隣にあったぬくもりが消えた。
次に頭を撫でられる感覚。
小さな謝罪の声。
それでも俺は狸寝入り。
きっと貴方は気付いてる。
でも気付かないフリ。
分かってないフリ。
本当は飛び起きて行かないで、と抱きついて、泣き喚きたかった。
だがそれは出来ない。
俺は新撰組だから。
これは近藤『局長』が決めたことだから。
二番隊隊長の『永倉新八』はそれに従うだけ。
だが『永倉新八』の中の『俺』は必死に叫んでいる。
今ならまだ間に合う。
彼を止めることが出来る、と。
それでも俺は動かなかった。
それを情事の後けだるさのせいにして。
「芹沢先生……っ」
貴方のぬくもりがまだ残っている布団を抱き締める。
貴方の香りに全身が包まれる。
情事の疲労もあってか、途端、酷い眠気に襲われる。
ゆるりと瞼を閉じる。
きっと、次に目を覚ませば俺は酷く後悔するだろう。
でも、今だけは貴方のぬくもりに抱かれ眠りたい。
貴方は今ここにいる、と独りよがりな錯覚に溺れながら。
†††††††††††††††††††††
次に見た貴方は
腹から内臓が流れ
目もあてられないんだろう
それでも、貴方は美しいのだろう
だから
今だけは...
.
一年が経った。
平助、お前が死んでも一年だヨ。
そんで、今日久しぶりに来たのはさ、報告があるからなんだよネ。
今日、左之がそっちに逝ったよ。
嬉しい?
嬉しいよな?
左之がそっちに逝けばきっとそっちも盛り上がるんだろうなァ?
なんか、ズルいなァ。
俺、漫才師仲間いなくてすっごく寂しいんですケド?
「なぁ、俺も……。」
瞬間すっごい風が吹いた。
あまりの突風に目を瞑る。
しばらくすると風は止んだ。
俺の髪の毛をぐしゃぐしゃになった。
『んー、もぅ左之〜あんまり撫でないで〜髪の毛乱れるでショ?』
『あ?男がそんなこと気にするな!!』
『あ、左之だけズルい!!俺も新八っぱつぁんのふわふわの可愛い頭撫でるー!』
『あー、もぅ〜……。』
あ〜あぁ。
うん、分かったヨ。
寂しいケドさ、まだ、頑張るよ。
大丈夫だよ、お兄さんは大丈夫ダヨ。
に、しても、来年は三十路か〜。
よし、こうなったらお前らの分まで生きてるやるヨ。
平助は24、左之は28か
52年?いやいや、それは無理だな。
とりあえず、還暦までは生きていたいかな?
きっと、寂しいだろうケド。
頑張るからネ?
だから、時々弱音吐いても、許してくれよな?
†††††††††††††††††††
『あ、よ〜左之〜。』
『よ〜、じゃねぇよ!!一発殴らせろ!!』
『えぇ〜、俺痛いの嫌なんだけど〜。』
『お前、新八がどんだけ……!』
『え、だから新八っぱつぁんのことよろしくって言ったじゃん!!』
『お前、よろしくじゃねぇよ!!』
『あ、新八っぱつぁん』
『ぬぁに!?』
『お墓参り来て来れたんだぁ〜。へへぇ〜俺愛されてる〜。』
『愛されてる〜、じゃねぇ!!殴らせろ平助ぇぇぇぇぇ!!』
『わ〜、左之怖い〜。暴力反対!!いじめかっこわるい!!』
(新八っぱつぁん。
こっちで待ってるよ、ずっとね
だから、ゆっくりしてね
焦らずに
ゆっくり
一歩ずつ
毎日を大切に生きて。
そして
出来ることなら
最期は笑ってね?)
.
俺頑張ったヨ
もう今年で77だヨ
我ながらよく長生きしたなぁ、って思うヨ
芹沢先生
平助
左之
俺はちゃんとお前らの分も生き抜いたゼ?
今、俺は明治を生きてる
そして、死ぬんだ。
本当は武士らしく死にたかったとか、なんてネ。
芹沢先生も、平助も、左之も俺に生きろって言って
その約束律儀に守ってるとか俺すっげぇいい奴ダロ?
だからさ、精一杯生き抜いてそっち行くから待っててな
芹沢先生はもう待ちきれなくてこっちにいるかもな
平助も、かな?
左之くらいは待っててくれよな?
さて、そろそろ寝ようか
オヤスミ。
.
「中国、さん……?」
彼(哥哥)はこの間とは比べられない程の力で私を殴り飛ばした。
いや、もしかしたらこれが彼の本当の力でこの間は加減をしていたのでは、とそう思う反面
心の中ではほぼ確信していた、あの時から。
「弟だ弟だと思って許していた我がいけなかったある」
その瞳は見たこともないくらい冷たいもので、彼の周りに冷気が漂っている気さえした。
体の震えが止まらない。
全身から冷や汗が流れて深いだった。
「もう、手加減なんかしねぇある」
「かかってくるある。」
「哥……。」
哥哥(兄さん)と言いそうになり手を伸ばして止まる。
もう、私はこの方の弟ではないのだ。
独立して、一人で生きていけるつもりだった
だが、こうやって突き放したような瞳を見ると堪らなく淋しさが込み上げる。
分かっているのだ、すべて、自業自得なのだと。
だが、今さら止まるわけにはいかない。
だから、私は立ち上がった。
眠れる獅子
我が兄、中国さん。
私はあなたを、倒しましょう。
さようなら
哥哥
.
「分かっています。私のせいで父上が悪く言われているのも……。
分かっています
分かっていますが……あんなに多くの殿方を前にすると、どうしても、喋ることが出来ないのです。
まるで全身の血が顔に集まったかのように、熱くなって……
今、こうして津軽様と隣にいるだけでも、こんなに……。」
私は、何かの病でしょうか……。
そう言って落ちこんだように俯き顔を覆う姿に呆気に取られた。
その顔は真っ赤で、耳まで赤に染まっていた。
(この方は本当に気付いていないのでしょうか?)
そう思うと、彼女が可愛くて仕方なくなった。
彼女はまだ俯いている。
きっとこんなに人前で喋ったのも初めてなんだろう。
「辰姫様……。」
呼びかけると、真っ赤な顔を私に向ける。
本当に自分の身が病だと思ったのかその瞳はうっすらと潤んでいた。
その姿に吹き出してしまいそうになるが、ここで笑ってしまっては、彼女の真摯な気持ちを裏切ってしまうような気がした。
そうして、出来るだけ優しく微笑んだ。
「きっと、辰姫様は恥ずかしがり屋なのですね。」
「え?」
「こんなに顔を真っ赤にさせるなんて、本当に可愛いお方なんですね」
「わ、私を揶揄しているのですか?」
「いいえ、まさか……!
ただ、あなたが気付いていないようなので……。」
「わ、私は……。」
そう言うとまた俯いてしまった。
その姿にまた愛おしさが込み上げる。
彼女はまだ初な少女なんだと、誰かが守って教えなければいけないんだと感じさせた。
「辰姫様。
辰姫様は先ほどうまく笑えないとおっしゃいましたよね?」
「え……あ、はい。」
「きっと、石田様は分かっていますよ。辰姫様のこと……。
だから、辰姫様もあんまり石田様のことばかり気に掛けなくともよいではないですか。」
「ですが、私は……何も……」
「大丈夫です。
あなたの代わりに笑ってくれる人はいつか現れますよ。
†††††††††††††††††††
もーむり(´Д`)
津軽様に
私がお前の代わりに笑ってやるからぁ〜ぁ〜ぁ〜
と言わせたかったけど、見事に玉砕orz