(捏造、艶表現注意!!
望美ちゃんは譲の十六夜ルートのような感じに龍神に身を捧げた設定。
アクラムは遥か2からです、たぶん)
シュルリ…
抱き合う二人の衣擦れの音がやけによく響く。
この空間には、時計の針が時を刻む音さえもないのだという実感はこの時湧いた。
今聞こえているのは、
かつて遠くから聞こえてきていた鈴の音と、
衣擦れの音と、
…彼の吐息だけ。
「神子」
「望美って呼んでって言ってるのに」
「ふふふ、こだわるな、望美」
「だって本当のことだから」
金色(こんじき)の長い髪が揺れ、吐息の主である男が妖しく微笑む。
少女の苦笑は、己が過去の偉業への嘲りを仄めかしていて。
「アクラム、もっと抱きしめて」
アクラムと呼ばれた男は、
望美の願いの侭、彼女を蜘蛛が巣くった胸へ招いた。
#重なる時空 千の夢#
〜最果ての甘き牢獄〜
此処は、
龍神に身を捧げた者が眠る終焉の地。
真白き底は、絶望の果てと呼ぶにはあまりに温かく…儚い。
虚空は、寒さすらありはしないのに、どうしてもヒトの温かさを求めてしまう。
互いの体温を探して際限なく交わる身体は、それを一番必要としているようだ。
「可笑しなものだな」
「なにが‥?」
「滅びを望んだ私が、自ら死ぬことも選択できぬ場所にいることがだよ」
「…お互い、人の身に余る願いを叶えてしまったもの」
言うなり少女が切なそうに目を伏せると、上気した頬に長い睫毛の影が落ちる。
慰んだ後の敏感な素肌を辛うじて覆うのは、少女には不似合いの大きな紅の衣。
そしてその下には無数の刀傷が隠れている。
アクラムがそこに唇を寄せては己の印を散らすので、純白だった肌は更に汚れてゆくのだ。
望美は鬼が息づいていた時空より遥か遠くからやってきた。
刃を持った傷だらけの手は既に血塗られていて。
だが、『守りたい』という信念を突き通すには闘わねばならなかったという。
彼女の無垢さと非情さ。
幼さを残す少女がその暗闇に苛まれる姿が、アクラムは狂おしく、愛おしい。
かつて鬼の一族として対峙してきた『龍神の神子』と呼ばれた少女達にはなかった闇′フに…。
望美の癖のない長い髪から見え隠れする無防備なうなじ。
アクラムは牙で切り裂いてしまいたいという衝動を甘受しつつ、甘噛みを繰り返す。
「っ、んん…」
「このまま喰らってしまおうか」
「あっ…っ」
抵抗もなく甘く震える望美を見ると恍惚とした気持ちになる。
鬼の証である毛色が、望美の紫苑色の髪と絡み合えば、一層妖しい流れになった。
「いいのか?私が龍神に望んだのは破壊だぞ。元・龍神の神子殿」
「…貴方が何を願ったかは、関係ない。
違う時空に生きていた私達が偶然…今、此処で出逢っただけ」
「偶然などではなかろう」
「そうかな…? …っ!」
低く低い囁く甘美な言の葉。
首筋に指を伝わせ、細い肩から着物を落とせば、もう見慣れたきめ細やかな肌が現れる。
アクラムが鎖骨へ口付けてやり、望美はせがむよう抱き着いて……こんな行為を繰り返すのは何度目か。
「フフフ、大成を成す者は衆に謀らず、と言うではないか」
「アクラム…?」
腰に回した腕にいつになく力を込めたアクラムを不思議そうに見上げてくる大きな瞳。
肩に顔を埋めれば、望美の甘い香りが鼻腔を擽る。
この人間の香りが、いつから心地良く思えてきたのか。
アクラムは可笑しくなった。
「我々は孤独であっただろう?」
「そんなことない、皆いたもの…」
「偽るな。
お前は逆鱗の存在を仲間に告げず、独りで未来を変えてきた」
「でもそれは私が望んだことで…っ」
「黙れ」
「っんん…っ」
今にも雫が零れそうな双眼を手で覆い、嘘言しか吐かないつれない唇を自分のそれで封じる。
痛みすら伴うそれに躊躇した望美の口内に舌先を割り入れ、快楽に身を侵すような接吻を。
「ふ……、んぅ…っ」
狂気に満ちた行為なれど、蹂躙し、宥めるような緩慢な動作にしかならなかった。
小さな咥内で舞うように絡み合う舌を名残惜し気に退けば、銀の糸が二人を繋ぐ。
「っ、はぁ…はぁ…」
「…もう最果ての地までやってきたのだ。隠す必要もあるまい」
乱れた息。
紅潮した頬。
哀しみに潤む二つの翡翠の石。
すべてが愛おしく、アクラムは瞳の澄んだ青色をいっそう深めた。
今、仮面という妨げはない。
だから彼女のころころと変わる表情がよく見える。
二人は似て非なるものだ。
アクラムは絶望を、
望美は希望を求めた。
だが、指導者たるものの孤独は同じ。
ただ闇夜に身を潜め、静かな孤独に心を沈めてきた記憶は決して消えない。
「…アクラムも、苦しかった…?」
「もう忘れたな」
「隠す必要ないって言ったくせに」
望美が幼くぷうっと頬を膨らませるのに、ククッと喉を震わせて笑った。
鬼として、
そしてその首領として、
怯え、蔑み、妬み、媚びる醜い光を宿す眼を受け続けてきた。
だから自分に物怖じしない望美に執着するのかもしれない。
アクラムは緩慢な仕草で、望美の繊細な輪郭をなぞり、ふっくらと熟れた唇から接吻の残滓をペロリと舐め取る。
「ひゃ…」
「龍神が我々を出逢わせた。
ふん…傷を舐め合わせるためかは知れぬがな」
「アクラム…」
空間に響く嘲笑と皮肉な口調。
望美は癒しを与えるかのように、一糸纏わぬ柔らかな身体でアクラムを包む。
「そんな顔しないで。
私はずっと一緒にいるよ」
卑屈になりたくもなる。
たとえ錯覚だとしても、
愛せた女が此処にいる。
「フフフ、望美。
これを愛≠ニ言うと思うか?」
「どちらだとしても…私は貴方のものにはなれないけれど」
この身は龍神への供物。
「それでも好きだよ。貴方が好き…」
我らは龍神に自らを捧げた者。
「そうか…。ならば、よい」
この身体は私のものであって私のものではあらぬ。
「それが…贖罪なのだから」
忘れろ、とでも言うようにアクラムは強引に身体を繋いだ。
性急な行為に跳ねる華奢な腰を、構わずに押さえ込む。
「ああっ…っん、アクラ…ムっ」
「望美…」
いくら抱き合っても詮無きことと知りつつも、望美は拒絶することなく、求めるように細い二本の脚を絡ませてきて。
互いに瞳がぶつかった時には苦笑が零れた。
せめてこのまま夢を見て、
二人で溶けてしまえればいい。
この虚空の狭間に。
「…私達、沢山命を奪ってきたのに…こんなに幸せでいいのかな…っ?」
「…どうだろうな……」
望美の頬を濡らす美しい涙が、生理的に流れるものか、哀しみによるものかを知れない程、愚かなつもりはない。
アクラムの苦笑は薄闇の中に消えた。
此処は、
龍神に身を捧げた者が眠る終焉の地。
真白き底は、絶望の果てと呼ぶにはあまりに温かく…儚い。
平和という、
復讐という、
ヒトビトの夢を叶えた者は今、眠る。
醒めない夢に身を潜め。
罪深い我らにはそれが相応しいから。
ゆるゆると朽ち果てることを待つ。
この甘き牢獄で。
♭fin♭