智久が芳樹と出会ったのはインフルエンザに罹った満月を連れて、
守り刀もなしに血相を抱えて病院へ駆けこもうとしていた時だった。

「はぁ……………退屈な日々になりそうだな………。」

受験真っ最中の智久は気分転換に散歩をしていた。


「………………おい、言うことを聞け!」

近くの公園を通りかかった時、何やら騒ぎ声がした。

「聞けるか!俺はこの子を病院に連れて行くんだ!」

2歳ぐらいの子供を連れた少年が複数人の男達に囲まれていた。
周りにも人がいたが、警察を呼んだ方がいいのではないかとかいうばかりで
動こうとしなかった。

それを目撃した智久は、仕方がないと諦めて声をかけたのだった。

「おいおい、病人を連れてる人間に言うことを聞けって言っても無理があるだろ?
善は急げって奴だ、諦めて他の人間に当たったらどうだ?」
「何だと!?」

言うが早いか、智久は自身めがけて拳を飛ばしてきた男達に蹴りを入れた。

カンカンカン、と勝負が決まり、芳樹はおぉ…………と拍手した。

その後、警察が駆けつけて芳樹達は事情聴取を受けたが、
満月がインフルエンザに罹っていることもあって手短に終わった。

「…………すまん、礼を言う。」
「何、気にするな。綿貫と言えばあれだな、世界有数の大企業グループの御曹司じゃないか。
普通だったら護衛の1人や2人ぐらいはつけると思ったんだが。」
「…………何分急いでいたものだから。」
「………となるとその子は姫宮グループの長女にして末っ子か。随分と愛されているんだな。」
「婚約者だからな…………。」
タクシーを拾い、病院まで向かうことにした智久は芳樹に色々と話をした。

他愛もない世間話をしている中で、2人は同じ学校を受験する予定であることがわかった。
「………何だ、同じ学校を受験するのか。奇遇だな。」
「…………ホントだ。まさか同じ高校に受験しようとしている奴と出会うなんて。」
「そういや、俺はまだ名乗っていなかったな。俺は青桐智久。」
「………綿貫芳樹だ。こっちは婚約者の姫宮満月ちゃん。」

桜庭総合病院に向かうと、そこには連絡を受けた守り刀が待ち構えていた。

「若旦那様、御無事で…………!」

「青桐智久様ですね、この度は若旦那様とお嬢様を助けていただき心より感謝申し上げます。」

「いやいや、俺は何もしていないぜ?誘拐犯を蹴っただから。」

「いえ、何を仰いますか……………。ここまで一緒に来てくださり、ありがとうございます。」

ペコリ、と頭を下げる守り刀のへし切長谷部に、智久は手を横に振った。

「若旦那様、先生がお待ちです。お嬢様を診てもらいましょう。」

「あ、うん。…………今回は本当に助かった。礼は必ずするから。」

「おう。」








そして数日後。智久は綿貫家に呼ばれ、豪邸に足を運んでいた。
「……………すみません、青桐です。」
「はい、青桐智久様ですね。お待ちしておりました。」

長谷部の案内で智久は大広間へと移動する。

「………おぉ、君が青桐智久君か。先日は馬鹿孫が世話になったの。」
「あ、いえ…………。」

「…………して、礼の件についてじゃが。
守り刀を1振り贈ろうかと思ってな。受け取ってはくれまいか?」

「え?良いんですか?」
「うむ。同じ学校に通うことになるじゃろうし、長い付き合いになりそうだからのぅ。
そら、鶴丸。入ってきなさい。」
「……はっ。」

襖が開き、1人の女性が大広間に入ってきた。

「鶴丸国永、と申します。以降よしなに………。」
「……宮内庁御物の鶴丸国永!?滅茶苦茶嬉しいんですけど、ホントに良いんですか!?」
「はっはっは、知っておったか。こりゃ良い酒が飲めそうじゃ。」

「ありがとうございます、御前。」

「いやいや、こちらこそ。馬鹿孫とその婚約者を守ってくれて礼を言うぞ。ありがとうな。」



かくして、智久は芳樹と親友になり、共に受験勉強に励み見事第一志望に受かった。


ちなみに。鶴丸を紹介された時の智久の家族の反応はというと。

「いやいやいや、返してこい!」

「あら、良いじゃないの。お母さんは賛成よ。家のことも手伝ってくれるんでしょ?」

「はい。ご命令とあらば、お手伝いいたしますが。」

「あらー、助かるわ。何分育ち盛りが多くて大変なのよ。」

「母さん!」


という具合になったのであった。




終わり。