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36歳、春。

僕には好きな人がいる。
彼女は小学生だ。
僕は本気だった。
本気で彼女を愛していた。
二回りも違う、小学六年生の姪を。
僕は決してロリコンではないし、特別モテないわけでもない。
なのに、この娘は僕の心を奪ったのだ。
いつものようにツンツンして愛想がない彼女は、話しかけようとする僕に、食い気味に言った。
「わたしにだって、好きな男の子くらいいるのよ」
小学生だからってなめないでよね、と付け加えて。
「そうなんだ」
僕は声を裏返しさえしてやっとそれだけ言った。
つまり何だろう、僕は遠回しにフラれたのか。
告白もしていないのにフラれたのか。
ある日、姉に彼女を一晩預かってくれないかと言われた。
いやいやいやいや。
むりむりむりむり。
僕は全力でそれを退けた。
彼女が一人暮らしの僕の部屋に泊まる?
はっきり言って、自信がない。
何の自信かって、言わすな。
姉はじゃあいいわと言って実家に彼女を預けることにしたらしい。
最初からそうしろよと思っていた僕の携帯が鳴るのでなんだろうと思ったら母だった。
「手伝ってくれない?」
孫を預かるのは嬉しいが、どうしていいのかわからないから俺に来いと言うのだ。僕は喜んで実家に帰った。
彼女に会えることは嬉しいことに違いないのだ。
部屋で二人、一緒に遊んでいると、彼女は急に無表情になって、いや女の顔になって、僕の耳元に囁いた。
「どうしてわたしを泊めてくれなかったの?」
ぎく、として、僕は尻をついたまま後ずさった。
「えっとね……」
「子供だと思わないでよね。おじちゃんが何を考えてるかくらいわかるんだから」
子供だと思えないから退けたのに。
小学生相手にたじたじになる僕の、その頬に柔らかい温度が触れた。
「おじちゃんが好きよ」
姉さん、ごめんなさい。
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