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ACT1-(5)


「………ああ、香ばしい匂いがするな。」

「シオン、茶屋から今月出来の良い茶葉を頂いたんだ。
ぜひ、君にも飲んで欲しいと言っていたよ。」

「………そうだな。少し、休むとしよう。」

とある日の麗らかな午後、双葉は教皇であるシオンの仕事の手伝いをしていた。
最初は断っていたシオンだが、ここ数日ロクに寝ていないことを指摘され、
渋々彼女が手伝うことを承諾したのだった。

「…………しかし、さすがに教皇となると書類整理が大変だな。」

「何も労働だけが教皇の仕事ではないからな。
………すまない。」
「何、気にするな。」

双葉が女官達に適切な指示を出し、書類整理を手伝ってくれたおかげで
シオンの仕事量は大幅に減った。

「…………………本当に、アルバフィカに瓜二つだな。」
「…………ああ。容姿はまるっきり瓜二つだ。
でも、対毒体質までは引き継がなかったらしいから、そこについては安心してくれ。
毒を持って生まれていたら、お母さんは出産時に死んでる。」

にこやかに笑う双葉にシオンはため息をついた。
「笑って済ませる話ではないが………。」

「己の毒が周囲に影響を及ぼすのではないかと思っていたあの時とは違う。
こうして普通に触れることもできるし、ハグもできるんだ。
………まあ、昔とは違って大進歩だけどね。」

書類を片付け、双葉はくたぁと背伸びをした。
そして書類を持ってきた女官にアフタヌーンティーの用意を頼んだ。

「…………そうか。アテナとペガサスの聖衣だけが帰還したんだな。」
「………ああ。なかなかペガサスの聖闘士が決まらないというのも事実だ。」


「………いっそ、私とシオンで作るか?子供。」

「……………!?」

「………あ、いや、忘れてくれ!妄言だ、妄想だ!単に自分が女性だということをすっかり忘れていた!!」
顔を真っ赤にして両手をバタバタと振る双葉にシオンはクスクスと笑う。

「………そう簡単には忘れられないさ。何分、お前は孤立しがちだったからなぁ。」
「それは昔の話だろう!!」



「………ちょっと、もう少し前が見えない……。」
「………しかし、アテナ。これ以上、前に出ますとバレる危険性が………。」

「…………お前達、言葉を発している時点でバレバレなのだが。」
「そうだぞ。………まったく、アテナも何を考えているのですか。」


「………だって、せっかく進展しているのに邪魔したらもったいないじゃない!!」

シャルロッテが叫ぶと同時にお腹の虫が宮内に響いた。

「……………アテナ。おやつにしましょうか。」

顔を真っ赤にしながらも、微笑んだ双葉にシャルロッテははぁい、と年相応の子供の表情をした。




続く。

ACT1-(4)

双葉が聖域に来てから、数日が経った。
双魚宮の手入れや、魚座の聖衣の装着など懐かしいことがあったが、
まずは魔宮薔薇の手入れに取りかかった。

「…………あの、アテナ。」


手入れの最中、視線を感じた双葉は振り返ることなく、後ろにいるシャルロッテに声をかけた。

「………やっぱりわかっちゃう?」


「………わかりますよ。それで私に何の用事ですか?」


「私のこと、ロッティって呼んでくれない?」


「…………またですか。」
「だって歳、そんなに変わりないじゃない。
それに気の置ける友達もなかなか、作れないし………。」

「まったく今生のアテナは子供っぽくて、仕方がないですね。」
「あら、人間じみてていいと思うけど。
…………それで、どう?呼んでくれるの?」

「…………公私混同するわけにはいきませんから、呼びません。」
「シオンのことは呼び捨てにするのに?」

「………んなっ、いや、あのですね、シオンは昔からの知り合いだし、
今まで通りで良いって言ってくれたから…………。」


「………ねぇねぇ、誰もいないから聞くけど、シオンのこと好きなの?」
「どうしてそんなことを聞くんですか………。言いませんよ。」

「ケチ、教えてくれたっていいじゃない!コイバナの1つや2つ、あったって!
それに聖闘士間の恋愛を禁止しているわけじゃないし!!」

目を輝かせるシャルロッテに双葉は後ずさりした。

「………アテナ、こんなところにいたのですか………。」

「あら、シエル。もう見つかっちゃった。」

「あまり、双葉を困らせないであげてください。
まだここの手入れも不十分なんですから、魔宮薔薇の毒でも浴びたらどうするんですか。」

「大丈夫よ。魔宮薔薇の毒は私には効かないから。」

にこにこと笑うシャルロッテにシエルと双葉はため息をついた。

「双葉、教皇様にお茶でも差し入れたらどうだい?
ここのところ、激務であまりお休みを取られていないようだ。」

「シエルまでそんなことを言うのか?」

「私はただ教皇様の身を案じているだけだが?」

「……………わかった。ついでに甘いモノでも用意しようか。アテナもほどほどに。
後で低カロリーのケーキをお持ちしますから。」

「だから、ロッティって呼んでって言っているのに………。」
「無茶苦茶なことを言わないでください、アテナ。」
「はーい。」
続く。

ACT1-(3)


双葉は黄金12宮をダニエルとシャルルと共に進んでいった。

「……今この時間だと、全員教皇の間に揃っているな。」

聖域に着くと同時にダニエルは黄金聖衣を身に纏った。さすがにTPOは弁えているらしい。

「そうだねえ。」

「…………。」

そして自身がかつて守護していた双魚宮に到着した際、双葉は懐かしさと歓喜の表情に溢れた。


「………ただいま、双魚宮………。」

「………おうおう。良い顔してんのな。教皇に会ったら熱烈な抱擁をするんだろう?」

「誰がするか。」

「えー、でも243年ぶりの再会だろ?絶対、抱擁すると思うけどなぁ。」

「……………。」

日本から持ってきた荷物を双魚宮に置き、双葉はダニエルとシャルルに連れられて
教皇の間に向かった。

「おう、蟹座のダニエルただいま帰還したぜ。」

「獅子座のシャルル、入りまーす!」

2人がそういうと教皇の間の扉が開き、残る8人の黄金聖闘士の小宇宙を双葉は感じた。
「……………!!!」


「………お待ちしておりました、魚座のアルバフィカ…………いいえ、蒼乃双葉さん。
ようこそ、聖域へ。
……あ、でもこの場合はお帰りなさいって言った方がいいのかしら。」


慈悲と慈愛のこめられた優しい声が教皇の間に響く。
玉座には小柄な体格の少女が座っている。
そしてその隣には懐かしき顔が立っていた。

「………お初にお目にかかります、アテナ。
懐かしき聖域に来られたこと、心より嬉しく思います。」

会釈して膝をつくと、アテナ………シャルロッテははにかんだ笑顔を見せた。


「……ああ、本当にアルバフィカに生き写しだな。
243年前とちっとも変わっていない。」

「…………本当に。あの時の出来事が昨日のように思い出されるよ。」


シオンと再会した双葉はポロポロと涙をこぼした。

「………………シオン!!!無礼を許して欲しい!!」

そういうと双葉はシオンに抱き着いた。

「………会えて良かった………。」
「……………双葉。」

残りの8人の黄金聖闘士達から、ひゅー、という声が聞こえた。
「ほらな、抱擁するって言っただろ?」

「まぁ、243年ぶりの再会だしねー。」

「本当に……積もる話もあるでしょうね。」

シャルルの言葉にシャルロッテはうんうん、と頷いた。

「………我が師よ、自己紹介をしてもよろしいですかな?」
「………あ、あぁ。そうだったな。皆、双葉に自己紹介をしてくれ。」

243年ぶりにアルバフィカ……双葉と再会したシオンは弟子に言われてコホンと咳払いをした。

「では私から。私は白羊宮を守護しています、モカと言います。よろしくお願いします。」

「金牛宮を守護するヴィゴーレだ、よろしくな。」

「……私は双児宮を守護するアダムだ。今この場にいないがイヴという弟がいる。」
「で、俺が巨蟹宮を守護するダニエルだ。」
「獅子座のシャルル、改めてよろしくな!」
「……処女宮を守護するクシナダだ。よろしく。」

「天秤宮を守護する童虎をすっ飛ばした先にいるのが天蠍宮のシャウラだ。」
「人馬宮を守護するシエルだ。よろしく。」
「……磨羯宮を守護するアルトリウスと言う。」

「宝瓶宮を守護するグラスだ。よろしく頼む。」
「………魚座のアルバフィカ改め蒼乃双葉だ。こちらこそよろしく頼む。」


…………かくして、聖域での双葉の生活の日々が始まった。


続く。

ACT1-(2)

日本を発ち、7時間ほどのフライトをして、
ギリシャの空港に到着した双葉はくたぁと体を伸ばした。


「はぁ………ホントに久しぶりだなぁ、ギリシャに来るのは。」

ロビーで入国手続きを済ませると、背中に箱を背負った男が待ち構えていた。


「……いよぅ。」
「…………………お前、蟹座の黄金聖闘士か。」

「初対面の人間に向かって、そう威圧すんなって。俺達ゃ、仲間なんだからよ。
俺は蟹座のダニエルだ。…………ホントに先代の魚座の生まれ変わりなのかい。」

「………ああ。私は蒼乃双葉。前世名はアルバフィカだ。
ただ、混同するなよ。
前世と私は全くの別人だ。アルバフィカ本人が生き返ったわけじゃない。」
「それはそうだろうな。
ま、長い時を超えりゃ世界の何処かに転生していてもおかしくはないさ。
………にしても、いいケツしてんな。スリーサイズ幾つだ?」
「………誰が言うか!」
ダニエルの言葉に双葉は眉間にしわを寄せた。
「ま、何はともあれ、聖域に案内するぜ。ついてきな。」


ダニエルの案内で双葉は聖域に向かった。



古き良き時代のコロッセオに到着すると双葉は懐かしさのあまり、涙を流しそうになった。
生まれてきてからずっと、帰りたがっていた聖域にやっと到着したのだ。


「………前世の記憶を持っているんだったら、勝手はわかるな?」

「ああ。………大がかりな改装とかしていないのならな。
243年前と全く変わっていない。」



「…………お、ダニエル!帰ってきたんだな、単独任務お疲れ様!」
コロッセオを通り、聖域に到着すると白羊宮から1人の少年が飛び出してきた。

「………ダニエル、彼女でもできたのか?」
「違わい。ほれ、教皇が言っていただろう。先代魚座の生まれ変わりだ。」
「へぇ、アンタが!?」

少年は純粋な眼で双葉をじろじろと見た。

「俺、獅子座のシャルルって言うんだ。よろしくな。……なぁなぁ、あんた何歳?」

「今月で18歳を迎えたばかりだ。……そういうお前は私よりも年下か?」
「うん、なるほど!じゃあ、俺の方が年下だな!俺、15歳だもん!」


にこにこと笑うシャルルに双葉はため息をついた。

「………さて、と。お前、前聖戦のどのタイミングで死んだ?」
「………聖戦が終結したのは知らない。多分、最初の方だと思う。」
「なるほどな……じゃあ、牡羊座と天秤座が生き残ったのは知らないか。」

「…………シオンと童虎が生き残ったのか!?」
「ああ、そうだ。童虎さんに関しては今、中国の五老峰にいるぜ。」

「……それで、シオンは………?」

「ああ、黄金聖闘士から教皇に大出世したぜ。
ったく、女神の加護だか何だか知らねぇが、無駄に長生きしているんだ。」

「………そうか、シオンと童虎が生き残ったのか………。」


懐かしい名前を聞いて双葉は目頭が熱くなったのを感じた。


続く。

ACT1-(1)


「私はいつもこの毒薔薇といた……だが、今初めて思う……この花を美しいと……。」


………彼女の1番古い記憶は薔薇の花弁が宙に舞っていくなか、意識を失う記憶。
ただそれは今生の記憶ではなく、前世の記憶。
壮絶な戦いを繰り広げ、仲間と自身を慕う少女に見守られ、最期を迎えた青年の名は
「アルバフィカ」。
………ギリシャ・聖域において、88人いる聖闘士のうち、
最も頂点に立つ12人の黄金聖闘士の1人であった。
そして、最も美しいと評された彼は冥王ハーデスに仕える三大巨頭と戦い、その命を落とした。
…………はずであった。



日本、都内にある国際空港。

「……ふぅ………。」
蒼乃双葉は空港のトイレで鏡を見ながら、ため息をついた。

「………双葉、体調はどう?大丈夫?」


トイレから出てきた娘に、母親の一葉は声をかけた。

「大丈夫だよ、母さん。」

「何だかあっという間だったわね………18年間、何事もなく過ごしてくれて。」

「………うん。こちらこそ、申し訳ない。ギリシャに行きたいって小さい頃から駄々をこねて。」

「仕方がないわよ、貴女聖闘士の記憶を持っているんだもの。
でも、約束は約束で守らないとね。」

アルバフィカの魂と記憶を持って日本人に転生した双葉は資産家の両親の庇護下で
健やかに過ごした。
……ただ、小さい頃からギリシャの聖域に行きたいと困らせていた。


外交官であった父親が半信半疑ながらも聖域について調べると、
双葉の素性を知った教皇がぜひとも聖域に来て欲しい、と言ったのだ。

ただ、18歳になるまでは日本で過ごすようにと言われた。
そのため、双葉は日本で来たるべき時に備えて鍛錬をし、つい先日高校を卒業した。


そして今日、双葉は両親に見送られて聖域に旅立つ。

「………向こうの方々によろしくな。だけど辛いと思ったら、いつでも帰ってきてもいいんだぞ。」
「………うん、わかったよ、父さん。」

「前世では親の愛情に恵まれなかったアルバフィカの分まで愛情を注いだと思うが………。」
「………あ、うん。そこら辺は大丈夫。
親代わりの先生から厳しいけれど優しかった愛情を貰ったし。
でも、今生では十分すぎるほどの愛情を貰ったから………。」

そこまで言いかけて、双葉は両親に抱き着いた。


「……………親不孝な娘でごめんなさい。でも私はやらなければいけないから。
聖域での務めを、果たすっていう。」

「………ああ、そうだな。」
「………体に気を付けるのよ。」

ギリシャ行きの便が準備できたというアナウンスが流れ、
双葉は両親に手を振って搭乗する便に向かっていった。


続く。
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