『ねぇ、知ってる?』




いつかの君の声が頭に反響する





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『俺は……君を斬れないっ……!』




傷だらけの君はただ小さく


痛々しかった。



今、俺の前で眠る君




今日の出来事が嘘のようで



穏やかに眠っていた。



だが、これは現実なんだ。




この戦いを放棄しても、いずれはどちらかが消える。




何故……





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「さて、あとどれほど落ちるのでしょうね?」




くすくすと笑い声が暗い部屋に響く。




「どれくらい、残るのでしょうね?あなたはどう思いますか?




菊。




泣いていないでおいでなさい。



これはお上の意志なのですよ?



あらゆるものを篩にかけ



そうやってお上の望まれる『富国強兵』が成し得る。



あなたも国でしょう?



前を、見なさい。」





†††††††††††††††††



いなかった。



俺が部屋を外したのはそんなに長い時間ではなかった。



だが、君はいなかった。



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『ねぇ、知ってる?』



今は君はどこにいる?



『この前長崎のお家で゛人魚姫゛と言うお話しを読んだの。』



君は好奇心が旺盛で


目を離すといつもどこかへ行ってしまう。



『その人魚姫はね、王子を殺せなかったの。』



君のことを理解していたつもりだった


でも、今、君がどこにいるか分からない。



『そして、人魚姫は泡になって消えるの』



反響する


君の声




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「八代なら、どうする?」



「そう、ねぇ。
死ぬのは、怖い。だから、王子を刺しちゃうかもね。」



「薄情だな。」



「ふふっ、なんとでも。
だって、人魚姫はひとりぼっちで死んだのよ。
一人なんて、寂しいじゃない。」



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早く見つけないと


君は寂しがり屋だから



『でも、でもね。


その人が本当に生涯、愛した人なら。』








見つけた



リンドウが咲き乱れる、月のもと




「八代………」





『泡になって消えてしまっても



案外、幸せかもね。』





青々と月光を受け輝くリンドウ




その中で君は紅い花を咲かせ



穏やかに眠っていた。