩を帯びていた

わたしは右手で彼の左手を握って
左手にはお気に入りの傘をさしていた
「上空でうまく風に乗るには傘が必要らしい」
誰かからそんなことを聞いたからだ。

上昇気流に乗ってぐんぐんと私たちは夜の海を泳いだ
深海魚のようにふわりふわりと揺れながら
暖かくてすこし肌寒い風の中を通り抜けた。
時々雲の中へだってすっぽり入って
わたあめのような柔らかさを感じたりした。

そしてわたしはそのとき見たんだ、
まさに天空に浮かぶ城だった。

わたしが言葉も失ってただただ見とれていると
彼は呟いたんだ
「見てごらん、
これはぼくが君に見せたかった景色のひとつだ。
君が夢に描いた世界は
いつだって存在しているだろう。」

得意げに彼が放ったその言葉は
なんだかとても優しい色をしていて
わたしは自然と笑顔になりながら

「ありがとう」

とだけ呟いたんだ

彼の名前も知らないまま
わたしはぎゅっとその手を強く握った。

あれはいつだっただろう
記憶からすこしずつ遠のいていくけど
それでも忘れないよ

君はいつもわたしのそばにいたね

もう一度あのお城が見たいと
何度思ったことだろう

きっとどこかの国の上を今も漂っていて
わたしは見ることができなくても
なくなることなく存在しているだろうって
それはわかるんだ

ねえ、あなたは知っているだろうか

こんな不思議な話を

ああ、

もう一度彼に会えたなら
今度は名前を聞こう

そしてずっと覚えていられるように
何度も彼の名前を呟こう

おやすみ、青色の君

月の海岸

いつも思い出す景色がある。
青草の茂る草原に佇む女の子と、少し肌寒い風。
曇った空の向こうで、太陽の光が差す予感がする。

雲が音を立てて流れる。
肌白の女の子は裸足で地面を踏みしめる。

どこまでもどこまでもその草原は続いてて
遠くには丘が見えるんだ
森もあって、深い青緑が広がっている。

風が女の子の長い髪を揺らす
とても心地いい
白いワンピースの裾が揺れる

そしたらどこからともなく
懐かしくて優しい音楽が流れる

ああ、これはどこかでいつか聴いた曲だ
なんだったっけなあ
とても大好きだった曲だ
なんて考える




そんな景色。

わたしはいつも絵に女の子を登場させてきた。
それは一体誰だったのか
今ならなんとなくわかる。

リリー、
それは君だよ。

君のために今まで絵を描いてきた
君のために今まで言葉を紡いできた

君が笑っているように
君が幸せであるように
いろんなものを残してきたよ

絵の中で
言葉の中で
夢の中で
わたしはずっと君を探し続けてきた

だからこの草原に君はいる
君はわたしを待っているんだろうか
君は何を待っているんだろう

君はわたしを好きでいてくれるかな

リリー

また絵を描くよ
君の絵を描こう。


わたしは月の海岸で
君に幾度も手紙を書いて
ボトルに詰めて海へ流す。


これまでそうやって生きてきた
きっとこれからも変わらない

月の海岸は広い
暗くて少し寒くて
それでも星は綺麗に光っている。
夜の繊細さを感じることができる場所だ


またいつもの言葉で手紙を締めくくるよ
君がいい夢を見れるように


おやすみ、

おやすみ。
prev next