任務が終わったのが8時。三上さんに報告して着替えて外に出た時は10時を少し過ぎていた。
「クリスマス・・・。」
呟いて携帯を確認する。メールが5件。内4件がタマだった。クリスマスなのに仕事だと愚痴のメール。返事くらいしてと彼女のような文面に溜め息が出た。
最後の1件は理恵である。
「メリークリスマス。怪我だけはしないようにしてね。暇なときにうちに来たらプレゼント上げる☆」
クリスマス。理恵は一人でいるのだろうか。気になって短縮ボタンを押した。
俺だけどと言うと穏やかにお疲れさまと返される。
「今から行っても良いか?」
夜も遅いが穏やかな声を聞いたら会いたくなった。いつでもどうぞと言うから速攻でタクシーを捕まえる。「すぐ行く。」
慌てているのがばれたのか携帯の向こうで笑われた。
理恵のマンションに着くと迷わず一室のドアホンを鳴らす。
「いらっしゃい。寒かったでしょ。」
すぐに中に通されて理恵がキッチンに入る。出してくれたのは熱い珈琲だった。「怪我。してない?」
「無傷。脱いで見せようか?」
「来ていきなり脱がれても困るわよ。」
呆れた顔はされるが声は穏やかだ。隣に腰を下ろす理恵の肩を抱く。
「メール。プレゼントって何なんだ?」
「使える物が良いかと思って。」
そう言って包みを渡される。理恵が咎めないからその場で包みを開いて中を確認した。
「キーケース?」
「笑太は持ってないから。」
どこか含みのある言い方だ。気になったが機能を確認する為にケースを開いてみる。中には既に一本の鍵が付いていた。まさかと思って理恵を見ると笑っている。これは間違いなくこの部屋の鍵だ。
「無くさないようにね。」「やばい。時間があったら入り浸るぞ。」
「差し支えがないならいつでもどうぞ。」
嬉しくて華奢な体を抱き締める。
「クリスマスに渡せて良かったわ。ぎりぎりセーフね。」
そんな言葉に時計を確認すると12時5分前。そこで自分が何も用意していない事に気が付いた。それなのに理恵は何も言わない。
「何が欲しい?」
「価値のあるもの。あくまで私にとってね。」
理恵はブランドにも然程興味がない。ただ高価な物にひかれる事がないのだ。
考えた末にラッピングの赤いリボンが目に付いた。
「じゃあこれだな。」
理恵を放してリボンを手に取る。細かい作業は得意ではないが自分の左手の薬指にリボンをなんとか巻き付けた。
「自分の指に巻いちゃうところが笑太よね。」
必死で考えたプレゼントだったが理恵は可笑しそうに笑っていた。
「でもまだクリスマスだから。喜んで預かるわ。」
左手を取られてリボンを外される。理恵はそのリボンを自分の左手の薬指に巻き付けていた。
「笑太のプレゼントに釣り合うかしら」
「俺、貰い過ぎかもしれねぇ。」
さり気なくアプローチしたらあっさり快諾してくれる。穏やかな笑顔が堪らなくてもう一度抱き締めた。腰を撫でると逃げようとするから片腕で拘束してしまう。
「まだ30秒はクリスマスだろ。」
「スケベ。」
非難する声まで穏やかだからその唇にキスを落とした。
日付が変わるまではこの唇を放さない。
薬指の約束をしたのだ。たまには流されてくれるだろう。そんな願いを込めて抱き締める。柔らかい唇を少し舐めるとちょうど日付が変わっていた。
「理恵の首に巻けば良かった。」
「やらしい。」
「欲しいものは欲しいんだよ。」
抵抗しようとするのを抱き上げて寝室に行く。
「俺にとってはまだクリスマスって事にしといてくれ。」
「やっぱりスケベ。」
言い返されるから唇を奪う。まだ魔法が解けないうちに。
「鍵を渡したんだから襲われても怒るなよ。」
耳元に囁いて暖かい首筋に顔を埋めた。
今度の休みは本物の指輪を買いに行こう。
理恵の薬指にはまだリボンが巻き付けてあった。
俺の物だ。
最高の余韻に浸りながら穏やかな体温に酔い痴れた。