「……悪いな、小鳥遊。急な話になってしまって。」
「謝らないでください、日番谷隊長。別に隊長が悪いわけじゃないんですから。」
十番隊の隊舎に戻り、荷造りをする咲良に日番谷は申し訳なさそうな顔をした。
「…………まぁ、京楽隊長の言いたいこともわかります。総隊長と一番隊の隊長の兼任は
仕事量が多いですから。
元柳斎先生がご健在なら、ありえないことですよ。」
「……………そうだな。」
十番隊の隊舎を後にし、咲良は荷物を持って一番隊の隊舎に向かった。
「………おい、見ろよ。新入りのくせに第三席だって?」
「…………よせよって、聞こえるだろ。」
「いいじゃないか、鬼道はからきしダメなのに斬魄刀が汎用性に優れているからって。」
「…………。」
死神達の陰口を無視しながら、咲良は隊舎の中に入る。
「…………あら、小鳥遊さん。いらっしゃい。待っていましたよ。」
一番隊の死神に出迎えられて、咲良はホッとした。
「京楽隊長から話は聞いていますよ。突然の異動で吃驚したでしょう?」
「ええ、まぁ。」
「……………それで、ついて早々申し訳ないんだけど貴女に任務があります。」
「………え?」
「空座町で虚が出現したというそうなの。他の死神に任せるべき案件なんだけど、
貴女じゃないとダメだって京楽隊長が。」
「………どういうことですか。」
「………その虚、貴女を轢き殺した犯人らしいわ。」
「……………!」
続く。
「………………ふぅ。」
本日の仕事が終わり、咲良は十番隊の隊舎を歩いていた。
「……………あ、小鳥遊さん!」
同じ十番隊に所属している死神に声をかけられて、咲良は足を止めた。
「何?」
「京楽隊長がお呼びだそうです。大至急、一番隊まで来るようにと。」
「…………総隊長が?何で?」
「さぁ………………。」
「…………何かしらの仕事を頼むなら、日番谷隊長を通すはずなんだけどなぁ…………。」
そう言いながらも、咲良は一番隊に向かった。
一番隊の隊舎に向かい、咲良は扉を開けた。
「失礼します、小鳥遊咲良、入ります。」
部屋の扉を開けると、物凄い霊圧を感じて咲良は身震いした。
「(…………げ、護廷十三隊の隊長格全員揃ってんの…………?)」
護廷十三隊の隊長格が揃っている中、咲良は部屋の中に入る。
「やぁ、悪いね。仕事終わりに来てもらって。」
手をヒラヒラと振る京楽に、咲良はあ、いえ、と首を横に振った。
「…………あの、何の御用でしょうか?」
「平たく言うとね、十番隊から一番隊の第三席になってもらいたいんだ。」
「………え?」
「ゆくゆくは一番隊の隊長を任せようかと思っているんだ、どうかね?」
「…………ちょっと待ってください。
その言い方だと、総隊長と一番隊隊長を別々にしようかって聞こえるんですが。」
「ああ、理解が早くて助かるよ。実際そういうもんなんだ。
なんせ、仕事量が結構半端じゃない。
総隊長と一番隊の隊長を兼任から外そうと考えているんだけどね、なかなか適任者がいないんだよ。
でも君は仕事ぶりもいいし斬魄刀も悪くはない。悪い条件じゃないと思うんだけどね。」
「………はぁ…………ちなみに拒否権とかは?」
「ないよ。」
「………ですよね。」
「日番谷隊長にも話を通したんだけど、本人の意思を尊重したいということで納得してもらったよ。」
「………職権乱用とかしていないですよね?」
「ははは、まさか。」
「………………………。」
京楽の言葉に咲良はため息をつき、日番谷を見てから京楽を見た。
「………わかりました。異動の件については、了承致します。」
「ありがとう、悪いね。」
「……いえ、命令は大事ですから。
でも、隊長昇格試験についてはどうするんですか?」
「ああ、それについては時期が来たら、知らせるよ。まずは第三席の仕事をしてもらうのが先だし。」
「……………わかりました。」
続く。
小鳥遊咲良は高校を卒業したばかりの、何処にでもいる少女だった。
だがある日、暴走する車から保育園児を庇い、命を落としてしまった。
死神の適正があることがわかり、尸魂界で死神としての修行を積むことになった。
「………………………はぁ、もう1度学校に行くなんてねぇ…………。」
真央霊術院を卒業した後、咲良は護廷十三隊のうちの十番隊に配属となった。
「………日番谷隊長、書類片付けておきました。」
「ああ、悪いな。………この間の書類、何処に行ったか知らないか?」
「あ、それでしたらファイリングしてますよ。すぐに出しますね。」
そういうと咲良はファイリングしている資料から、書類を取り出した。
「咲良ちゃん、気が利く〜!」
「………松本、お前も少しは小鳥遊を見習え。」
「………乱菊さん、きちんと仕事しないとダメですよ。」
「咲良ちゃん、隊長に似て真面目ねぇ。」
「……いや、貴女がサボり魔なだけでは?」
「う、それを言われるのはちょっと…………。」
「………松本。ところでお前、今日中に提出しなくちゃならない書類はどうした?」
「ええっと、それはですね………。」
「………隊長、代わりにやっておきました。目を通してくれませんか?」
「…………本当に気が利くな、小鳥遊は。いつも済まない。」
「いいえ、これぐらいしかできませんから。」
続く。
それは冷たい雨が降る日のことだった。
保育園児を庇い、暴走する車に衝突され、1人の少女の命が失われた。
少女が死ぬ間際に見たのは黒装束に身を包んだ者の姿だった。
それはあの世……尸魂界からの遣いだった。