手触りの物が身体全体に当たり目が覚めると。

「あれ???」

寝台も何時ものサイズでなく。キングサイズで幅も広い。自分の声も低い。床に足をつけて立ち上がると目線も高い。

「鏡。鏡は。」

覚束ないで足取りで鏡台の鏡で自分の姿を見る。シルクの寝巻きを着た金髪の眉間に皺の寄った長身の大人の男性が鏡台の鏡に映っていた。手をふる仕草をしたり片足あげてみせると鏡も同じ動きになる。

「これがなりたい僕の姿なのか。いいや。これがなりたい姿の私か。」

子供口調で言う大人だとおかしいと思ったマークスは、大人の口調に変えて言った。

「まるで父上と同じ部屋にでもいる気がする。」

大人の口調の方が低い声に合っているのでこの調子で話そうと胸中に秘めた。

コンコンとドアを叩く音が聞こえた。使用人が朝ご飯の用意でもしてくれたのだろう。

「入れ」

と一声かけるとおや?使用人では、なく子供が入ってきた。顔つきも幼い自分と少し似ていると思った。身なりからして王族の子息だろうか。

「迷子になったか。お父さんとお母さん探してあげよう。」

「父上。昼寝で元気になりましたか。」

幼いながら張りのある声でマークスに言う男の子。

「もうすぐおやつの時間です。今日は、父上の大好物「すまない。父上とは、誰のことだ。君は、誰なんだ?」

話の途中で割り込むのは、行儀が悪いと思いつつ男の子に質問した。男の子は、少し驚き顔になるがすぐに表情を戻す。

「笑えないことは言わないでください父上。私は、マークスの息子のジークベルトです。」

「私の息子だと?!」

「寝過ぎて忘れたのですか。父上は、暗夜王国の国王殿下。私は、ゆくゆく父上の跡を継ぐ暗夜の第一王子です。」

窓の方を見ると夜のままの暗夜王国の空。不思議の国へ行ったのに暗夜王国と同じ。

「父上そろそろ中庭に行きましょう。母上と弟のカンナもまちくたびれてます。」

ジークベルトのマークスの袖を掴んだ。不思議の国へ来たことでマークス自身が自分の立ち位置に驚いていたが顔に出さないようにした。自分の子供?の前では、冷静でいようとした。

「ジークベルト母親の名前は言えるか。」

「カムイです。まさか母上のことも忘れたのですか。母上は、異国の王族で生まれでありながら父上の元で妹として育った女性であり。現透魔王国の女王様です。弟のカンナを連れて透魔王国から来てくれたのですよ。」

苦笑いしつつ息子のジークベルトが解説してくれた。くい、くい、袖を引っ張りマークスを急かした。


中庭のテーブルに来るとアフターティーの準備がもうしてあった。そこに人が二人いた。女性が一人。男の子がいた。女性の方は、艶のある銀髪に赤い瞳をした不思議な美しさをもった人。子供の方は、カンナだろ。女性と同じ耳が尖っていた。

「マークス兄さんお久しぶりです。」

「お父さん遅いよー。もうおやつが食べたいよ」

微笑みを浮かべる女性と頬を膨らませ文句を言うカンナ。

「あの兄さん?」

「あぁ遠いところからよく来てくれたな国王として歓迎しよう。」

「今さら他人行儀って」

女性の方は、吹き出した。マークスの頬に手をあてる。

「いたたたた。離せ!」

「兄さん目が覚めましたか。」

「あぁ。夢ではないのだろう」

「夢?」

「何でもないこっちの話だ。」

つねられたところがじわじわ痛かった。不思議の国の登場人物からマークスは、暗夜の国王陛下になっていたことを知り。加えて異国の女王カムイを妻にして二人の子持ちの父親になっていたことに驚いた。それ以前に。

「兄さん。」

妹として過ごしていたのは、長女のカミラ一人くらいで。カミラ以外の弟と妹とは、親睦を深めていない。

「兄さん!」

「わっ!何だ?」

「話の途中ずっと上の空じゃありませんか。ぼんやりするなら寝てからにしてください。」

「ぼんやりなどしていない。ただ考え事をしていただけだ。」

「私のことを思いだそうとしたことですか。」

「ふっ戯言を言うな。ちゃんと覚えている。」

「兄さんが嘘をつくと垂れた髪を揺らす癖があります。」

「え?あ!」

「なんて嘘でーす。兄さんがあわてふためくところ初めて見ます。」

「カムイ」

「ウフフ。」

悪戯っぽく笑うカムイ息子二人とも他愛ない話に相づちいれながら会話した。


カムイとジークベルトとカンナを初めマークスは、慕われていた。父親としても。一月が経過した頃マークスは、夢を見ていた。

「父上見てください。先生から満点貰えたんです。」

父王の部屋に入ってからマークスは、満点のテストの用紙を落とした。父王ガロンの上に裸で喘ぐ女性がマークスの目に入ったからだ。

「ごきげんようマークス王子様。満点のテストを取られてすごいです。それなら私めから国王殿下になられるマークス様にお世継ぎの作り方をおうしえしましょ。」

「来るな。‥‥来ないで‥‥。」

股に液体を流しながら裸で小馬鹿にした表情で女がマークスに近づく。嫌悪感から後ろに後退りをした。

「あらマークス様のお道具既に準備万端で先生としては、嬉しいわ。」

逃げられないことをいいことに女は、マークスの道具にやりたい放題をしはじめた。

「マークス様の×××が私の口の中にゾクゾクしますわ。」

女の方は、恍惚な表情をしているのと対象にマークスの体は血の気が引く冷たさがかけめぐった。

「では、そろそろ私にお世継ぎ作りにぶちこませてくださいませ。」

「‥‥父上助けて‥‥」

「父に頼るな。自分でどうにかしろ。」

「父上には、母上一筋ではなかったのですか!なのに他の女と汚いことを私に押しのけて!」

ビリッ。紙が破ける音がした。音の方を振り向くと既にドレスを着た女がむくれ面で

「マークス様がくずくずするから満点の紙を破ってしまいましたわ。ガロン王様ごきげんよう」

嗤いながら女は、部屋に出ようとした。マークスは、女の肩を掴んだ。

「なんですの?マークス様。きゃ!」

女は、そこで事切れた。マークスの手にある護身のナイフから血が流れていた。


暗い寝室にマークスは、目を覚めた。夢だったとわかった。寝汗がひどい。喉が渇いた。マークスの隣にカムイが寝ていた。カムイの寝顔が夢に出た卑しい女の死に顔と重ねて見えた。発作的にカムイの首にマークスの手が重なった。殺してしまおう。得体の知れない女を妻にした覚えもない。権力の力でカムイのことを行方不明にさせてもいい。妃を暗殺した罪を別の人になすりつけることにすればいい。カムイの首を力を込めて握った。大丈夫。マークスの腕なら女の首などあっという間に。

「ぐっ。カハッ」

咄嗟に手を離した。目を開いたカムイは、呼吸が落ち着くまで咳き込みながら酸素を入れようとした。その間マークスは、自分が何をしたのかわからなかった。

「‥‥‥マークス兄さん‥‥‥」

「カムイすまない。私が‥‥」

「マークス兄さん待って行かないで」

後ろを向いて離れようとすればカムイが後ろから抱きつく形で止めた。

「兄とも呼ぶな!私は、お前のことを一つもおぼえてなどいない!カムイの知っている兄でもなければ夫でもない!」

懐からナイフを取り出すとカムイの鼻先に当てた。

「顔に消えない傷をつけられる前に私から離れなさい!早く!」

カムイは、目をそらさずにマークスをみるだけだった。マークスもナイフをカムイの鼻先につけるだけで微動にしなかった。カランと床に落とす音が寝室に響いた。マークスが身を守るものを落としたのだ。五分経過してカムイは、マークスから離れようとしなかった。

「何故殺そうとした相手に攻撃してこないだ。私はおまえにひどいことをしようとした。」

「マークス兄さん。」

マークスの顔に柔らかいものが触れた。それがカムイの胸だと気づくと滑らかな手が髪に触れた。心が落ち着く徐々に穏やかになっていくことがわかった。

「私が小さい頃にある人から教えてくれたのです。頭を撫でる人がいることは、その人のことにひとりぼっちじゃない元気をあげていることだと。人に抱きしめることは、親愛の証であるということを。」

顔をあげてカムイの顔を見れば子供を慈しむ母のような表情をしていた。

「私は、おまえの想いに応えることなど出来ない。それでも私を兄だとおもっているのか。」

「はい。」

「妻と主張してもお前への愛など応えられぬ。」

「そうであっても私は、家族になっていた時間を取り戻したい。マークス兄さんと過ごしていたかもしれない時間も。産まれてきていた可愛い息子達との時間も。あっもう寝ている。」

視界が黒くなった。決して真っ暗でない。温もりのある真っ暗がマークス意識に広がっていた。

続くかも。


































































































続きを読む