(リブ千/甘)






「リブって沢山の種類の茶葉を持っているのね…」


一ノ姫はずらりと並んだ数々の茶葉に目を丸くした。
彼女にどんなものがあるとかと問われたので並べてみたものの、収集した当のリブすらも少しばかり驚いた程に大量だ。


「はは、殿下がお茶の好みにうるさいものですから」

「それにしたってすごいわ」

「や、確かに…いつの間にか増えましたね」

「いつの間にかって?
−あ、これ変わった香り」

「それは大陸のものらしいですよ」


千尋はひとつひとつ熱心に手にとって、香りを楽しむ。
その間もリブは淡々と話しながら、てきぱきと姫の好そうな茶葉を取りポットに入れた。


「前はこんなにはなかったのですよ」

「そうなの?」

「あなたが私のお茶を美味しいって云って下さったから、舞い上がってしまいましてね」

「え…?」


驚く彼女に掛からないように気を付けながら、熱湯をポットに注ぐ。
適度に蒸らすと、品の良い甘い香りが風に乗って二人を包み始めた。


「市であなたが好みそうな茶葉を見付けるとついつい…
あ、呆れてますか?」

「そ、そんなことない!
嬉しいわ、リブ」

「はは、そう云って頂けるとありがたいです」


けれど、と飲みきれそうもない量の茶葉を見て、彼は苦笑した。
武術も霊力も持たない自分が彼女に尽す術はあまり多くはないくて。きっとこの人ならそんなことは気にしていないだろうけど。


「はい、できましたよ。
熱いので、火傷なさらないように」

「あっ…ありがとう。
うんっ、良い香り」

「非時の香果もありますよ」


千尋の頬がほんのり赤いのは、きっと今出したお茶が熱いせいだけでは無いだろう。
リブはクスリと笑って、お茶を飲む彼女の可愛らしい様子を見詰めた。


「あのね、リブ」

「はい?」

「私がリブのお茶を好きなのは、もっと他にも理由があるのよ」

「おや、なんですか?」


ここには二人以外だれも居ないのに、内緒話をするように耳に小さな唇が寄った。


「リブの入れてくれたお茶だから、こんなに美味しく感じるんだわ」


とびきりの笑顔に、さらりと動いた金色の髪。
そして、そんな殺し文句じゃあ…。

あまりの威力に、思わずポットを持っていた手元が狂いそうになった。
そうきますか、と力無く呟いたリブは、普段の飄々とした態度を崩す他ない。


「や…、まいりました」

「あ、リブ照れてる!」

「かなり照れてしまってますよ。
嬉しいですから」


ほんとあなたときたら私の想像も付かないようなことを言い出すのだから…。
そう云って千尋を見ると、とても優しい顔で笑っていた。


「ふふ、毎日リブのお茶が飲みたいわ」

「…あまり迂闊なことはおっしゃらないほうがいい」

「どうして?」

「浮かれてしまって、毎日でも橿原の宮にお茶をお届けにいってしまうかもしれませんから」

「大歓迎よ!」





END.


お題はこちらからお借りしました。
フラッパー少女と僕。


リブは飄々としてすごい台詞を吐くけれどそれは素直で正直者なだけだと思う。
照れていることも嬉しいこともさらりと認めてみたりするあたり。