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「パレード」吉田修一 感想



感想の前に、久々にブログを書いた理由をすこし。

ブログを離れていた間、Twitterをすごくやっていて、これでとても楽しかったのだけど、
140字、というTwitterの文字数制限はわたしが何かについて「書きたい!」「思いを残したい!」と思うときに使う文字数として いささか少なすぎて、感想らしい感想、レビューらしいレビューはどんどんしなくなっていった(もちろん、色々事情もあってたくさんブログを書いていたころとは環境も変わったので、時間的に書けなくなった、というのも大きい)

けれど、ここ半年くらい日記をつけていて、それが思ったよりも楽しく、良い感じに続いているお陰で、プライベートでも日々インプットしたものを「感想」「考察」「レビュー」みたいなかたちで少しでもアウトプットしたくなってきた。

そして考えたのが、今まで日記の中にごちゃごちゃ書いていた本の感想をMARKSから出ている「Reading Edit」という 読書の感想用に特化したノートにまとめる、というかたち。

今さっき、わたしは記念すべき最初の感想を書き終えたばかりだ。
その作品がこの記事のタイトルにした吉田修一「パレード」
紙に書いて、フゥ、と自分の中でこの作品についてひとつ咀嚼し終えて、さぁ次の本…といこうと思った。
でも、わたしは貧乏症なので、ここまで書いたならこれ誰かに見せたいなーっていう気分になってきた(貧乏性っていうか、自己顕示欲強いのかなぁ…)
そしてピンと閃いた。

久々にブログ書こう!!

短くまとめるつもりだったのに、結局長々書いてしまった。
つまりは単純にがんばって書いたから「誰かに見て欲しかった」

最初からそう言えよ!って自分で自分のめんどくささに辟易したが、そんなわけで、また本の感想書いたらブログ書こうと思います。
良かったらまたお付き合いください。


+++++++++++++++

(本題はじめ)


この作品を手にとったキッカケは、直木賞作家の吉田修一の初期の傑作、と聞いたから。
また、映画の「悪人」がとても好きだったので(ここ数年で「悪人」を超える邦画にまだ出会っていない。ああいう泥臭い、人間臭い映画が公開されて、ある程度興行収入が得られるしくみが日本にあることにちょっと感謝しているくらいだ。あまりにいい映画なので、まだ見ておられない方に広くおすすめしておきたいところだけど、子どもにはわからないと思うので、精神年齢の高さに定評のある方にだけこっそりオススメしたい。主演の妻夫木くんと深瀬さんも素敵だけど、わたしは満島ひかりちゃんと岡田将生くんの演技についてもすごくすごく心に残っている。演出も映像も、役者の演技も、ぴたりとハマっていた。ハリウッド映画には出せない泥臭さ、人間臭さだ)

こんな調子で映画「悪人」について延々と話し続けられそうなくらいには「悪人」が好きなのだけど、実は吉田修一さんの小説を読むのはこの「パレード」が初めてだったりする。
賞を獲った作品だと聞いたし、ペンネームも強面だし(?…最近の作家さんはちょっとオシャレなペンネームが多いので、それと比較して普通っぽい名前ですよねですよね…?)どんな硬い、読みにくい文体かと思ったら、ものすごく軽くて読みやすくて驚いた。

物語の筋書きはこんな感じ。

強い思い入れがある友人同士でも、恋愛関係にあるわけでもない男女5人が狭めのマンションの一室で共同生活を送っている。
大学生のサトル、人気アイドル俳優を恋人に持ち、彼からの掛かってくるのかこないのかわからない電話を待って1日をすごしている琴美、不仲の両親を持ったがゆえに男性に対して暗いトラウマを抱えている未来、男娼のサトル、映画の配給会社に勤める直輝。
共同生活を送るキャラクターの一人称視点が章ごとにリレーのようにつながっていく連作長編の形式で、時系列通り、とりとめのない、本文中の表現を借りれば「まるでチャットルームにいるような」匿名性の高い、誰もが「自分」を演じているかのような日常がつらつらと語られていく。

退屈な小説だなぁ、と9割をだらだらと読んだ。正直、どうしてこれが山本周五郎賞なんだろう?と思った。

ところが、ラストの章で青春群像劇のようだった物語は一転「世にも奇妙な物語」のような「こわい」話だったのだとわかる。

正直わたしは冒頭付近と中間部にあった「巷ではある事件が起きていて、世間を騒がせている」という大きな伏線の存在をすっかりぽっかり忘れていて、最初ラストを読んでも「????」状態だった。
どうしてあの人があんなことをしたのかも分からないし、突然すぎる!と。
でも、作品の9割を前フリに使う大胆な手法と青春小説としてのレベルの高さはすごいと思う。
山本周五郎賞を獲ったのも頷ける、初めて本を読む人よりも数多くの作品に触れてきた玄人にうけそうな、捻くれた魅力のある作品だと思った。

個人的には5段階で3くらいの好き度だけど、読んで語り合いたい部分がとても多い作品なので、気になった方はぜひ読んでみてください。
そして、ラストの感想を語り合っちゃくれまいか。わたしはいま、話したくてウズウズしてるけど、誰もこの気持ちを分かり合える相手がいなくてムズムズしています。ムズムズ。


【山小屋というよりはロッジ風の小さな別荘でさ、何度かドアをノックしてみたけど、中には誰もいなかったんだ。考えてみれば、八ヶ岳といえば避暑地だもんな。で、諦めて駅へ戻ろうと思ったんだけど、ああいうのをなんて言うんだろうな、急にさ、急に『目の前にあるガラス一枚、お前は割れないのかよ』って誰かの声が聞こえてさ、別にどうしてもその山小屋に入りたいと思ってたわけじゃないんだぞ。それなのに、そんな声が聞こえると、なんていうか、入ってみたいような、入らなきゃいけないような、そんな気になるんだよ。もちろんその山小屋が他人の持ち物で、そこのガラス割って侵入すれば犯罪行為になるってことぐらい、頭では冷静に分かってんだよ。それなのにさ、なんていうのかな、今俺は家出中なんだってことに少し興奮してたのもあるのかな、その山小屋の中へさ、もっといえば、見知らぬ他人の持ち物であるその山小屋の中へさ、無理やり侵入してみたいっていうか……、無理やり自分の体を押し込んで、その山小屋自体を自由に動かしてみたいっていうか……、そんなヘンな衝動に駆られたんだよ】


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