ぽたりと落ちてきたそれは、雪交じりの霙だった。
寒いわけだ。おそらく現在の気温は三度くらいだろうか。それ以下になるとこの辺りでは雪に変わってしまうから。
寒いね。誰かがそばにいるわけでもないのに、ぽつり呟いた。
手をそっと伸ばす。空を切るそれを濡らすのは冷たいもの。ああ、もう雪に変わってしまう。
凍えて震える手を、それでも中空に差し出したまま、ただじっと立っていた。
ここも来週には白に塗りつぶされるのだろう。一面の銀世界。消音作用を持つ雪は、私の息すら消してしまうのではないだろうかと心配した。
寒さがこの躰を蹂躙しても、私はその手を伸ばし続けた。誰かが握ってくれるわけでもない。それでも白に届くだろうかと、ただ願い、というよりも祈りに近い何かを持って。
寒いね。ほどなく、ぽたりと雪が手の中に落ちてくる。
イメージBGM ずどどんP/croak
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それは、凍りつく夜の中。
極光の幕が下ろされた世界に、一つ、音を聴いた。
君がぽつりと言う。
ああ、これが世界の終わりだと。
極光の鳴る音が、雪に吸収される夜。
世界の終わりを僕らは見た。
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ちょっとした小説を書こうかと。
ついったにプロット的なものをあげてます。
あと、生きてます。
「ここは最果て?」
少女はか細い頸を折れてしまうのではないだろうかというほどに傾けながら、訪ねてきた。こちらを見る瞳は純真そのもの。痛いほど真っ白で無垢な視線だ。
「いや、此処ではないよ」
純白のような瞳が濁ることにおびえながら、答えた。手を出してはいけないモノが目の前にあることがこれほどまでに怖いことだとは知らなかった。そして、今、知ったのだ。だが、少女はいささか残念そうに目を伏せたが、瞬きすらかすかに、瞳の純真さは壊れも汚れもしない。
「‥‥‥」
「あと、数刻歩いたところにある樹海の主なら、或いは知っているかもしれないが‥」
「‥ありがとう」
真っ白なワンピースが翻った。皺一つないワンピース。そういえば彼女はなにもかも真っ白だ。
肌の色も、睫の色も、声音すら白一色だ。
「ねぇ、ここはどこなのかしら」
白の声がした。
「え? ああ、此処は、‥。此処は何処でもない。何処でもないよ」
「そう‥‥なら、」
「ん?」
「あなたは‥‥どこにいるの?」
不思議そうな瞳は未だ濁ることなく、目の前に二つ並んでいる。当たり前ではあるが、それすら不自然に感じるのがこの少女の存在感だ。その小さく薄い唇から零れる言の葉は、不思議が詰まっていた。
「だから、何処でもない場所さ」
視線を合わせるように腰を屈め、少女の白い顔を覗き込む。
すると、すい、と少女は前を向いてしまった。少し怯えてしまう。少女の色が変わってしまうかもしれない。
「‥‥‥‥」
「どうしたんだい」
「いいえ。では。さようなら」
少女の色は変わらないが、彼女はこちらを振り返ることはなかった。
白の少女。
「そんな石っころどうする気だい!」
嗄れた、耳に下手に残るいやな声が、私に向かってきた。
「記念に一つだけ、貰っていこうかと。大事にしますから」
私がそう言うと、耳障りのよろしくない声の持ち主は、いやそうな顔をして、こちらを眇めた。
「大事に、ねえ。あんた、どうやってそんなもん大事にするんだい」
未だ怪訝そうにこちらを伺う声の持ち主に、内心疲弊しながらも、少しばかり微笑んで答えた。
「石を大切にすることは人を大切にすることと、そう大差ないですよ」
声の持ち主は気味の悪い物体を見るようにこちらを睨んでいった。
内包された夜は比類なき満天の星空に、語り尽くせぬ何かを語るかのようにこの身に落ちてくる。私は一人その場に座り込む。立っていれば、降り注ぐ何億光年という重みに耐えられなかった。座ることでこの地球という大きなモノの一部となり、わずか、耐えられるような気がした。
そっと目蓋を下ろせば、草と土の湿ったにおいがした。川のせせらぎが昼間と変わらずに続いている。蛙が眠たそうに鳴いている。そういえばもう二時を回っていた。私はアスファルトの冷たさに感謝する。ひんやりと心地よいベッドというには些か硬いそれに身をゆだねる。外郭と隔絶されたような世界は少し酔いしれてしまいそうだった。
星よ。いま、あなた達はどうしているのでしょう。もうそこにはいないのでしょうか。星が輝いているように見えるのは、その命が尽きる時だ、と昔誰かが言っていた。私はまるで遺書のようだと思った。けれどあなた達のそれを、私は読み解くことが出来たでしょうか。
一つの流れ星が夜空を駈け渡り、そっと消えていった。