(那千/甘)
「ねえねえ!那岐!」
千尋が微笑う。
まるで春の満開の桜のように。
「なんだよ…うるさいな。
ボリューム、少し下げてよ」
「いいから!
ちょっとこっち来て」
「…ったく、なにさ?」
僕がこの程度毒づいたくらいでは、千尋の笑顔は消えたりしない。
それはなんだか本心を見抜かれているようで悔しくもあるのだけれど、嬉しくもあることだ。
「…ん?」
「ね、可愛いでしょう?」
「……猫?」
近寄った千尋の腕の中のそれはまだ小さかった。
なるほど。
こいつを抱いていたから、駆け寄って来なかったのか。
普段なら、千尋は不精な僕を呼び付けることはあまり無く、逆にパタパタと僕についてくる。僕はそんな千尋を怠いフリをして待ってやるのだ。
「さっき見付けたの」
可愛いでしょう?と言葉を繰り返しながら、千尋は子猫を僕に見せてきた。
千尋の両腕にすっぽりと収まる小さなそれは、ニャーと鳴くどころか、なんだか眠たそうだ。
「ふぅん、なんかやる気なさそうな奴だね、子猫のくせに」
「あははっ、那岐がそれを言うの?」
「だってそうだろ?
野良なら警戒心だってあってもよさそうなものをさ…」
千尋に撫でられて、ゴロゴロと気持ちよさそうな様子の子猫に、溜息をついた。
「わかるのかもね、気を許していい奴かどうかが」
「?
今、何か言った?」
聞こえていなくてもいいことだよ。
きょとんとする千尋に内心そう思いつつ、口では別の言葉を繋ぐ。
「千尋に似て、呑気なんじゃない?」
「あっ!ひどい」
「千尋は馬鹿が付くほど呑気だろ」
呑気で無邪気で純粋で。
追い掛けてくるその姿を見ていると抱きしめてしまいたくなる、その子猫のように。
「ねぇ、僕にも抱かせてよ」
「ん、いいよ」
「やれやれ、抱く奴変わっても寝てるの、こいつ」
千尋を抱きたいその腕で、小さな猫を抱く。
彼女が空いたその手でそっと撫でてやれば、僕に抱かれたままでも子猫再び夢の中だ。
「珍しいね、那岐が何かしたがるなんて」
猫、好きなの?と聞いてくる千尋はやっぱり呑気だと思う。
そんなの、決まってるじゃないか。
「…そこは僕のだから」
千尋の腕の中を指して、にやりとして一言。
流石の彼女もすぐに顔が真っ赤になった。
こんな意地悪くらい許してよ、鈍い千尋にいつも僕は振り回されているんだから。
猫を撫でて、僕は笑った。
END.
ベタネタ;
那岐のツンデレを表現してみたかった。笑
(星天/ほのぼの)
青年は幼い少女と目線が合う位置に跪づいた。
無駄の無い動きで高い背を折り畳み、優しい微笑みを向けてくれる。
「こちらを天子様に差し上げます」
少女はこの青年の大きな手が好きだ。
彼の大きな手は、いつも希望をくれたから。
しかし、今日その掌には小さな淡桃色の花が一輪、ちょこんと乗っていた。
艶やかというよりは可憐という表現の合った花。
「可愛らしいお花…
星刻、これは?」
「桜と申しまして、エリア11…日本の花なのですよ」
「これが、あのさくら?」
以前、青年が写真で観せてくれたことがある。けれどそれは満開の桜並木だった。
それがこんな可憐な花だったなんて。
「あの薄桃色はこの花の集まりなのですよ」
「わぁ…とても小さいお花なのね」
無闇に触れては散ってしまいそうな華奢な花。
幼い少女の大きな瞳は興味深いそれに釘付けだが、手に取るには少し躊躇われて。
「天子様、お手を」
そんな心を察した青年は丁寧な仕草で彼女の手を取って、桜の花をふわりと乗せてくれた。
「あ…ありがとう、星刻っ!」
触れた手にドキッと心臓が跳ねる。
それはすぐに離れてしまったけれど温かさは十分に伝わってしまったから。
「また何かあれば、お持ち致します」
「はいっ、楽しみにしていますっ」
ほんのり頬を染めた少女が笑顔になれば、青年はそれを愛おしむよう目を細める。
少女が天子と呼ばれる存在である限り、真の自由は無いのだろうけれど。
青年がこうして外の世界のカケラを少しずつ見せてくれているその幸せを少女は噛み締めていた。
END.
星天好き過ぎる!!!
天子様のしんくーって呼び方に萌え(´∀`*)