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焦がれる。

ほのかな甘い香り、夢の味、真っ赤な色。
ぼくの世界を指で掬ってあなたが嘗めた。
少しずつ切なくなる、熱く深く優しい。
ぼくの世界を胸に抱いてあなたが泣いた
でもぼくはここに来て、隣に座る。
空は酷く青く、ここは寒く、「会いたい」と願わずにいられないのに、「生きたい」そう零したあなたを恨んだぼくがいたのを覚えてる?
雨の日は傘をさして、晴れたら花に水を。
たまに泣いたり笑ったりするあなたを見てた。
でもどちらかと言ったら、もしそう聞かれたら、あなたはいつも笑っていたと、きっとそう言うよ。
ただ一つの言葉も嘘に出来ないのに、その目と髪と唇と、「ここにいて」、ぼくにはそれが嘘に聞こえた。
「一緒ね」
そして一人遠ざかる時に、ぼくがいるのを覚えてた?
空は酷く青く、ここは寒く、「会いたい」と願うなら走っていくのに、「ここにいて」、そうやってあなたがここに縛ったぼくがいるのを覚えてる?
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神様

途切れた雲の隙間から漏れる光が、誰かの足の下で指を舐めているわたしを照らす。
初めて夢を見た夜には、月が海に影を差しながら、それはとても優しかったけど。
熟した熱がたぎる。
わたしはまだ幼すぎる?
美しいわたしの神様、この体を抱いたはず。
わたしの味を覚えたはず。
眠りたいならここで冷たくなってね。
それから終わりだと言って。

暗い部屋の中、赤と白で泳ぐ可愛い魚。
わたしは水槽の水に少し毒を盛った。
もう降りたかしら?
わたしはまだ幼すぎる?
美しいわたしの神様、この体を抱いたはず。
わたしの味を覚えたはず。
目覚めることのない眠りを。
叶うことのない祈りを。
ねえ、わたしはまだ幼すぎる?
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花嫁

「綺麗……」
思わず口をついて出た言葉は、隣に立つ姉とハモった。
わたしたちはクスリと笑い合って、またそちらへ視線を戻した。
ヴェールを被って、少し恥ずかしそうにヴァージンロードを歩く彼女は、それはそれは綺麗だった。
わたしは泣いた。
おめでとう、おめでとう、とどこからも囁くような声が飛び交っていた。
テラスに出て、花びらの中を泳ぐように進む彼女は、やっぱり恥ずかしそう笑っていた。
わたしはブーケを本気で狙ったけれど、ああいうものは狙うと取れないのか、わたしの手をバウンドして、隣のお姉さんの腕に収まった。
羨望の眼差しは、それから何度もわたしの瞳を濡らした。
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朦朧

私に今必要なのは、××と、××××と、××××。
でも××××がない。
あ、そっか。隣の部屋においてきちゃったんだ。
これは新しい薬。
先生にもらった新しい薬。
「だから、もう忘れちゃうことはないでしょう」って先生は言った。
だから私も同じことを言った。
あの子は言った。「だから、もう忘れないでいいのよ」
そらが曇る。そうね、心臓の音が大きく聞こえるようになって
私は分かっている
分かっている。
私は、××××が欲しいの。
とりに戻らなきゃ。
覚束ない足で立ち上がり、廊下をふらふら歩く。
壁を伝いながら。
××が×××の中に入らない。
これは問題。ねぇ………
私、朝になって、このこと、忘れていたいと思うの。
忘れていたいと思うの。
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女子高生の回路

ある人の何気ない行動を、例えばわたしが目に留めて、それがどのような感情に突き動かされたものであるのか思いをめぐらせる。
何事にも必ず因果関係があるというのがわたしの持論であって、そうであるが故、その行動一つ一つも何かしらの思惑があって初めて現れるのである。
それには違いないが、それを本人が自覚しているかはまた別の問題であり、その有無を突き止めるのはわたしにはまだ難しいことである。
あることを突き止めようとするとき、人はその事柄よりずっと先を知り、見据え、自身もそこにいなくてはならないが、実際彼は追い掛ける立場にいるのであり、それに至ることは出来ても、その先を越えるのは不可能である。
わたしはしばしばこの事実を見失う。
追跡者であるわたしは、自分がまるで目標よりはるか先にいるような錯覚を覚え、そしてそれを疑問にも思わない。
それを終えたとき初めて、自分がより後方にいたということを思い知るのである。
つまり、わたしは彼の感情というものを追いかけながら、しかし突き止めたとき、あるいはもっと後になって自分の栄華を創考したとき、追跡者であった自分よりはるか先を走っていた彼の本当の思惑の存在を知って愕然とするのだ。
わたしはこのとき、決まってばつが悪く、また驕っていた自分を反省して恥ずかしくなる。
自覚するべきである。
彼の動機を突き止めることが出来たとしても、それが一体どれだけの思慮の上にあるものなのか、わたしには知る由もない。
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