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送り火

 

オレたちが訪れた場所には、水面に浮かぶ多数の暖色の光。
今日は、年に一度の灯篭流しの日だ。

毎年行われるこの行事が特別なものに感じるようになったのは、あの修学旅行がきっかけだった。

オレは数日前のことを思い出していた。


* * *


「○○、何それ?
野菜にマッチ棒なんて突き刺して、どうしたんだ」

○○の家に遊びに行くと、彼女は摩訶不思議なものを作っている最中だった。

「これはね、精霊馬だよ」

「しょうりょうま?」

「うん、これはご先祖様の魂を乗せるためのものなの。
この胡瓜は、ご先祖様を迎え入れるための馬。
馬は足が速いから、すぐにご先祖様がこちらに連れてくれるとされているの。
そして、この茄子はご先祖様を送り出すための牛。
ご先祖様が帰る時に供物を運んでくれるとされているんだ」

○○は野菜でできた人形について、詳しく説明してくれた。
オレはそれに乗ったご先祖様を想像してみる。

「……なぁ、○○。
その図って、相当シュールじゃないか」

「う、うん。そうだね」

オレにつられてその図を想像してみたのか、○○も苦笑していた。

「あとは、このマッチ棒を刺して…よし、できた」

○○はできたばかりの精霊馬を満足げに眺めている。
そのタイミングで、彼女の母親の声が聞こえてきた。

「○○、できたー?」

「うん、丁度できたところ」

オレは○○と一緒に、精霊馬を持っておばさんの元に向かった。
鼻歌交じりに精霊馬を飾る○○の様子に、おばさんは不思議そうに首を傾げている。

「どうしたのかしらね、あの子。
今まで、お盆の行事になんてほとんど関心を示さなかったのに」

○○がこの行事を大切にしている理由はオレにはわかる。
あの世にいる人の魂がこの世に帰ってくるこの行事は、○○にとってもオレにとっても特別なものだから。


* * *


○○の手には、名前の書いていない灯篭がある。
○○は灯篭にあの人の名前を書いた。

○○にとって最愛だった人。
150年という時間を超えて出会い、そして避けられぬ別れをした人の魂を供養するために○○はここを訪れたのだ。

ろうそくに火を点けて水面に浮かべると、それは風の流れに乗って遠く離れて行った。
流れて行った灯篭を見送る○○の瞳が切なく揺れる。

すると、その場の空気が柔らかなものに変わった。

オレは何度も瞬きをした。
そこにはあの人の姿があったから。

彼は、優しい眼差しをして○○の頭を撫でている。
オレの視線に気づいたのか、彼と目が合った。

『コイツを頼む』

目線でそう言われた気がした。
オレも目線で返事をすると、彼は穏やかに微笑んで空へと消えて行った。

この数日間、○○はちゃんとあの人の気配を感じられたのだろうか。

「○○、ちゃんと供養はできたのか?」

「うん。なんかね、あの人を近くに感じられたの。
翔太くん、付き添ってくれてありがとう!」

○○は嬉しそうにそう答えた。
足取り軽く家路に向かう○○の背中に、オレは誓った。

「オレは、○○の笑顔を絶対に守ることを約束します。
アイツの笑顔でいられることこそが、貴方が掲げてきた未来だということを知っているから」

空を見上げると、星がキラリと瞬く。

それはまるで、あの人が『任せたぞ』と言っているようだった。

fin.

◎あとがき

まずは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

今年も灯篭流しの時期を迎え、お盆に関するお話を書いてみたいな、と思って書いたのがこのお話です。
この話を書いたのは7月で、そんな時期にお盆なんて…と思われる方もいらっしゃるかと思います。
他の地域ではお盆の時期を8月に迎える所もありますが、東京では7月の半ばにお盆を迎えます。

それにちなんで、お盆のことについて少しばかりお勉強させていただきました。
ですが、それをこのお話に取り入れることもできず…(汗
でも、今まで知らなかった日本の行事について知ることができたのはすごく良い刺激になったと思います(*^_^*)

実はこのお話を書いたいきさつはそれだけではありません。
現在、私は来たる結エンド配信に備えて各旦那様の鏡エンドを攻略しているのですが…
そろそろ精神が挫けそうです(T_T)
贔屓にしている、していないに関わらず、悲しいお別れをするのは辛いですよね。

私は現在、龍馬さんと沖田さん、翔太くん、土方さん、古高さん、高杉さんの鏡エンドの回収を致しました。
旦那様に対する申し訳なさと、切ない結末に心が痛かったです。
沖田さん√に関しては水⇒鏡の順でエンドを迎えたので正直しんどかったです(-_-;)

ここを訪れた方の中にも、そういう方がいらっしゃるかも知れません。
それでも、それが史実。
こうして歴史上の人物に愛着を持つことって、決して悪いことではない。
むしろ、素敵なことなんじゃないかな。

だからこそ悲しんだ分、供養することも大切だと思うんです。

こんなことを私が言うのもおこがましいかも知れませんが、皆様の供養の手助けができたらいいな。
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