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無題



剥落していく森の葉。
追悼のことばは漏れては消えた。
かすかな音すら許されない。
墜落する果実も、罅割れている。
もう少し。もうすぐだ。
水脈は未だ遠く。
音は殺される。

もうすぐ。
音は殺される。

白の少女



「ここは最果て?」
 少女はか細い頸を折れてしまうのではないだろうかというほどに傾けながら、訪ねてきた。こちらを見る瞳は純真そのもの。痛いほど真っ白で無垢な視線だ。
「いや、此処ではないよ」
 純白のような瞳が濁ることにおびえながら、答えた。手を出してはいけないモノが目の前にあることがこれほどまでに怖いことだとは知らなかった。そして、今、知ったのだ。だが、少女はいささか残念そうに目を伏せたが、瞬きすらかすかに、瞳の純真さは壊れも汚れもしない。
「‥‥‥」
「あと、数刻歩いたところにある樹海の主なら、或いは知っているかもしれないが‥」
「‥ありがとう」
 真っ白なワンピースが翻った。皺一つないワンピース。そういえば彼女はなにもかも真っ白だ。
 肌の色も、睫の色も、声音すら白一色だ。
「ねぇ、ここはどこなのかしら」
 白の声がした。
「え? ああ、此処は、‥。此処は何処でもない。何処でもないよ」
「そう‥‥なら、」
「ん?」
「あなたは‥‥どこにいるの?」
 不思議そうな瞳は未だ濁ることなく、目の前に二つ並んでいる。当たり前ではあるが、それすら不自然に感じるのがこの少女の存在感だ。その小さく薄い唇から零れる言の葉は、不思議が詰まっていた。
「だから、何処でもない場所さ」
 視線を合わせるように腰を屈め、少女の白い顔を覗き込む。
 すると、すい、と少女は前を向いてしまった。少し怯えてしまう。少女の色が変わってしまうかもしれない。
「‥‥‥‥」
「どうしたんだい」
「いいえ。では。さようなら」
 少女の色は変わらないが、彼女はこちらを振り返ることはなかった。





白の少女。
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