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占い金魚姫

「ええ、そう。そうなの。きっと辛い思いをしたのね」
「金魚姫、わかるの?」
「わかるわ。わたしも、同じ思いをしたもの」
「あら、聞きたいわ」
「わたしの話を?」
「ええ、あなたの話。わたしも話し疲れたもの」
「わたしは占い金魚姫。あなたのことを案じるのが仕事だわ」
「いいじゃない。どうか、話してちょうだいよ」
「……そうね、思い出すのもたまにはいいかもしれないわ」

*

わたしは占い金魚姫。
他人のことを案じるの。
いろんなことを聞かれるわ。一番多いのは恋のこと。
話を聞いては案じるの。
その日も炎天下のキラキラ光る雫のした、ユラユラ揺れる水の底で、誰かの恋を案じていたわ。そしたらね、彼が来た。
「占い金魚姫。
あなたの本当の恋を知らずにあなたは他人を案じる。」
彼は大きな、大きな五本の指で、わたしを掬い上げたの。
体がジリジリ熱くて、息ができなくて、苦しかったわ。
苦しくて苦しくて、叫んだわ。
「苦しいのかい?君は苦しい思いをたくさん聞いたのだろう。けれど君はこの苦しみを一度だって想像できたかい?」
わたしは占い金魚姫。
わたしに触れた人間は幸せになれるんだって。
彼は、哀しそうな目をしていたわ。
彼の幸せを願ったの。
「さあ、水へお戻り。お客さんが待っているよ」
彼はその大きな五本の指を、水の中に沈めたわ。
わたしはそれをすり抜けて、キラキラのしたから見上げたの。
彼は綺麗な女の子と並んで、幸せそうに笑っていたわ。
わたしは占い金魚姫。
たまには自分のことを案じるの。
この苦しみは、息ができないからじゃないみたい。
わたしは占い金魚姫。
わたしに触れた人間は、幸せになったみたい。

*

「さっきの大きな影は、人間だったのね」
「あなたが待っていたから」
「あなたのことを案じるために」
「そう。それならわたしは、そろそろここから出ようかしら」

*

わたしは金魚。
たまには他人のことを案じるわ。
だけどもう、今はただ気ままに泳げるの。
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36歳、春。

僕には好きな人がいる。
彼女は小学生だ。
僕は本気だった。
本気で彼女を愛していた。
二回りも違う、小学六年生の姪を。
僕は決してロリコンではないし、特別モテないわけでもない。
なのに、この娘は僕の心を奪ったのだ。
いつものようにツンツンして愛想がない彼女は、話しかけようとする僕に、食い気味に言った。
「わたしにだって、好きな男の子くらいいるのよ」
小学生だからってなめないでよね、と付け加えて。
「そうなんだ」
僕は声を裏返しさえしてやっとそれだけ言った。
つまり何だろう、僕は遠回しにフラれたのか。
告白もしていないのにフラれたのか。
ある日、姉に彼女を一晩預かってくれないかと言われた。
いやいやいやいや。
むりむりむりむり。
僕は全力でそれを退けた。
彼女が一人暮らしの僕の部屋に泊まる?
はっきり言って、自信がない。
何の自信かって、言わすな。
姉はじゃあいいわと言って実家に彼女を預けることにしたらしい。
最初からそうしろよと思っていた僕の携帯が鳴るのでなんだろうと思ったら母だった。
「手伝ってくれない?」
孫を預かるのは嬉しいが、どうしていいのかわからないから俺に来いと言うのだ。僕は喜んで実家に帰った。
彼女に会えることは嬉しいことに違いないのだ。
部屋で二人、一緒に遊んでいると、彼女は急に無表情になって、いや女の顔になって、僕の耳元に囁いた。
「どうしてわたしを泊めてくれなかったの?」
ぎく、として、僕は尻をついたまま後ずさった。
「えっとね……」
「子供だと思わないでよね。おじちゃんが何を考えてるかくらいわかるんだから」
子供だと思えないから退けたのに。
小学生相手にたじたじになる僕の、その頬に柔らかい温度が触れた。
「おじちゃんが好きよ」
姉さん、ごめんなさい。
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江田と少女

将来何になりたい?
そう聞かれた帰り道の夕暮れ。
わたしの大好きなお兄ちゃん(本人がそう呼べと言った)が、わたしにそう問うた。
わたしは小学3年生だった。
「わかんない」
わたしは確かそう答えた。
するとお兄ちゃんはにっこりして、わたしの頭を撫でた。
「君はね、僕の愛人になるんだよ」
「愛人?それって、お嫁さん?」
わたしが目を輝かせると、お兄ちゃんはやっぱりにっこりしてそんなもんだよ、と言った。
それがちょっと違うなぁと理解したのは、それから5年経った時。
わたしは初めてを、お兄ちゃんに捧げた。
悪い気はしなかった。
なんだか周りより早く大人になれた気がして、ちょっと誇らしくさえあった。
だけど今思えば、あんな最低な男はいない。
高々13歳の少女にその男は汚い肉棒を見せつけたのだ。
今やお兄ちゃんはただのおやじになっていたけど、わたしは本当に彼の愛人になっていて、そしてわたしは未だに彼以外の男を知らない。
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靴がないから、外に出れない!

もしもし?ああ、俺俺。
ちげえよ、詐欺じゃねえよ。お前ごときに詐欺くるかよ。
ああ切るな切るな、マナブだよ。
お前な、わかれよ。毎日会ってんだろ。
ああそうだよ昨日は土曜だから会ってねえよ。大体だよ。大体毎日だよ。わかれよ。
え?そうだよ、用があるからかけたんだろ。お前暇だろ、遊びに行こうぜ。
え?そうだな……お前何したい?
駄目だよ、それは。こないだ失敗しただろ。カブトムシとかなんかそういうのは東京じゃとれないんだよ。どうしてもやるってんなら一人でやれよ。網持って。そうそうキャップ被って。お前本当に高校生か?
ああ心配しなくても職質はされないよ。補導はされても。
え?いや、まだ俺とお前だけだけど……誰か誘う?
スイカ?あああいつは駄目だよ。誘っても出て来ないんだよ。
何でって、知るかよ。何かわけわかんないこと言ってさ。そうそう。
「靴がないから、外に出れない!」
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ハローハロー

ハローハロー。少女は躍りながら歌いました。
何?と少年が尋ねてきましたが、少女には意味がわかりませんでした。
少女は遠い海の果てからやってきたので、少年の言葉は一つもわからなかったのです。
だけど少年が少女の手に触れると、なんだか心で会話が出来る気がしました。
君はさっきから僕の名前を呼ぶね。少年は微笑みました。
あなた、ハローっていう名前なの?少女は不思議そうに言って、少年の手を握り返しました。素敵ね、ハロー。わたしの国の挨拶の言葉よ。
そうなんだ。素敵、と言われてハローは体を縦に揺らしました。君の名前は?
ライララっていうの。少女は恥ずかしそうに頬を染めました。
ライララ、君こそ素敵だ。まるで歌のよう。
ありがとう、ハロー。ライララはハローの頬に自分の頬を寄せました。
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