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貴方のシアワセ

(歪アリ/猫を連れてED/シリアス)






闇が、そこにはあった。



真紅のソラ

漆黒のウミ

なのに草木は鮮やかな蒼色で。



私の前にはぽっかりと闇の扉が開いている。トンネルのように円く、筒のような闇。
中には、こんな場所は似合わない真っ白な長い耳のシロウサギ。



あぁ…これはユメだ。

だってあなたは…


−−−−アナタハ……………





∽夢のユメ∽





いつの間にかぼんやり立ち尽くしていたそこに、確かに私はある。
じゃあ、これ、なに?


「…シロ、ウサギ」


現実を確認したくて、私はなんとか声を搾り出した。

何故か動けない。
抱きしめたいのに。
謝りたいのに。


「あなた、だよね…?」


もう砕け消えてしまったはずのシロウサギはあのスラックス姿で影の中で静かにあるだけ。
私は重たい身体に動けと念じた。


『アリス』

「っ……シロウサギっ!」


生首になってしまったチェシャ猫を抱いて眠りについたら、あなたがいて。

あの時は自分の力無さを後悔して、それからあなたが守ってくれたココロだから、前を向いて歩むことを誓ったけれど。


「本当は会いたかったの。もう一度っ」

『いいんだよ、アリス』

「シロウサギシロウサギ…っ」


私は躊躇わずに闇の中−−シロウサギの腕の中に飛び込んだ。
さっきまでの身体の重さは、ない。だから思い切りシロウサギを抱きしめられる。


「ごめん、ごめんね…?私は弱いから、お母さんもあなたも中途半端にして…二人とも………っ」


失った≠ニ続けたかったけれど、だめ。そんな悲しすぎる現実、言えない。
私はまだ…弱いままだ。

ネクタイにまだ泣いてない顔をこすりつけて、するとシロウサギは頭を優しく撫でてくれた。


『泣いて、いいんだよ』

「でも………」

『弱くて、いいんだよ』


甘い響きは耳じゃなくて心に浸透する。
…あなたはいつも私が望む言葉をくれるんだね。


「ほんとはだめなの、わかってるけど…解ってるけど……」


涙が出てこない。こんなに苦しいのに。
シロウサギの温かさがこんなにも愛しく、大切。


「いないなんて、切な過ぎるよぉ!」


私は白いワイシャツを力いっぱい握りしめた。まるでしがみつくように、引き留めるように…。


「っ…ふ…」

『アリスの幸せは僕らの死合わせ(シアワセ)』

「やだぁ…っ、シロウサギ…!」

『これで、いいんだよ』


子供をあやすように囁かれた声に私は涙を流さずに泣きわめいた。しゃくりあげて、うまく言葉も紡げない。

すると光が見えた。明るく細い光が、シロウサギを斜め下から照らす。

透け、てる…?
確かに私はシロウサギの腕の中にあるのに、シロウサギは光の通り道の部分だけ透けていて、その身体ごしに後ろの果てのない闇が見える。


「…も、いっちゃうの?」

『……いつまでも、甘えん坊だねぇ。アリスは』


見上げたシロウサギが苦笑してる。真っ赤な瞳が優しく揺れた。
懐かしい…微笑。私は何度もこの表情に救われてきた。


『君はいい子だから、大丈夫』

「私、今…幸せなの?」


歪む視界の中でシロウサギは小さく頷く。
光がだんだん強く、大きく広がって、闇の果て間で照らしてる。もうシロウサギは首と足しか、ナイ。


「悲しい」

『うんうん』

「…涙、出ないけど、悲しいんだよ!悲しい!」

『そうだねぇ』


悲しい悲しい悲しい、ともう透けるどころか見えもしないシロウサギの胸をドンドンと叩いた。
でも首がただただ微笑って頷くだけで、その度にふわふわの耳が揺れた。


『僕はアリスとずっと一緒にいられて幸せだったよ』

「あなたがいなきゃ、幸せじゃないって言っても…だめなの?」

『アリスの幸せは、僕らの死合わせ』


同じ言葉をもう一度。
そしてどんどん、シロウサギが消えていく。足が消え、抱きしめてくれていた腕が消え…


「…………幸せ…」


シアワセなんていらない

そう、言いたかったのにシロウサギの幸せそうな顔見たら、それ以上言えなかった。


「私はシロウサギが大好きだよ」


真紅の瞳を細められ、それを最後にシロウサギは光に飲まれてしまった。サアァッと砂が風に舞うようにあっけなく。


それから斜め下からの光は闇を消して、果てのない闇は入口を遠くに移した。

不意に横に目をやると、漆黒のウミの波打ち際に、丸いモノが転がっている。


「チェシャ…猫?」


波に打ち上げられ、引き込まれ…
生首は行ったり着たりを繰り返す。


「あ………」


それは遂に真っ赤な波に、掠われた。
ウミに流されてしまう!助けなきゃ…!と、駆け出す前に私は…………−−−


**********



「っ………」


ベットの上で目が覚めた。
頬には熱い雫が流れ落ちる。


「ユ…メ?」


私は手でそれに触れ、涙であることを確かめた。
重たい身体をゆっくり起こすと、脇にはちゃんと猫の首がにんまりしていた。


「今のは私の夢だ…」


こうありたいと念うユメ


『僕らのアリス、悪夢をみたかい?』


やけにはっきりと、チェシャ猫の低い声が耳に響く。

窓の外の朝日が真紅に輝いた…





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