第三話『melancholic friend B』
「凄く困ってるし、非常に困っているので、弥生に相談に乗ってほしいの」
いつも通りのいつもの朝。
あたしが教室に入ると、いきなり憂鬱な顔をしたアキが目の前に現れ、開口一番そう話しかけてきた。
「色々ツッコミたいことはあるけど……まーたあたしに相談?今度はどうしたのさ?」
「――実は」
「実は昨日、ハルくんにこっ告白したんだ」
「………………」
「………………」
「…………はあっ!?」
「やっぱり驚くよね。私もまさか告白できるなんて……」
「いやいやそっちじゃなくて!あんたとハルハルまだ付き合ってなかったわけ!?」
「……言ってる意味がよくわからないよ。どう考えれば私とハルくんが付き合ってることになるの?」
絶句。
どう考えればって……どう考えてもそうなるでしょうに。
あたしの情報が正しいなら休日は必ずと言っていいほど二人で遊び、手も普通に繋ぐわお互いの家にも当然のように行くわで、公言こそしないが去年の夏にはもう付き合い始めてるとばかり思ってた。
思ってたのに――付き合ってない?
いや付き合ってるのと一緒でしょ?
「恐るべし天然の力……」
「は?」
「なんでもない。で?返事はなんだって?」
わざわざ聞かなくても大体の想像はつく。でもまあ、アキの恋バナは聞いて損はないし、ここは本人の口から聞きたい。
しかしアキの答えは、
「返事はされてない。ハルくんに家に送られてそのまま帰っちゃった」
という、あたしの想像を根本から吹き飛ばすものだった。
「えーと……つまり告白したのにも関わらず、なんの返事も貰わないままハルハルに送られて帰ったと?」
「うん」
「馬鹿ですかあんたは」
「バカなのは自分でもわかってるよっ。だからその……弥生は長谷くんと付き合ってるじゃない?何か良い案を教えてくださいお願いします!」
「……あんた、情けないにもほどがあるよ?大体、案とか言われてもね、ハルハルに正直な気持ちを聞くしかないでしょ?」
問題になっているのはアキが告白の返事を聞かなかった――それだけのことだ。
だったらもう、あたしのしゃしゃり出る話じゃない。
後は若い二人に任せてってやつ。
「ハルくんの正直な気持ちを……やっぱりそれしかないよね」
どこかすっきりした顔で自分の席へと戻っていくアキ。
「うん、弥生の言うとおりだよね。相談に乗ってくれてありがとう!今度、ちゃんとお礼するから!」
去り際のその言葉がいつものアキらしくて、思わず苦笑してしまったのは内緒にしとこう。
(本当、世話の焼ける親友だ)
・藤崎弥生〈ふじさき やよい〉…ウェーブがかった長髪が特徴的な、長崎高校三年C組に在籍する女子生徒。文芸部部長であり、晶良とは中学からの親友(公認)で相談役。三善と付き合っている。
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