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10.結末は意外と単純で色褪せたものだ by「首なし人形」

(アラロス/マイセン+ミハエル)






「あ〜あ。結局、プリンセスは初恋のお相手と婚約かぁ〜」


マイセン=ヒルデガルドは厭味ったらしいくらいの青空を見上げた。
第一王女の婚約を祝い、夜にはきっと美しい花火が打ち上げられることだろう。
それを待たず、金貸しコンビは旅立つことにした。


「マイセン、あんな女の何処がいいのか僕にはわからないよ」

「とか云ってミハも気に入ってたろ?」

「何言ってるの。僕はマイセン以外どうでもいいよ」

「そうか〜?俺を通さず人間と会話するお前、初めて見たぜ?」


嬉しそうに云ったマイセンに、ミハエルは不快そうに眉を寄せた。本当に嫌そうに。
それにしても、昼の暑い砂漠を歩いているにもかかわらず、悪魔はとても涼しげだ。


「マイセンより他の男を選ぶ愚鈍な女なんて、殺してやりたいくらいなのに。マイセンさえ頷いてくれれば、今すぐにでも−」

「だめだって」


マイセンは苦笑して、青空からミハエルに目を移した。
『マイセンより他の男を選ぶ女』なんてたくさんいる。ナンパしたってマイセンよりこの悪魔にご執心なさるお嬢さんの方が多いくらいだ。


「女の子には優しくだぞーミハ」

「人間なんてどうでもいいよ」

「俺は良くないの」

「そんな…!マイセンっ、そんなにあの女のことをっ?愚かで下等で弱い生き物だよ?それなのにマイセンはあいつを選ぶんだね…。僕よりあんな人間を……ぶつぶつ」


興奮したミハエルはまた何やらぶつぶつと愚痴を零し、自分の世界だ。こうなってしまうと、マイセンの言葉すら届かない。

そんな狂った悪魔の隣は妙に静かだった。
マイセンはもう一度ギルカタールを振り返る。
燦燦と降り注ぐ太陽が自分達を攻め立てるように、ジリジリと焼け付いた。陽炎がゆらめき、ギルカタールの街を歪めてみせる。


「…愚かなのは俺もなんだよ」


彼女にも幸せになって欲しいと思う。我が妹同様、幸せに。
そう思ってしまうほどに好いてしまった。


「俺は色男だ。
だが、一途に愛せるかと云えばそれは…ちょっと、な」


これは独り言だ。
独り言にもナルシシズムは忘れない。
でも、らしくないことを自分でも云ってる自覚があった。


「プリンセス・アイリーンは愛されるべき女だ。一心に愛されるだけの資質もあり、想いを寄せる男も多い、と」


そんな中で自分を見てくれるなんて有り得ない話だし、例え好いてくれても自分は中途半端なままだ。
こんな男に掻っ攫われては、婚約者候補達は報われないにも程がある。


「ねえねえ、マイセン!僕思い付いたよ!あの女を掠いに行こう」

「は…?」

「マイセンが落ち込むくらいなら、あの女を殺してでも連れて来ちゃった方がいいよ。ね、そうしよう」


自分の世界から戻ったミハエルは、解決策を見つけたらしい。さらさらつやつやの金髪が揺れる。
ああ、綺麗な髪が羨ましいなーなんてぼんやり他人事のように考えながら、マイセンはまた苦笑した。


「だーめ。プリンセスは婚約中の身だ」


結婚も近いだろう。なにせ、婚約候補の中で1番性格の悪い奴に捕まった。あの男は妙に純で可愛いところもあるが、独占欲も支配欲も強そうだ。


「ええ?!そんなの破談させちゃえばいいよ。マイセンがあの女の命が大事なら殺したりしないで、連れ回せばいい。僕は殺したいほど邪魔に思うけど、マイセンのためなら僕、我慢する。ね、マイセン」

「ミハ…お前、マジでプリンセスのこと気に入ってたんだなー」

「は…?どうしてそうなるの」


あんな女どうでもいいよ、とミハエルはもう何度も聞きた台詞をまた口にする。
だが、あのミハエルが饒舌になり、更に旅の同行を許せるほどには、ミハエルは彼女を気に入っていたのだろう。


「んーまぁ、なんでもいいや」


しかし、それには気付かないふりをする。ついでに自分の想いにも気付かないふりをしよう。
報われないことには慣れっこだが、そこまで想うのは一人で十分だ。


「さぁ、ミハエル!俺らは旅立とう!あの美しい青空に向かって!!」

「ん?マイセン、空を飛びたいの?」

「え…あ、うん。そういう意味じゃなかったんだが、そう…かもな」

「いいよ。僕、太陽は大嫌いだけど、マイセンが飛びたいのなら」


いろいろ勘違いしたミハエルの背後に、バサリと黒い羽根が羽ばたいた。
眩しい空は寒いどこか暑そうだ。





そう、これでいい。

彼女の幸せを願うなら。



結末は意外と単純で色褪せたものだ。

「あー!あっけな!」





.



9.報復する日は以外と近い。負けてたまるか by「首なし人形」

(クロアリ/ブラアリ/甘)





「それは、私の為にお洒落してくれたのかい、お嬢さん?」


確かに、今日は普段は着ない漆黒のドレス姿。
ブラッドのからかう様な口調の中には、期待とかそういうものも多少なりとも含まれているような気がする。


「随分と傲慢なのね」

「傲慢?そんなことはないだろう」

「傲慢よ。
男はもっと謙虚で在る可きだわ」


そして女はもっと自我を持つ可きだ。
面白そうに首を傾げるブラットにムカついたので、彼のだらし無く緩められたネクタイをピンと引っ張ってやる。


「女は自分の為に着飾るの。
自分の為と当たり前の様に云うのは傲慢だわ」


例えそれが、恋人からの賛辞を目的としていても。


「お洒落した自分を褒めてもらって、自分がいい気分になりたいだけよ。
間違っても、あんたを喜ばそうとしているんじゃない」


ふん、と怒った素振りでネクタイを離す。
かなり力をいれていたので、多少締まったようだ。だるそうな雰囲気が少し引き締まって見える。


「…ふ」

「な、なによ」

「ふふふ…ははははっ」


と、途端にブラットは笑い出した。可笑しくて、嬉しくて仕方ないといった感じだ。頬がらしくなく赤い。


「ちょっと!なんで笑うの!」

「いや…くくっ、ア、アリス…」


笑いを堪えようとしても上手くいかないらしく、口元に手を当てて苦しんでいる。
なんだか悔しいので、そのまま窒息死してしまえとアリスは思った。


「ふふふ…お前は可愛いことばかり云う」

「なによ、意味がわからない」

「好きだよ、とても似合っている」


愛おしそうに抱き寄せられ、甘い声で囁かれる。それが世辞でも、やはり褒められて悪い気はしなかった。可愛げのない言い方をしてしまったものの、元々求めていたのはこの言葉なのだから、当たり前だが。
ブラットはそんなアリスの心境を見透かしたように、微笑んだ。


「これ、私が贈った服だろう?」

「そうよ…着なきゃ勿体ないから…その…」

「見立てに間違いはなかったな。
本当に似合っているよ」


ちゅ、と手の甲にキスを贈られる。
腰を抱かれたままなので身動きがとれず、アリスは俯いて赤い顔を隠した。


「…ずるいわ。
たかが服でそんな幸せそうな顔しないでよ」

「隠しきれないほど幸せなんだ。
それに、君は私のこんな様子が好きだろう?」

「なによ、解ったようなこと云って。
………いつかあんたを見返してやる」


こんな虚勢もいつまで持つだろうか。
たぶん、陥落する日は近い。そしたらまた報復してやるけれど。


「楽しみにしているよ」

「…」

「なぁ、ところでアリス」

「な、なに?」

「勿論、君は男が女に服を送る意味を理解した上で着てくれたのだろう?」


ブラットはにやりと艶やかな笑みを浮かべる。片手はもう既にスカートの中を探っているくせにいやらしいやつだ。


「…ええ、わかってるわ」

「!」


自分から深い口付けを仕掛けると、マフィアのボスは少し驚いたような反応をみせた。探っていた手が静止する。


「……っ」

「ふふ、あんたなんか簡単に負かしてやるんだから。ブラット=デュプレ」


どうやら、今日は引き分けのようだ(笑)





.
アリスはツンデレでいい。笑


8.かね、カネ、金。世を牛耳るは紙と硬貨 by「首なし人形」

(アラロス/カティアイ/商人ED後/甘)






「どっ…どうもっ」

「毎度あり」

「また頼むね…っ」

「はい、よろしくお願いします〜」


真っ当な普通の商人である私は、にっ、と悪戯っぽい笑みを浮かべて、客を見送った。
逃げるように走って遠ざかる客は、私を恐れているわけではないのだろう。きっと…こいつだ。


「おやおや、あんなに慌てて。
せっかちな男ですね〜」

「…………」


呑気な声の主は気配こそなかったがずっと後ろに居た。姿あれど気配は無い。
恐ろしい元・希代の暗殺者、その人だ。


「ねぇ、カーティス=ナイル。
あんたが護衛なんかやってくれるから、みんな私を見ると逃げてしまうのよ」

「ふふ、僕が居ては商売あがったりですか?」

「それが不思議とそうでも無いのよね。
あんたが1番よく知っているはずよ?」


だってカーティスはずっと私の側に居てくれる。
厭味っぽくそう云うと、彼はクスッと笑った。

商売の方は、商人としても普通でなくなってしまう程に大繁盛だ。
噂は千里を駆け、商人のボディーガード・カーティスの名は瞬く間に広まってしまった。


「カーティスを護衛に雇えるほどの商人ってことで、有名になっちゃったもの」

「よかったじゃないですか。
僕が長年払ってきた有名税は無駄にはならなかったわけだ」


その分、仕事内容もレベルアップして、入手が難しいものまで依頼がくる。
しかし、入手するのもまたカーティスが居るので、どんな危険な場所でも行けてしまうし、情報も有り余る。


「もはや、あんたが商人やってるようなものよ…」

「…?
おかしなことを云いますね。
商人はアイリーンですよ?僕はあなたに雇われた護衛だ。報酬ももらってる」

「報酬、ね……」


本人はけろりとしたもの。しかし、その『報酬』にも問題がある。
彼は私の『側にいること』を報酬としている。金も絡んでいないのだ。


「なんだか申し訳なくなってしまうわ…」

「利用できるものは利用するんじゃなかったんですか?」

「そうだけど…これじゃ私は一人じゃ何も出来ないみたいじゃない」


実際、その通りなのだ。
飄々として私にくっついてくるカーティスは何処吹く風だが、流石に今の状態では自信をなくしそうだ。


「アイリーンしか出来ないことなんですけどねぇ」


しょんぼりしてしまった私に、カーティスは苦笑を漏らす。
彼は云う。自分を従えられるのは私だけだと。そして、使い方をよく心得ていると。


「ねぇ。だからご褒美下さいよ」

「褒美?いいわよ、カーティスにとっては端金でしょうけど、払えるくらいには稼いで…」

「違います。金は要りませんって」

「じゃあなに?身体でも要求するの?」

「それも欲しいですが、ただ貴女の身体だけ貰っても仕方ないので結構」


にこにこにこ。私の提案にいちいち断りを入れながら、護衛君はとてもご機嫌だ。
相変わらず何を考えているか解らない。


「報酬じゃないんですよ?僕がねだっているのはご褒美です」


にんまりして、そのいやに艶めかしい唇を私の頬に押し当てる。それだけでドキドキしてしまうほどにはカーティスのことが好きだ。
彼は唇へキスはくれない。


「…じゃ、なんなの」

「あれ、照れてます?」

「ばっ…ばっか!ちがうわ!」

「顔赤いですよ?」

「夕日のせいよ」


陳腐な言い訳だけど、それしか思い浮かばないくらいに混乱している。
近い。抱きしめられてあちこちにキスされる。それどもやっぱり唇へのキスは無かった。


「ね、アイリーン」

「………」

「解ってるんでしょ?」

「………」


照れていることを肯定させたいのか、『ご褒美』の意味を理解しているんだろうと聞うているのか。
カーティスの表情はどちらとも取れる。解ることはその顔が憎らしいくらい愛おしいということ。



「…好きよ」


これは『ご褒美』だ。
彼が時々、私にねだる言葉。


「あんたが居てくれて助かってる」


彼が側に居る意義を私が口に出すと、途端に不安そうに揺れる紅玉の瞳。
それが、『ご褒美』に、とろけそうな程に甘く歪む。


「カーティスが大好きよ」


お金より、口へのキスより、身体の関係より、彼が欲するのは私の気持ち。
本当はもう私の気持ちもカーティスのものだから、褒美には当たらないのに。
こんなだから未だに恋人未満なのだ。


「ふふ、『好き』から『大好き』にレベルアップしましたね〜」

「!」

「じゃ、次は『愛してる』かな〜。楽しみだな〜。ね、アイリーン?」

「ば、ばっか!そんな簡単には行かないわ!!」


…彼はもしかしたら恋人未満を楽しんでいるのかも知れない。
貰えるものは貰う主義な彼にとって、お金はもう十分なものらしい。


「結婚までは清い仲でいてあげます。まずは内側から、貴女を僕でいっぱいにさせてもらいますからね」


代わりに…私はとんでもないものを要求されているみたいだ。




























「………ん?結婚!?」

「はい、そうですよ。しますよね?」

「え、だって私達、恋人ですらな…」

「今から恋人です」

「はぁ?!」

「アイリーンは僕が大好きなんでしょう?僕も貴女が大好きです、愛してます。ほら、もう恋人でもいい頃ですよね」

「……………………………」


もう、いやだ。




かね、カネ、金。世を牛耳るは紙と硬貨

だけどこいつの頭を牛耳るものはきっとおかしな電波に違いない!!





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4.嗚呼その笑顔を切り裂いてやりたい by「首なし人形」

(ハトアリ/ユリアリ/甘)





「やっ、…ん、」

「嫌なのか?」


本当に?とユリウスの声が耳元を擽る。
しかしそれは問いというのではない。だって彼は確実を持って言ってる。


「にしては、ほら」

「んんっ」


嬉しいんだろう?とキスをくれる。

ユリウスは気付いているんだろうか。
普段…否、出会って暫くは仏頂面しかしなかったくせに。今の表情といったら。


「…むかつくわ」

「そうか?
だが、俺は好きだ。可愛い、アリス」


絶対こんなこと言えない人だと思っていた。
勘違いだとは言わせない。
でも、変わったのは真実で。




嗚呼、その甘ったるい笑顔を切り裂いてやりたいわ。





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