夜が明けくる。
耳朶がジリジリと寒気に炙られて、まるで取れてしまうのではないかと云うほどに傷んだ。
手先の感覚も似たようなもので、末端神経の悲鳴が聞こえるようだった。
わずか白んでいた夜の世界は、瞬く間に色彩を取り戻していくように、新たになっていく。
世界がまた、静寂の産声を上げていく。色を以って、それを知らしめていく。
地平線に滲む朱はその血潮に等しい。
呼気は空中で姿を現した。吸い込んだ酸素のみずみずしさよ。
天中に煌めいていた星の影は焼かれて追いやられて。
夜に思いを馳せながら、ゆっくりと目蓋を落として。
冬の日の数を指折り、來たるらいじつに怯える。
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春が来るのは嫌いで春になるのは好きで。
冬が殺されていくのが、何よりも、嫌いだ。
ひとつ、ふたつと零れていくひかりがある。
あたたかくて、きらきらしていて、けれどそれは頼りないものだ。
ふっと吹けば消えてしまう誕生日ケーキの上の細い蝋燭にも
僅かな振動に耐えきれず落ちてしまう線香花火にも
それはひとしく、どうしようもないほど、零れやすいものだ。
些細な揺れにも、か細いゆらめきにも、
私たちは、とても弱く。
それでもその弱さを愛おしいと抱いて哭くのも
私たちだ。
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いくつ、ともしびを見送っても慣れるものではない。
愛おしいと思う限り、それは私が在るまでやめらないものだ。
おはよう。世界。
膝を抱えたまま歌う。
少しばかり汗をかいた膝小僧にキスをするように歌う。
迷子の子供のようだ。どこにも行けず、ここがどこかも分からずにただ目的地を見誤る。どこで間違えたのか思い出す様に歌っては、また迷い、星屑の重みに耐えられない。
幾多の星星が降り注いで責め抜く。
こんな夜は星がなければ。
そして朝が明けるのだ。
徐々に群青に朱を零すように東の空がざわめき、しずしずと去っていく青の美しさに、凄然とした静寂が降り注ぐ世界で息をする。新しく作られた空気を目一杯肺まで入れて、生みだす様にこぼれ出す様に吐いた息の居場所を見つけようとして失敗するのだ。
幾多の夜を乗り越えるたび美しい絶望と悲惨な光に涙を流す。
頬は濡れない。けれど確かに流涕を。止まらぬそれを受ける心には、ざわざわと風が吹き緑が潤うだろう。うるおいが、それらを生みだし私を生かすのだ。悲しみと苦しみと怒りとあきらめとが私の血となり肉となる。
そうして、私は今日と言う日に名をつける事を忘れたまま、生きるのだ。
ツイッター20120726掲載
小麦の海原が広がっていた。黄金色が風に吹かれ波打ち、世界を彩っているようだ。その中腹に廃れて久しい古城が聳え立つ。すでに所々が朽ち果てていようとも、そこにある威厳はいまだ衰えぬことのないまま、そこに凄然と佇む。蔦がその壁を這っても、朽ちおちて城壁が形を失くしても。静謐があった。
五月二十五日、ツイッターより。