(BL/甘)





「なぁ、僕のコト好き?」

そう云った時の俺の恋人は、にんまりと心底楽しそうな表情をしていた。
元々が美しいといっても過言ではない美形な男だ。歪められたその顔だって、艶っぽい。

「す、好きだぞ?」

「?をつけるなよ」

「…すまん」

ドキドキしてしまう心臓になんとかセーブをかける。
謝ると同時に、ごまかす意味も込めて恋人の身体を押し倒した。

「…わっ、と」

(相変わらず細せぇ身体…)

琉依の華奢な身体は簡単に動かせる。

「征一、ヒトを押し倒すのはいいけど、さ…?」

だが琉依の心はなかなか動かせないのだ。

「イイ声で想いを込めてもっかいな。
これは譲らないよ?」

「琉依は意地が悪い…」

「いーから、ほら」

組み敷いたのは俺で、組み敷かれているのは琉依なのに。
彼はそんなことには動じてはおらず、寧ろ更に愉しそうに目を細めた。

「…こほん」

「咳ばらいが必要なくらいイイ声で行ってくれるの?」

「やかましい」

確かに、イイ声をご所望の可愛い恋人の為に意識はしていたが、からかい口調で言われると恥ずかしい。
クスクスと笑う彼に頬を寄せて、バツの悪さを隠した。

「琉依が好き」

「顔が見えなーい」

当たり前だ。隠しているのだから。
しかし更に悔しいのは、思いっきりイイ声で耳に直に吹き込んでやったのに、琉依にはまだ不満を云う余裕があることだ。

「す、好き」

「…むー」

「なんなんだよっ」

「”琉依”が抜けた」

「それくらい多めにみてよ」

唇を尖らせるという子供のような仕種なのに、琉依がするとその唇の先を啄みたくなる。
だが、実際に行動に移そうとしたら、止められてしまった。

「なに、この手は?」

「待て、だよ。セイ」

「……」

俺は犬じゃない。そう云おうにも恋人の可愛い手は俺の唇を塞いでいる。
琉依は少し苦笑を零し、細く白い脚を俺の脚に巻き付けてきた。

「ね、セイ。ちゃんと云ってくれたらキスしていいよ」

−それからね、セイのシて欲しいことみんなしたげる。

甘ったるく内緒話のように囁かれる。
今まで唇の動きを封じていた手が、俺の首に回される。更に引き寄せられ、密着度が増した。

「……る、琉依…」

手という覆いを外された唇は外気に晒され、涼しさを感じる。
琉依の細く白い指が唇をなぞり、もうあと少し顔を寄せれば触れ合えそうな位置まで迫られる。

ゴクリと喉が鳴った。

彼が欲しい。

「ルゥ」

「ん…?
どおしたの、切羽詰まった顔しちゃって」

ルゥ、ともう一度恋人を愛称で呼ぶ。
クスクスと惚けて笑う琉依の唇に早く噛り付きたかった。

「くそっ、…っ、ルゥ…琉依!愛してるっ!」

噛り付いた。感想も応えも聞く間が惜しい。深く深く、貪る。
少し目を開けて琉依の表情を窺う。琉依はさっきまでの余裕は消えて、とても恍惚として身を委ねてくれていた。

「は…っ、んんぅ…はぁ…」

「…は…っ、苦しかった?」

「セイ…」

何分くらいキスをしていたんだろう?酸素不足でクラクラする。
本能のままに貪ってしまったので心配すると、同じく息を切らした恋人は俺の名を吐息に混ぜた。

「ふふ…ヨクデキマシタ」

ニッ、と琉依は笑った。





純正サディスト

「ルゥはサドだ…」

「お褒めにあずかりどーも」





*Fin*


お題はこちらからお借りしました。
フラッパー少女と僕。