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月に焦がれる流星(脱色/一日前提、日+織)



※『太陽に恋する星』の続き




あなたが幸せなら、それで。

++++

ちょっとした神様の悪戯で、学校の屋上で彼と2人っきりになった。置き去りにされたみんなのお弁当と、私たち。遠くから、みんなの騒ぐ声。



(やっぱり、綺麗だなぁ…)



太陽の光でキラキラ眩しい銀色に、意志の強そうな翡翠の瞳。小柄な躯から溢れる、圧倒的な存在感。『彼』が惹かれた、人。



「俺の顔に何かついてるか?」
「えっ、ううん!」



苦笑いの顔は、私の好きな『彼』によく似ていて、何だかすごく、泣きたくなった。初めて恋しいと想った、『彼』と同じ。



「何故、泣く」
「ごめ…ごめん、なさい」
「別に、謝らなくても良いけどな」



涙で歪んだ視界の端から、綺麗に折り畳まれたハンカチが目に入った。それが目の前の彼から差し出されたものだと気付くのに、少しだけ時間がかかった。



「ありがとう…冬獅郎君」
「どういたしまして」



渡されたハンカチで溢れる涙を拭っていると、小さく、本当に小さくごめんな、と聞こえた。



(嗚呼、やっぱり気がついてたんだ…)



いつからかは分からない。けれど確かに私は、目の前の彼を見つめていた。嫉妬の篭もった視線で。『彼』に選ばれた、彼を。



「私、黒崎君のこと好きだよ」
「嗚呼、知ってる」
「何回生まれ変わっても、また好きになるぐらい」
「…嗚呼」
「本当は、冬獅郎君のこと、許したくない…よ」



醜い醜い、私。
でも、それぐらい『彼』が好きで、仕方ないの。どうして、彼なの。もう死んでる人なのに。住む世界だって違うのに。同じ時間を、生きること、出来ないのに。
私は同じ世界に居るのに。生きて、居るのに。



「でも、でもね…」



彼と出会ってから、『彼』はずっとずっと素敵になった。朽木さんと出会ったあの時より、ずっと。強くなったし、優しくもなった。だから、好きになる速度を止められなかった。



「黒崎君を幸せにしてくれる、冬獅郎君も、好きなのっ!」



それぐらい『彼』を変えた人を、私は嫌いにはなれない。こんなに恋しいと想える人が、同じぐらいに恋しいと想う人を、どうして嫌いになれるの?気付きたくないけれど、『彼』を幸せに出来るのは、目の前の彼だけなのに。



「……ありがとう、井上…」



小さく、けれどはっきりと、聞こえた台詞の後に、私よりも小さな手が、頭を撫でた。たった一回、それだけで、どうしてかまた、涙が溢れてきた。
遠かったみんなの声が、近付いて来る。その中に私たちが恋をする、『彼』の声もする。早く、涙を止めなくちゃ。



「お前は、強いな…」



そして静かに立った彼を追って、空に向けた瞳に、寂しく笑う、彼が見えた。私はその表情の理由を知っていて、だからこそ涙が止められなくなった。



(どうか、どうか)



きっと彼は、誰よりも自分を認められないのだ。『彼』を幸せに出来るのは、彼しか居ないのに。きっと、後ろめたくて、迷ってる。私が思ってたことを、彼は分かっているから。相容れない、二人だったと。



「でも…俺は弱いから、彼奴の手を離せないんだ」



悲しいぐらいに、愛しさに溢れた表情。見えない翡翠の瞳は、天に輝く太陽を見つめていた。
ガチャリ、と屋上に続く扉が開く。一気に騒がしくなる屋上。声を掛けられる前にもう一度、涙を拭った。泣きはらした目は、誤魔化せないだろうけど。



「お帰りなさい、黒崎君。みんなも」



願わくば、私の焦がれた太陽と月が、これから先も輝いていますように。
私はもう、それだけで。私は救われると、信じているから。


end


叶わない想いならせめて
あなたの幸せを願わせて
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