(オリジナル/教師×生徒/悲恋)
どちらが悪かったという訳では無い。
否、どちらにも元凶はあったのだ。
「云うことは本当にそれだけ?」
「あぁ」
「…そう」
捺芽が目を臥せるのを僕はぼんやり見詰めることしかできない。それが僕にできる責任の取り方だ。
「じゃあ、本当にお別れなのね…?」
彼女なりにくれた最後のチャンスを無下にすることをどうか赦して欲しい。
「大好きよ」
「有り難う、なつ」
これが最後の抱擁だ。
初めて、青空の下で堂々とキスしたのに。
俺は彼女の温もりを、身体中に覚え込ませる。
恋人である捺芽はそんな俺を哀れむ様に瞳を揺らした。
「さようなら、センセイ」
「さよなら、、」
セーラー服のスカートを翻し、少女は桜並木の道に背を向ける。
歩調は淡々と、着実に。
それでいい、必死に隠そうとしている涙は見えてないことにしてやるよ。
「慎吾…」
あのピンク色の薄い唇から紡がれた俺の名前。
二人の密事の時だけ、そう呼ぶ事を許してしまった。彼女は学校でも大声で呼べたらいいのに、と笑っていたっけ。
さして大きな音量ではなかったように思う。だが、確実に俺の耳に届いた。
風に乗って、
空気を伝って、
確かに俺へ。
「…ごめんな」
このスーツのネクタイは彼女がくれたバースデープレゼント。
これももうする資格は無いだろうから、と無造作に外した。
卒業式も終わったんだ、かまわない。
彼女はまだ将来を決められる程、大人でも無く。
俺も彼女を束縛出来る程、大人ではなかった。
唯、それだけだ。
「愛していたよ」
唯、それだけなのに。
時の長さと短さを知る恋でした。
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