(学へヴ/和啓/甘)
「泣くなよ〜、なっ?啓太?」
「泣いてないっ!」
「お前、鏡見て云ってるか?」
「見なくてもわかる………ぐす」
「鼻啜りながら云われてもなぁ…」
和希は可愛いなぁ〜なんて人差し指で頬を掻きながら苦笑した。
強がってはいるが啓太は泣いている。
理由も解っている。和希が何も教えてやらなかったことが原因だ。
こういった喧嘩はよくある。どちらも互いを想ってのことなので、この喧嘩は犬も喰ってはくれない。
「お前…いつもいつもいつも何も云ってくれなくて…俺っ…いつもいつもいつも不安になって……〜〜〜〜〜〜っ…」
男の子にしては大きな目から、ポロポロと水滴を零す啓太は贔屓目にもとても愛らしい。
「ごめん、寂しかったよな」
「そうじゃなくて…俺が泣い…怒ってるのはそういうんじゃない」
「はいはい、怒ってるの、ねぇ」
「かーずーき〜?」
わざとらしく茶化す、和にぃな和希。
いくら睨まれても本人の思考回路はお花畑の中にあると云っていい程、色ぼけしている。
ぐす、ともう一度鼻を啜ってから、啓太は和希を困ったような表情で見詰めた。
「俺な、和希。寂しいんじゃなくて、悔しいんだよ…」
「悔しい?」
「そう。お前は大人で、しかも理事長で……いつまでもお前に追い付けてないから…」
「そんなのは−−」
「気にするなって云うんだろ?」
啓太は存外に和希について解っている。
間髪いれずに和希の言葉を予言した恋人は、まだむっつりしたまま言葉を繋いだ。
「それでも俺は気になる。和希が好きだから…いつまでも隣に居られるような男になりたい」
なんでも話してもらえて、一方的に助けて貰うだけでなく、相談し合えるようになりたい。
そう云う啓太に和希は破顔した。
「〜〜けーたっ!」
「わっ!?な、なんなんだよっ」
破顔したと同時に抱き着き、啓太を押し倒す。我ながらなんと脆いリミッターだろう。
啓太はとても純粋なのに、大人という酷く醜い自分はいつか愛想を尽かされてしまうのではないだろうか。
「大好きだ。愛してる」
「ん…和希…俺も…」
狡猾な大人は今回も、啓太の強固な意志を流してしまう。
キスを深くしながら、和希は啓太の服にするりと手を忍ばせた。
どうか赦して欲しい。大人の醜さを気付かれたくないのだ。
何も話さないのは愛し方の問題。己の余計なしがらみに愛しい人を巻き込みたくはない。
唯唯、大切に守りたい。
頬を伝うこれは汗か涙か。
和希は快楽の虜となった啓太を組み敷きながら、自分の頬を拭った。
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