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占い金魚姫

「ええ、そう。そうなの。きっと辛い思いをしたのね」
「金魚姫、わかるの?」
「わかるわ。わたしも、同じ思いをしたもの」
「あら、聞きたいわ」
「わたしの話を?」
「ええ、あなたの話。わたしも話し疲れたもの」
「わたしは占い金魚姫。あなたのことを案じるのが仕事だわ」
「いいじゃない。どうか、話してちょうだいよ」
「……そうね、思い出すのもたまにはいいかもしれないわ」

*

わたしは占い金魚姫。
他人のことを案じるの。
いろんなことを聞かれるわ。一番多いのは恋のこと。
話を聞いては案じるの。
その日も炎天下のキラキラ光る雫のした、ユラユラ揺れる水の底で、誰かの恋を案じていたわ。そしたらね、彼が来た。
「占い金魚姫。
あなたの本当の恋を知らずにあなたは他人を案じる。」
彼は大きな、大きな五本の指で、わたしを掬い上げたの。
体がジリジリ熱くて、息ができなくて、苦しかったわ。
苦しくて苦しくて、叫んだわ。
「苦しいのかい?君は苦しい思いをたくさん聞いたのだろう。けれど君はこの苦しみを一度だって想像できたかい?」
わたしは占い金魚姫。
わたしに触れた人間は幸せになれるんだって。
彼は、哀しそうな目をしていたわ。
彼の幸せを願ったの。
「さあ、水へお戻り。お客さんが待っているよ」
彼はその大きな五本の指を、水の中に沈めたわ。
わたしはそれをすり抜けて、キラキラのしたから見上げたの。
彼は綺麗な女の子と並んで、幸せそうに笑っていたわ。
わたしは占い金魚姫。
たまには自分のことを案じるの。
この苦しみは、息ができないからじゃないみたい。
わたしは占い金魚姫。
わたしに触れた人間は、幸せになったみたい。

*

「さっきの大きな影は、人間だったのね」
「あなたが待っていたから」
「あなたのことを案じるために」
「そう。それならわたしは、そろそろここから出ようかしら」

*

わたしは金魚。
たまには他人のことを案じるわ。
だけどもう、今はただ気ままに泳げるの。
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