暗闇に呑まれた世界で、聞こえた声は君だけだった。
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暗闇の中で君だけが手を伸ばしてくれた。
君は全ての痛みを引き受けようとしてくれるけど、心の痛みを引き受けてくれただけで十分なんだ。


今はもうあの頃のように、僕を傷付けるものは無くて、君が守ろうとしてくれた僕も、もう守られるだけでは嫌になった。

それを君は、自分の存在を否定する材料にして、孤独の海に溺れようとしたね。



(ねぇ、咢)



あの頃聞こえた声は君だけだった。手を伸ばしてくれたのも君だけだった。
何でもないふりして、一番君が傷付いていたのを知ってるよ。それなのに、僕を守りきれないと思って苦しんでいたことも。
そうして、イッキ君達と出会い、僕を呼ぶ声がひとつじゃなくなって、伸ばされる腕もひとつじゃなくなって。
君は、今まで以上に自分を嫌ってしまったけれど。そんなことは無いんだ。


どんなに僕を呼ぶ声が増えても、伸ばされる腕が増えても、あの時聞こえた君の声や、伸ばされた腕は無駄になんかならないから。
今の幸せや笑顔は君が傷付いて、守ってくれたおかげだから。だから…



(どうした、亜紀人)



僕は君にも幸せになって欲しい、笑って欲しい。君が傷付きながら守ってくれたように、僕も君を守りたい。
君がまだあの暗闇の中にいるのなら、僕が君を呼ぶよ、君に手を伸ばしてあげる。だから、お願い。



「消えないでね、もう勝手に消えようとしないで…」



君が大切だよ、君が僕を思うよりもずっと。
君が大好きだよ、君が想うよりもずっと。



(………消えねぇよ、もう…)



だからね、やがて訪れる終焉は、二人、共であると良い。



end

(君だけが消えるなんて、赦さないから)