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暖かな日差しが心地よい日暮れ前。
置屋の遣いの途中だった○○と偶然会ったわしは、一緒に食事をしていた。
その帰り道。
置屋に向かう最後の曲がり角で、わしはさりげなく踵を返して目的地とは反対側に曲がった。
「龍馬さん、置屋は左ですよ!」
「○○、はやちくとわしに付き合ってくれんか?
おまんに見せたいものがあるんじゃ」
「えっ、でも時間が……」
「なんちゃぁない、約束の時間にゃ必ず帰すき。
ほれ、行くぜよ」
戸惑う彼女を手を取って、わしはその道を進んだ。
置屋が小さくなっていく。
何度も振り返ろうとする彼女に構わず、わしは足早にその場所へ向かった。
「○○、ここじゃ」
「わぁ、すごい!
こんな所があったなんて……」
○○は目の前に広がる景色に、感嘆の声を漏らす。
そこは、見事な彩りを見せる花畑。
色とりどりの花が、辺り一面に咲き誇っている。
「ははっ、喜んでもらえたかの?
ここはな、その季節ごとに花が咲くんじゃ。
いつ見ても飽きん。
わしの気に入りの場所じゃ」
「素敵なものを見せてくださってありがとうございます、龍馬さん!」
彼女は無邪気に笑顔を綻ばせる。
わしがいつも見ていたいと願う、幸せそうな笑顔。
――わしの選択は、間違っていなかった。
先ほど、置屋とは逆の道を進んだのは、その先に覚えのある人影があったから。
それは、わしにとって都合の良くない相手。
その場面に鉢合わせてしまったら、○○に怖い想いをさせてしまう。
それだけは、どうしても避けたかった。
彼女には、明るい未来を見せてあげたい。
その夢は、○○がそばにいてくれたら叶う気がする。
どんな険しい道であっても、美しい景色を見つけることができるから。
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「よう、邪魔するぞ」
いつも通り窓から侵入する俺を、○○は呆れ顔で迎え入れる。
「追われていたんですか?」
あまり危険なことはしないでください、と言いたげな彼女を、俺はこの腕に強く抱きしめた。
「ちょっ、高杉さん。
いきなりどうしたんですか?」
「ちょっとした雨宿りだ」
彼女は不思議そうに窓の外を見やる。
それも当然だ。
雨なんて降ってはいない。
俺は、彼女の肩口に顔を埋めた。
今、顔を見せたら、彼女は気遣わしげな目で俺を見るに違いない。
先ほど、目の前で同士が捕縛された。
もう、彼は助かることはないだろう。
もう少し早く、彼の元に向かえたら助けられたかも知れない。
それを思うと、ただ悔しくて。
このことはいずれコイツにも伝わるだろう。
ただ、オレから伝えることに躊躇してしまう。
彼は○○のことを、心から可愛がっていたから。
コイツはきっと、彼のことを想って涙する。
悲しみの涙を流す○○を見ることは、俺には耐え難いことだ。
言葉もないまま、時間が過ぎていく。
すると、○○は俺の意を汲むように俺の身体に腕を巻きつけてきた。
彼女の身体から伝わる温もりに、胸の痛みが和らいでいくような気がした。
「邪魔して悪かったな。
俺は、もう行く」
彼女から離れ、部屋を出ようとすると。
「雨、早く止むといいですね」
「あぁ」
俺は振り返らずに、小さく返事をした。
どんな危険をおかしたとしても、その足を止めることはできない。
俺には、追いかけなければならないものが沢山あるから。
俺も、○○も、いつ消えてしまうかわからない。
何もかもが刹那過ぎて、その現実にくじけかけたことは何度もあった。
だけど、アイツがいるだけで癒されるのは、確かなこと。
それがひと時の安らぎだとしても、それに包まれながら眠れるのならとても幸せなことだ。
俺が目指す先には、それが永遠に続く世がある。
今はただ、それを信じて突き進むのだ。
一日でも早く、叶えるために。
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
はじめは慶喜が拾ってきた"駒"でしかなかった。
それは駒にするにはあまりにも世間知らずで。
だけど、世間知らず故の危なっかしさや無垢さに目を離すことができなかった。
計算なのか、あるいは愚かなのか。
気がつけば、それに振り回されている自分がいる。
* * *
「ただ今、帰りました〜」
玄関から彼女の声が聞こえると、パタパタという足音が近づいてくる。
「これ、○○はん。
そないに足音たてて走ったらあきまへん」
「あっ、すみません……」
彼女は小さく謝ると、抱えていた包みを差し出す。
「おつかいが終わったから、早く秋斉さんに渡したかったんです」
その中身は、先ほど彼女に頼んだもの。
そして……。
「これは?」
「これでよろしかったですよね。
秋斉さん、お香切らしていたでしょ」
「おおきに、○○はん。
わても忘れてたことやのに、よう気が利きますな」
「最近、秋斉さんからいつもの香りがしなくて寂しかったんです。
って、私ったら何言ってるんだろ!
別に、匂いフェチっていうわけでは……」
「……ふぇ、ち?」
彼女は聞き慣れない言葉を口にすると、ひとりで百面相をする。
彼女を見ていると、本当に飽きない。
○○は、きっと気付いていないだろう。
自分の元に駆け寄ってきた彼女の姿に、幸せそうに寄り添う俺たちの姿を重ねて見ていたことを。
それは、かつての自分では想像できなかったこと。
自分の志には必要ないことだと思っていたから、気にはしなかったけど。
この先も孤独で険しい道を進むのだろうと思っていた。
だけど、それもきっと彼女と出会うための道のりだったと、今の自分ならそう思える。
彼女と出会ってから、欠落していた感情が埋まっていくような気がする。
それが計算でも、愚かであっても。
振り回されるのも悪くはない。
――愛してる、○○。
そんな感情さえも、素直に抱けるのだから。
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
260年以上も続いた幕府が終わった。
この手で終わらせたことで、何を手に入れ、何を失ったか。
仲間も、名誉も。
かつての栄華は一寸も残っていない。
俺がしてきたことは、一体何だったのか。
思い返すと、ただ悔しくて、むなしくて。
華やかだったこの街も、今ではその面影もなく。
頬を打つ風がひどく冷たく感じる。
だけど。
俺には、いつだって励ましてくれる存在がいた。
彼女がいたから、どんな時も優しい気持ちでいられた。
無駄なことは何一つない、って。
どんなに先が見えない道でも、必ず明ける時が来るから、って。
ひたむきな彼女の言葉に、俺は救われたんだ。
彼女の存在を支えに、ようやくこの時を迎えられた。
俺は、決して失ってばかりではなかったんだ。
一歩先を歩く彼女の背中に問いかける。
「後悔はないか?」
彼女は答える。
「そんなものは、これっぽっちもない」
差しだされた彼女の手を俺はためらうことなく取った。
あの頃のように、飾り立てるものも華やかなものも、贈ることはできないだろう。
それでも、彼女の笑顔だけは何があっても守ろう。
どんなことがあっても、彼女のことを手離したりはしない。
空を見上げると満天の星が瞬いている。
それはまるで、心からの誓いと俺たちの未来を祝福しているように見えた。