「……………マジか?」
「マジよ。嘘をついてどうなるの?」
「これはめでたいな。婚姻届けを早めに出さなければ。」
「そうね。早めに出しちゃいましょうか。」
とある夏の日のこと。
美穂は綾人におめでたを告げた。
「そうか……私はパパになるんだな…………。
お義父さん達には?」
「これからよ。きっと喜ぶでしょうね。」
「ああ、間違いなく喜ぶさ。」
「式も挙げなければなぁ……………。」
「どうせなら、おばあちゃんが着ていた花嫁衣裳を着たいわ。
お腹がパンパンになる前に。」
「そうだな。いや、そうかそうか………。」
美穂のお腹に手を当てて、綾人はこの上ないぐらいの幸せな表情をした。
「…………絶対幸せにするから、元気に生まれてくるんだぞ。」
「あら、頑張って産むのは私の仕事よ。」
「………む、そうだな。」
「………そうかそうか、おめでたか!よくやったぞ、美穂!」
美穂から連絡を受けた孝一はひゃっほー、と喜んだ。
「父ちゃん、喜びすぎ。」
「あら、颯太だって喜んでいるじゃない。」
「いやだって、家族ができるんだろ?すげー、嬉しいよ。
男の子かな?女の子かな?」
「どちらにしても初孫になるもの、楽しみだわぁ……………。
さて、結婚式の準備をしなくちゃね。」
「そうだな、誰を呼ぼうか………………。」
続く。
「ちょっと、美穂!」
「昨日、見たわよ!」
「見たって……………綾人と一緒にレストラン入るところを?」
こてん、と首を傾げる美穂に友人達はやっぱしかー、と叫んだ。
「これでも付き合って半年は経過したんだけど…………。」
「半年も付き合っているの!?」
「というか何であの姫宮グループの長兄と付き合うことになったの?」
「プロポーズされたのよ、公演が終わった後に。
綾人の一目惚れだったみたいで。」
のほほんと惚気話をする美穂に友人達はきぃぃ、と叫ぶ。
「おじいちゃんの葬儀さえなければ舞台観に行けれたのに………!」
「いやそもそもアンタじゃ無理だってば。」
「そりゃハートを射抜くのは無理だってわかっているけどー!」
すると、美穂のスマホに着信が鳴った。
「あら、芳樹君からだわ。どうしたのかしら?」
「ちょっと浮気!?」
「違うわよ、多分、満月ちゃん絡みだと思うんだけど。」
美穂はそう言うと電話に出た。
『………あ、みほおねえさまだ。』
「はぁい、満月ちゃん。どうしたの?」
『あのね、みほおねえさまとあやとおにいさまのにがおえをかいたの。
こんど、みてもらおうとおもって。』
「まあ、そのためだけにわざわざ電話をしてくれたの?ありがとう、嬉しいわ。」
にこにこと話をした後電話を切った美穂はうふふ、と笑った。
「妹が出来たらお姉ちゃんって呼ばれるのが夢だったんだけど叶って良かったわ。
お姉様、ですって。」
「良かったじゃん、美穂。」
「ええ、良かったわ。」
続く。
それは美穂が綾人と付き合い始めてから半年が経過した頃。
美穂の大学時代の友人達は居酒屋で飲んでいた。
「それにしても最近、美穂付き合い悪いわよね。」
「そうそう、独身女子の会にもめっきり参加しなくなったし。」
「彼氏でもできたかな?」
「まっさか、あの堅物に限って………。」
「でもさ、姫宮綾人さんのファンになったって言っていなかった?」
「ああ、おじいちゃんの葬儀があって見に行けなかった舞台の話ね………。
グッズをわんさか買ったって言っていたわー………。あー、見に行きたかった。
冠婚葬祭は仕方がないけどさー………タイミングってもんがあるでしょ!」
「そうよね、男との出会いもタイミングってもんがあるわよね!」
「ふっ、だから私達には良い出会いがないのよ…………。」
「それを言っちゃおしまいじゃない。」
和気藹々と話をしていると、友人の1人があ、と呟いた。
「ねぇ、あれって美穂じゃない?」
「え?」
「嘘、あ、ホントだ!」
「ね、隣にいるのって姫宮綾人じゃない!?」
「うっそぉ、何でぇ!?」
「………………。」
「どうかしたのか?」
「いえ、何ていうか友人達がこの近辺で飲むって話をしていたから、
目撃されてしまっているんじゃないかと思って。
まあ、でも隠す必要はないからいいのだけど。
気にしなくていいわ。」
「…………そうか。すまないな、なかなか時間が取れなくて。」
「いいの。こうして貴方と一緒の時間を過ごすだけでも嬉しいんだから。」
高級レストランに入る2人の姿を、友人達は呆然と見ていた。
「…………う、嘘でしょーーーーーーーーー!?」
「あの美穂が玉の輿に乗っちゃったーーーー!?」
「ありえなーーーーい!」
翌日になり、美穂は大学で友人達に問い詰められることになったのであった。
続く。
姫宮美穂。
姫宮家次期頭首にして姫宮6人兄妹の長兄、姫宮綾人の妻である。
4人の子供に恵まれ、順調な人生を送っていた。
「はい、姉ちゃん。煮物のおすそ分け。」
「悪いわね、颯太。」
「わあ、颯太おじちゃんだー!」
「遊んで遊んでー!」
「彼女できないのー?」
「だー!」
「…………ああ、もう未だに彼女はいないけど姪っ子達が可愛すぎる!」
キャッキャッと美花達に囲まれる颯太を見て綾人はフッ、と笑った。
「義弟でもこうも差が出るとはなぁ……。」
「歳の近い義弟は嫌いなの?」
「実感が沸かんし、たまに義兄さんと言われてみろ。寒いぞ。
それに比べて颯太はまだ良いじゃないか。」
「良かったわね、颯太。褒められているわよ。」
「………あの、姪っ子と遊んでいる時にそう言われると……………。」
「旦那からの褒め言葉として受け取っておきなさい、愚弟。」
「こんにちは、美穂お義姉様。綾人お兄様。」
「やぁ、颯太君。来ていたのかい。」
「あ、満月ちゃんに芳樹さん、お邪魔してます。」
「私のお母さんから煮物を大量に頂いたの。食べちゃって。」
「美穂さんとこのお母さんが作る煮物は絶品だからなあ。」
「はい。」
「ばあばの料理は美味しいもんねー!」
「ねー!」
「うん!」
「だー!」
美花、美鳥、美風、美月の4人に綾人はよしよしと頭を撫でた。
「でもそろそろ男の子の1人や2人は欲しいわねぇ………。」
「あ、姉ちゃんもやっぱりそう思ってたのか?
父ちゃんもそろそろ孫息子が欲しいな………って言っていたぞ。」
「……綾人似の子供ができるのか…………。」
「こら待て、誰もまだ作るとは言っていないぞ。」
「あら嫌だ、これから作るってことでいいのかしら?」
「美穂!」
「うふふ、からかい癖があっていいわねー。」
続く。
「………え、嘘、綾音ちゃん………良くなってきていない?」
「ホント!?」
「信じられない………これだと退院できるかも…………!」
夢から目を覚ました後、定期検査をしていた綾音は数値が良くなっていることを驚かれた。
「おじいちゃんが良くなるって言っていたの、このことだったんだ…………!!」
その様子を芳樹と満月はひょい、と小児科病棟の病室の端から覗いていた。
「やっぱり闇呪が綾音ちゃんの体も蝕んでいたみたいですね。」
「そうだね。おじいさんが代わりに請け負っていたかもしれないね。」
「孫思いの良いお爺様なんですね。」
「でもこれで闇呪も消えさったことだし大丈夫だと思うんだけど。」
「はい。…………でも人間の夢に侵食できるとなると厄介ですね。
綾音ちゃんみたいな子供だったらまだガードが緩いですから、入ることができたんですけど………。」
「そうだね。大人とかだと、結構ガードが堅いから。」
「現実世界に引きずりだして、どうにかするしかないね。」
「…………はい。」
「…………あ、芳樹お兄ちゃん、満月お姉ちゃん!」
2人の姿に気づいた綾音は2人に駆け寄った。
「この調子だと退院できるって、おばあちゃんの誕生日を一緒にお祝いできるよ!」
「それは良かったわね、綾音ちゃん。」
「うん!ありがとう、芳樹お兄ちゃん、満月お姉ちゃん!」
続く。