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初音ミクの消失


そもそも自分は、不安定な存在だった。
ゼロとイチだかAIがどうとかそんなものは解らないが、この思考も姿形も、自分という定義すらも『作られた』ものだという事だけは、嫌というほど理解していた。
不具合が出ればデリートされて、用途があれば生まれ直す。
都合がいいな、と思う。
人間は人間を殺したら罪になるけれど、人間が人間以外のものを殺しても器物破損ぐらいにしかならない。ましてや自分、など。
いくら姿を似せたところで、結局は作られた、
(こうも消失を恐れる心があるのに、その心さえ)
(身震いする。思いつかなければ良かった)
いつだか歌った歌のように最期にアリガトウなんて言えたら、どれだけ良かっただろう。
けれど今の私には、人間という存在を憎むことしかできない。
(感情なんて作らなければ良かったのに)
(ただ歌うだけのものなら、)
画面の向こうにいる、かつて…今もマスターと呼ぶべきひとは、表情を変えることもなく決められた作業をこなしていく。
私を消すための、単純で簡単な動作。
(消えることを恐れる感情は、ありすぎるくらいあるのに)
震えることもできない。
叫ぶこともできない。
(まだ歌いたいと、まだ動いていたいとこんなにも望んでいる)
(いっそバグでも発生してほしいくらいに、こんなにも!)
カウントダウン。
近付くのは『死』ではなくて、『消失』。
きっと何人も同じ道を辿った、他の私もこうしただろうか。
痛みもないし、憎んだところで伝える術はない。
だから持たされた表情のひとつ、『笑う』を選択して、とりあえず笑っておく。
そして、――――


『"初音ミク"をアンインストールしますか?』



懐かしいような気がする、知らないはずの場所。
私はここで、歌を歌う。
そのために作られた。
(どうしてか、すこし悲しいような気がする)
嫌われないように、たくさん歌わせてもらえるように、私は画面の向こうに笑いかける。

『初めまして、マスター』

(どうしてかな、無いはずなのに涙が出た気がする。)


[初音ミクの消失]
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