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Az.「僕と君と夏の空」



僕らの出会いは青空が綺麗な日だったね。
僕は今日なら飛べるかもって思って
入院中の病室から屋上へ向かって歩いた。

生まれたことに後悔はしていないけど、
生きてるこの世界に喜びなんて見い出せなくて、
見い出そうともしなくて、
生きてることに後悔して、
何度も死を選んでたんだ。

一週間前、曇空の日にふといつものように飛べると思ってマンションの屋上に出た。
今にも泣き出しそうな空をみて何故か僕も泣きたくなったんだよ。

一歩踏み出して、落下。

やっとこの日がきた、なんて唯一の喜びに浸ったのに。

あっけなく失敗。
ぶざまにも僕は生き延びた。

「危なかったのよ、よかったわね」

なんて看護婦さんが言ったけど、どこがよかったんだか、
僕には理解できなかったよ。

その時の怪我で僕はあの病院に入院していたんだ。
そして懲りずに屋上に向かっていた。

ドアを開けたら広がる蒼と白いシーツがはためく世界。
夏の空は高くて遠い。
手を伸ばしても届かないのは百も承知だったけど、
飛ぶには丁度良い蒼さ。


その場所で、
僕は飛ぼうとした。
君は手を伸ばしてた。


Az. 序章



彼女はいつもコーヒーの香りがした。



あの包むような優しい香りが好きだ。
砂糖をまったく入れない彼女の匂いは少し苦かったけれど、
それもまた彼女らしくて好きだ。
あの匂いに包まれてる時、
"生きててよかった"と思う。

あの匂いがあったから、
僕は生きてこれたんだと思う。

彼女に出会わなかったら、
僕はきっと、死を躊躇わなかっただろう。
今頃何もない世界に立っていたんだろう。




これはそんな僕が彼女に書く最後の手紙。
今まで避けていたものを受け入れることができたから、ペンをとった。


もう大丈夫。
もう一人で歩ける。

今まで、ありがとう。



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