「イルカさん、イルカさん〜。」
「シャチにも会えるもんねー。」
「うん!」
ショースタジアムに到着すると、たくさんの人でごった返していた。
「わぁ、たくさんの人がいる!」
「最前列、座りたかったなぁ〜………。」
「でも、濡れちゃうよ?」
「まぁまぁ、濡れたら風邪をひいちゃうしね。」
「………今の時期、小さい頃の満月はすぐ風邪を引いていたからなぁ。」
「季節の変わり目は特に酷かったな。」
「………もう、こういうところで昔の話をしないでください!」
「ホントよ。どれだけ満月ちゃんが好きなのよ、貴方達は。」
やれやれ、と美穂が呟いた時、あのぅ……という遠慮がちな声が聞こえた。
「姫宮綾人さんと姫宮満月さんに綿貫芳樹さんですよね?
ちょっとお願いごとがあるんですけど………。」
「お願い事?」
芳樹達に声をかけたのはアクア・ファンタジアのスタッフであった。
スタッフの後ろには同僚達が何やら頑張れ、というポーズをとっている。
「今日、アーティストとのコラボショーを企画していたんですけどそのアーティストが渋滞に
巻き込まれちゃって来れそうにないって連絡が来たんです…………。」
「…………何で渋滞に巻き込まれたんですか?」
「それがその………恋人と何か金銭面のトラブルを起こしたらしくて、
それで対処していたら、遅くなったと………。」
「………金銭面のトラブルを起こしてどうするんですか。」
「よりにもよって今日かぁ………。」
「………ええっと、つまりは私達に代わりをして欲しいと………。」
「すいません、すいません!こういう時だけ連絡網早いんです、うちは!!
お三方が家族で遊びに来ているって!
無理難題を言ってすみませんけど、助けてください!
ホントに困っているんです!!」
「…………どうします?」
「………まぁ、仕方がないでしょう。時間もないことだし。」
「不測の事態って予想できないからねぇ。」
「すみません、すみません!」
「パパのお歌聞きたい!」
「私も!」
「芳樹おじちゃんと満月お姉ちゃんも歌ってー。」
「…………美花ちゃん達、他人事だと思って………。」
「子供の純真無垢な視線、時に怖いんだよね…………。」
「小狐丸、美月をお願いね。」
「はい、かしこまりました。美花様達はしっかり見ておきますゆえ。」
「ええ、頼んだわ。鳴狐、ピアノ弾くわよ。」
「………了解。」
「頑張ってください、お嬢様達。」
続く。